第一局 護身術 二本場『戦術的撤退』
「だらしのない……」
「情けないです南先生……」
そして、そんなオレを白い目で見てる取り巻きコンビ……
し、視線が痛い……
なんでこの学院の生徒の視線は、こんなにも攻撃力が高いんだ?
そこらのテンプレヤンキーのガン付けより余程殺傷力が強いぞ。てゆうか非公認で(仮)とはいえ一応は顧問なのに、立場が低く過ぎないかオレ?
そんなオレの素朴な疑問をよそに、取り巻きコンビは揃って深くため息をつき、椅子から立ち上がると――
「響華さま、落ち着いてください。響華さまらしくありませんよ」
「真琴さんも落ち着いて――良かったらハーブティーでも淹れましょうか?」
完全に的がハズレて来た舌戦を繰り広げる二人へと歩み寄り、声を掛ける眼鏡っ娘コンビ。
「そ、そうね……どうかしていたわ……」
「あ、ありがとう……いただきます」
薄笑いを浮かべ、ドヤ顔でこちらを見ている二人組の介入で、すっかり落ち着きを取り戻した響華さんと真琴ちゃん。
すみませんね、不甲斐ない先生で……悔しくなんてないんだからねっ! グスン……
「先生はどう思う? ヤッパリ、護身術は必要だよね?」
真琴ちゃんは、二葉さんの淹れた紅茶を一口飲むと、心の涙を流していたオレの方へと話しを振って来た。
護身術ねぇ……
「別に響華さんの肩を持つ訳じゃないけど、付け焼き刃の護身術なんて意味ないんじゃないかな」
「え~? だって護身術教室とか講座いっぱいあるし、『女性の為の護身術』とか『誰でも簡単護身術』って言ってるよ」
「いや……ああいうは、ほとんど金儲けでやっているだけだから。実戦では、ほとんど役に立たないよ――それに護身術なんてやって下手に自信付けても、それはそれで逆に被害が大きくなりそうだから……」
「ムゥ~~! じゃあ先生は、暴漢に襲われも無抵抗でやられろって言うのっ!?」
「い、いや、そうゆう意味じゃ……」
真琴ちゃんの言葉に、全員の視線がオレに突き刺さる。
だから痛いって……
いつの間にやら、状況は完全に四面楚歌になってるし……
って、いや……四面じゃない。四方だな。
突き刺さる視線は四つではあるが、オレの後ろに居た『逃がしませんオーラ全開』の響華さんが席に着いている今、視線は四面ではなく四方……つまり、後ろがガラ空きだ。
オレは妙案を思いつき、席を立った。
「わかりました。では先生が、みんなにも出来る護身術を一つ伝授しましょう」
「ホントッ!?」
「面白そうですわね」
笑顔を見せる真琴ちゃんと響華さん。
これからする事を考えると、少し心が痛むなぁ……
「はいっ! じゃあ全員立って、横一列に並んで下さ~い!」
「なんでわたくし達まで……」
「そんなの必要有りませんのに……」
ヤレヤレと言った顔を見せる一恵さんと二葉さん。
こいつらには、全く心が痛まないなぁ……
「ほらほら、覚えておいてソンはないから」
渋る二人を立たせ四人を並ばせると、オレはテーブルを挟んでその前に立った。
元々ムダに広い部屋だ。四人が並んで、多少動く程度なら何の問題のない。
「では皆さん、まずは身体の力を脱いてリラックスして下さい――そしたら視線を外さないようにして、正面から相手を睨み付けます」
言われた通りに四人は、オレの方を睨み付ける。しかし、そこはやはり女の子。どうしても迫力に欠けている。
真琴ちゃんに至っては頬まで膨らませているけど、その姿は逆に可愛と感じていまう。
冷たい視線と、非難する視線の攻撃力はあんなに高いのに……
まぁ、とりあえずそれはおいといて――
「次に右足を一歩引いて…………そのまま回れ右! 後方へ向かい全力ダッシュッ!!」
「えっ!?」
「ちっょ!? まっ……」
後方から戸惑いの声が上がっているが、オレの方はすでにダッシュを始めている。
そして出入り口のムダに高そうな扉に手を掛けたところで、オレは一度振り返ると――。
「これぞ究極にして至高の護身術、戦略的撤退! と、いうわけで、皆さんごきげんよ~♪」
背後からの声をスルーして、オレはそのまま外へと飛び出した。




