第二局 夕暮れの校門前 二本場『サイ☆アズ』
お兄ちゃんの天然なボケに思わず突っ込みを入れてしまったわたしは、一緒に覗いていた響華さまに口を塞がれ、校門の影へと引っ張り込まれていた。
「…………」
門柱の影から、ジッとお兄ちゃんの方をうかがう響華さま――
てゆうか、口を塞がれるのは仕方ないにしても、鼻を摘まむのは勘弁してください。マジ苦しい……
「…………どうやら気が付かれなかったようですわね」
お兄ちゃんが行ったのを確認して、ようやく解放されたわたし――
「ぷはぁ~、死ぬかと思った……って、それどころじゃなくてっ!」
わたしは響華さまの方へと振り返り、その胸ぐらを掴んだ。
「ちょっと響華さま! 今の見ましたっ!? どうなってるんですかっ!? どうゆう事ですかっ!? どうしてお兄ちゃんがラブレターなんて貰ってるんですかーっ!?」
「ちよっ、真琴さん……く、くるし……おち、落ち着いて……」
「えっ? あ……し、失礼しました」
ほぼ無意識に、響華さまの胸ぐらをグラグラと揺さぶっていた事に気付き、慌てて手を離した。
「ふ~っ、まったく……真琴さんは、淑女としての自覚が足りませんわよ」
お小言を言いながら、曲がったタイを直す響華さま。
お兄ちゃんの相方を目指すなら、ここは自分で曲げたのを棚の上に投げっぱなしジャーマンで放り投げて、
『タイが曲がっていてよ……』
とか言う所なのだろうけど、今はそんな事をしている余裕はない。
「お兄ちゃん、女の子からラブレターを貰うなんて絶対初めてですよ。あれがラブレターだなんて気がついたら、浮かれまくりますよ、きっと」
「初めて? 意外ですわね。女性にはモテそうですのに」
意外? そう、意外だろう。
お兄ちゃんは背は少し低いけど、見た目は悪くない。優しいし、友達思いで空手も強い。なのになぜモテないのか?
それは――
「お兄ちゃんの通っていた学校の女子の間では、お兄ちゃんは二日に一度は姉のベットに潜り込む重度のシスコンだって、ウワサが流れていましたから。無論、ガセですけど」
「はぁ? 」
「ウワサを流した張本人である、姉の友子さんから直接聞いた話しなので間違いありません――姉より優れた弟と、姉より先に恋人を作る弟なんて存在させねぇ! って言いながら笑ってました」
「あ、悪魔ですか? そのお姉さんは……」
頬をひきつらせ、苦笑いを浮かべる響華さま。
確かにイタズラにしてはドが過ぎる気もするけど……
でも、わたしの気持ちを知っている友子さんが、わたしの事を応援してくれているんじゃないかとも思う――
「しかーしっ! そのデビル友子さん亡き今っ! 今度はわたしが悪魔の汚名を被るしかないっ!!」
「いや、お姉さん亡くなっていませんわよね? 確か怪我で入院してるだけですわよね?」
「こまけぇこたぁいいんですよっ!! それより響華さまっ!」
わたしは真剣な表情で、響華さまの方へ振り向いた。
そして容姿端麗、頭脳明晰で通っている生徒会長さまは、それだけでわたしの意図を察してくれたようだ。
「分かっていますわ――ここは一時休戦。共同戦線とまいりましょう」
そう言って右手を差し出す響華さま。
「はい! ラファール学院最強ユニット、ユイ☆アズならぬ西☆東コンビの結成です」
昨日の敵は今日の友っ! わたしは差し出された響華さまの手を、しっかりと握りしめた。
「そうと決まれば、まずは作戦会議です、響華さま」
「そうですわね、とりあえず生徒会室に移動しましょう」
「はい」
こうして、沈み行く夕陽を背に並んで生徒会室に向かう、わたしと響華さまのサイ☆アズコンビ――お兄ちゃんゲット作戦の開始である。
「くっくっくっ……見ているがいい小娘。ポッと出の一年坊主が、メインヒロインのわたしと張り合おうなんて百年早い事を教えてやるわ……」
「誰がメインヒロインですか……? それに先程から言葉づかいが悪いですわよ」
「こまけぇこたぁいいんですよっ!!」




