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『オレの生徒はお嬢様!?』  作者: 宇都宮かずし
第二部 オレの生徒は男性恐怖症!?
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第三局 精神的外傷 一本場『鈍感で難聴』

 生徒会室と校門でのゴタゴタですっかり疲れきっていて、牛丼屋に寄る元気も自炊する気力もなくなっていたオレ。


 帰宅して着替えを済ませると、買い置きのカップ麺にお湯を注いだ。


 じゃ、出来上るまでお手紙でも読ませて頂きますか。


 そんな軽い気持ちで読み始めた北原さんからの手紙。


 ものすごい達筆な筆文字で『一筆啓上申し上げます――』などと始まった手紙――

しかし半分も読まないうちに、オレは慌てて携帯を掴んでいた。


 最近の発信履歴の一番上にあった相手に再び発信するオレ。


 そしてコールすること四回――


『もしも――』

「タイヘンだ姉さん! タイヘンタイヘンタイ! 姉さんヘンタイだっ!!」

『そんなに誉めるな、照れるじゃないか♪』

「誉めねぇーから! てか、その切り返しも予想外だよっ!!」


 そう、電話の相手はケガで入院中の双子の姉。オレが女装して、超お嬢さま学院で教師なんてやるハメになった元凶である。


『あっ! 友也、ちょっと待て――(げん)さん、その(ナン)、ポンで』

『あちゃ~、特急券食われちまった』


 使い古されたガラケーから洩れる声。しかし、そこから聞こえる単語(ワード)は病院ではまず聞かない単語だ。


「ちょっと待て、姉さん……今どこにいる?」

『どこって、入院しているんだ、病室に決まっているだろう』


 確かに夕食前のこの時間、病室に居ないとおかしい。


『てゆうか、連日の無断外出が婦長にばれて怒られたばかりだし。しかも今度やったら、お尻に針のないブッ太い注射を挿すって脅かすんだぞ。ひどいと思わないか?」


 思わないし自業自得だ。てゆうかそれよりも……


「だからって病室で麻雀なんてやるなーーっ!!」


 (ナン)だとか、ポンだとか特急券とか、どう聞いても麻雀用語だろ!


『細かい事は気にするな。お金掛けているわけじゃないし、もう南四局(オーラス)だ』


 全く悪びれる事のない姉さん。そうゆう問題じゃないだろ。


『って銀さん、それロン! ダブ南、混一色、ドラ1、満貫!!』

『って、またトモちゃんの一人勝ちかっ!?』

『ヘヘェ~、これで夕食のプリン、三つゲット♪』


 夕食のプリンだと!?


「コラッ! 他の患者の病院食巻き上げていんじゃねぇよっ!!」

『だから細かい事気にするな。背中がすすけているぞ』


 細かくねぇよ! ある意味、金掛けるよりタチ悪いわ!


『それよりヘンタイの姉を持つ弟よ。何か用があったんじゃないのか?』


 っと、そうだった! 今は姉さんの素行に突っ込んでいる場合じゃねぇしっ!


「そうそう、姉さん、姉さんっ! ラ、ララ、ラブレター貰ったんだけど……」

『ラブレター? へぇ~そう、そいつぁおめでとう――で、なに? ノロケ? 切るよ?』

「っんな訳あるかっ!」


 とたんにテンションの下がる姉さんと、逆にテンションを上げるオレ。


「貰ったのはオレだけど、違くって姉さん宛てで、いや今の姉さんはオレだけど、じゃなくて――」


 って、自分でもなに言ってるのか分からなくなってきた……


『ちょっと落ち着け友也、深呼吸だ――いくぞ。せーの、ひっひっふー、ひっひっふー』

「ひっひっふー、ひっひって、ラマーズってる場合じゃなくて! 真面目に聞いてくれよ!」

『分かってるって。だいたいの話しは理解した……でもラブレターくらいで、なにもそんなに慌てる事ないだろ?』


 あの説明で理解出来るとは、さすが双子……


 確かに昔から結構な数のラブレターを、男女問わずに貰っていた姉さんにとっては、たいしたことじゃないかも知れないけど、オレはラブレターなんて貰うの初めてなんだから仕方ないだろ!


 まあ、厳密に言えば、これも姉さん宛てだけど。


『で、その子はどうゆう子で、どこで知り合った? クラスの子か?』

「いや、クラスの子じゃなくて――」


 あまり興味なさそうな感じで尋ねる姉さん。オレはその子と知り合った経緯と手紙の内容を話した。響華さんの事やトサカくんのことなんかは以前に説明してあるので、すぐに理解してくれたようだ。


『ふ~ん、なるほどね……まっ、結論から言えば、友也に全部任せた』

「まる投げかよ!?」


 それは無責任過ぎるだろ? しかし姉さんは、それがさもあたり前のように――


『当然だろ。その子はあたしの見てくれ……てか、あたしの格好した友也の見てくれに惚れたミーハーちゃんじゃない。お前がその子に取った行動や言動を見て、お前の内面に惚れたみたいだ。なら、あたしがとやかく言う事じゃない』

「そ、そうなのか……? い、いやでも……実際、今のオレは姉さんの身代わりなワケだし……」

『それも含めて友也に任せる。ただ手紙の内容を聞いたかぎりじゃ、その子は真剣だ。どんな形でも結論はお前が出せ。それがケジメだ』

「いや、でも……正体がバレる可能性だって……あの……」


 姉さんの言う事は分る。

 それでも語尾がどんどん小さくなるオレ――恋愛経験の乏しさが恨めしい。


『それと、あたしが任せると言ったんだ。本気で付き合う気があるなら、男だってバラしてもいい。そのせいで計画が失敗しても仕方ない――まっ、真琴ちゃんには可哀想なことするけど……』


「なんでそこで、真琴ちゃんが出てくる?」

『なんでもない――いやでも、危機感が出るって意味では逆にプラスか? あの子、根は結構大胆だし』

「だから、なに言ってんの?」

『何でもないって。ここは聞こえなかったことにしておけ。主人公ってのは、鈍感で難聴じゃないと話がなり立たん』


 なんのこっちゃ? 意味分らん。


 でもケジメか……


 確かに姉さんが言うように、手紙からはあの子の真剣さが伝わってくる。なら、正体を明かす明かさないは別にして、こっちも誤魔化したりせず誠意を持って対応しないと失礼だろう。


 でも、出来ればバラしたくないなぁ――男だってバラさずに誠意を見せる方法かぁ……


 オレがそんな事を考えていると、携帯からはゴクゴクと何かを飲んでいるような音が聞こえてくる。そう言えばオレも喉が渇いたな。


 携帯片手に立ち上がり、冷蔵庫からウーロン茶のペットボトルを取り出しグラスに注いだ。

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