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『オレの生徒はお嬢様!?』  作者: 宇都宮かずし
第二部 オレの生徒は男性恐怖症!?
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プロローグ 

挿絵(By みてみん)


『この物語は、南先生と生徒会三人娘の日常を淡々と描いたものです。過度な期待はしないで下さい。また掲示板から3メートルは離れて見やがって……』


「ボツッ!!」


 背後から掛かる声に、ノートパソコンのキーボードを叩く手が止まる。


「いや、ちょっと待って……書き出し2行で、いきなりボツはないんじゃない? てゆうか、まず突っ込んでよ。『お前はどっかの三姉妹かっ!?』とか『保坂先輩、気持ち悪い』とか……」


 オレは椅子に座ったまま振り返り、後ろに立つ少女を見上げ反論した。


 しかし、少女は全く臆する事無く、腕組みをしながら切れ長の瞳でオレを見下ろしている。


 黒く綺麗なストレートのロングヘアーに整った顔立ち。そして自信に満ち溢れた立ち振る舞い――


 彼女こそ世界屈指の大財閥、西園寺家の一人娘にして、この超お嬢さま学院『聖ラファール学院』の生徒会長、西園寺響華(さいおんじきょうか)その人である。


「ボツです、南先生」


 オレの反論を完全にスルーして、もう一度結論だけを簡潔に突きつける響華さん。


「はいはい、分かったわよ……」


 いま書いた文章をデリートすると、オレは一つため息をついて無駄に高い天井を見上げた。


 そこにあるのは、意匠を凝らしたステンドグラスの天窓と、そこから差し込む幻想的な光……


 オレはもう一度ため息をついて、今度は辺りを見渡した。


 落ち着かん……


 レンガ造りで円形のだだっ広い空間に幾つも置かれた、アンティーク調の円形テーブル。そして壁を飾るのは、色とりどり花と高そうな絵画。

 そこへ、一番奥に置かれているバカデカいパイプオルガンが、もの凄い存在感を主張していた……


 このセレブ系パーティースペースのような空間が高校の生徒会室だと言われて、どれだけの人間が納得するだろう?


 生徒会顧問(仮)のオレですら、今だに信じられんし……

 まぁもっとも、庶民の中でも限り無く底辺に近い生活をしていたオレにとっては、この学院の全てが信じられないけど。


 正直な話しオレ自身、こんな超お嬢さま学院で教師をやるなんて考えた事もなかったし、そもそもこの学院は男子禁制である。


 では何故男のオレが、ここで教師を出来るのか?

 その答えは、オレのセリフと地の文のビミョーな違和感にある……


 そう、ハッキリ言ってしまえば、ひっじょ~~~~に不本意ながら、今のオレは女装をしているのだ。


 元々、この学院にはオレ、南友也の双子の姉である南友子が教師として赴任するはずだった。

 しかし、どこで何を間違えたのか? 今はオレが、姉さんのフりをして学園に通っているのだ……


「はぁ……」


 思い出したら憂鬱になってきた。


「ほら先生、ため息ばかりついてないで、早く書いて下さい」

「はいはい」


 締め切り直前のマンガ編集者のように、逃がしませんオーラを放ちつつ、腕組み仁王立ちでオレの背後に陣取っている会長さま。

 しかも、彼女にはオレの正体を知られてしまっている。そのせいでオレは、半ば強引に生徒会顧問(仮)にさせられてしまったのだ。


 ……って、愚痴ってばからはいられない。オレは再びキーボードに指を走らせた。


『告知! 普通の人間には興味ありません。宇宙人、未来人、超能力者な生徒が居たら、今すぐ生徒会室に……』


「ボツッ!」

「ま、また二行でダメ出し? じ、じゃあ……」


『199X年、生徒会は核の炎に……』

「ボツです……」

「早っ!? 今度は書き出し一行!? てゆうか、まずは突っ込んでよ! 『お前は世紀末救世主か!?』とか『汚物は消毒だぁ』とか……」

「意味が分かりません」


 くっ……ダメだ。

 お嬢さまと言う人種は礼儀正しいように見えて、ボケに対して突っ込みを入れると言う、人として最低のマナーを知らないらしい。


「ダメ、やる気なくした……」


 そう言ってオレは、ぐでぇ~っと机に突っ伏した。

 だいたいにして、三流大卒のオレに文才を求めるのが間違っているのだよ。


「南先生、だらしないです」

「ホントホント、お里が知れますわ」


 そう言ってオレの姿に突っ込みを入れたのは、正面に座るメガネっ娘コンビ。

 生徒会会計の上杉一恵(うえすぎかずえ)さんと、同じく書記の浅倉二葉(あさくらふたば)さん。通称、響華さんの取り巻きその一とそのニ(オレ命名)である。


 てゆうか、こんなところに突っ込まず、ボケに突っ込めっ!


「いいじゃない、職員室も教室も全く気が抜けないんだし……」


 そう、この学園全てに流れるお上品な雰囲気に、全く気を抜く余裕がない。庶民出身のオレにとっては拷問に近い環境だ。


 授業中でも平気で早弁したり漫画を読んでたり、下ネタが飛び交ったりしていたウチの高校が懐かしい……


「だからって、生徒会室で気を抜かないで下さい」

「そうです、教師は生徒の模範とあるべきです」

「じゃあ、先生は反面教師と言う事で……二人とも、こんな大人になっちゃダメよ。ではお休み……」

「ち、ちょ、バカにしているのですか!?」

「響華さまからも何か言って上げて下さい!」


 オレの態度に、非難の声を上げる二人。

 まぁこの二人は元々、オレが生徒会の顧問になる事に反対してたから、当然風当たりも強い。


「南先生、二人の言う通りです。もっともシャンとして下さい」

「はいはい……」


 オレを生徒会に引きずり込んだ元凶さまのお言葉に、取り敢えず上体を起こして椅子に座り直す。


「全く……三人とも頭が固いわよ。固くていいのはチ……いや、何でもない」


 ヤバいヤバい……

 母校の事を思い出していたら、サラリと下ネタが出るところだった。さすがに、この状況での下ネタはドン引きだろう。


「チ……なんですの?」

「いや、だから何でもないって! そ、それより何でいきなり壁新聞なんて始めようとしたのよ?」


 頭に『?』マークを浮かべている三人に、これ以上突っ込まれないよう強引に話題転換を図るオレ。


 そう、さっきからオレがパソコンと睨めっこをしているのは、壁新聞の原稿を書かされていたからなのだ。


「そんなの決まっているじゃありませんか。今までの学園の体制や、生徒会の在り方を変える為です。その為にまずは開かれた生徒会を目指し、わたくし達の事を広く生徒たちに知って貰うためですわ」


 まぁ予想通りの答えだ。そもそも、三流大卒のオレを生徒会に引っ張り込んだのも、そのためみたいだし。


「じゃあ、何でその手段が壁新聞なワケ? 三人とも壁新聞なんて見た事ないんでしょ?」


 この学園は中高大一貫教育の全寮制お嬢様女子校。壁新聞なんてモノは見た事がないらしい。


「それは先生からお借りしたライトノベ――こ、こほん。と、とある文献を参考にして、効果的な方法だと思ったからですわ」


 チッ! やはりアレが原因か……よけいな物を貸すんじゃなかったぜ。


「と、とにかくっ! この中で壁新聞という物の実物を見た事があるのは先生だけなのですから、シャンとして下さい!」


 コンコン……


 響華さんの理不尽な言葉に、また大きなため息が漏れそうになった時。遠慮がの扉をノックする音が聞こえてきた。


「どうぞ」


 ノックの聞こえた扉の方へと振り返る響華さん。そして、よく通る澄んだ声で返事を返すと、扉がゆっくりと開かれていった。


「失礼しまーす――南先生いらっしゃいますか?」

「あれっ? 真琴ちゃん?」


 扉の隙間から遠慮がちに、ひょっこりと顔を覗かせたのは見知った顔。

 理事長の一人娘にして、ちょっと年の離れた幼なじみの東真琴(あずままこと)ちゃんだった。


「あっ! いたいた。おに……じゃなくて、友子さ~ん!」

「ムッ……」


 オレの姿を確認すると、笑顔を浮かべ駆け寄ってくる真琴ちゃん。

 そして何故かそんな真琴ちゃんを見て、眉をひそめる響華さん……


 てゆうか真琴ちゃん。間違ってもこんな所で『お兄ちゃん』なんて呼ばないでくれよ。


「真琴さん。南先生とは個人的な知り合いなのかも知れませんが、学院内ではちゃんと南先生とお呼びなさい。それから南先生もです。生徒をちゃん付けで呼ぶのは止めて下さい」

「はい……」

「すみません……」


 会長さまのもっともなお言葉に、二人揃って頭を下げた。


 これじゃどっちが先生か分かったもんじゃないな……


 そして下げた頭を上げると、真琴ちゃんがオレの顔を覗き込んできた。


「ところで南先生……なんか(やつ)れてない?」


 ちょっと心配そうな表情を浮かべて尋ねる真琴ちゃん。


「いやもう~、聞いてよ奥さんっ! 生徒会(ここ)の方々て、いくらボケてもボケても全く突っ込んで下さらないのよ」

「あらあらまあまあ、いやですわね~、奥さん。人のボケに突っ込むのは、最低マナーですのに。これだから最近の若い娘は……」

「ホントホント、私達の若い頃は突っ込み忘れようものなら、逆に突っ込まれたモノですわ。も~、後ろからパンパンパ~ンって」

「あら、もういやですわ、奥さんたらっ。おほほほほほほ」

「おほほほほ……」

「二人ともっ! 変な喋り方はお止めなさいっ!」


 響華さんの一括。どうやら昼下がりの奥さま井戸端会議口調は、お気に召さなかったらしい。


「チースッ」

「サーセーン」

「その不良みたいな喋り方もですっ!」


 いや、今のが不良みたいって……


 てゆうか純正お嬢様にとっては、このくらいでも不良に分類されるのか? 心なしか取り巻きコンビも白い目で見ているし。


 いや、それにしても……


「真琴ちゃ――いや真琴さん、随分ノリがいいわね」

「えへへっ、友子さ……いえ南先生に鍛えられましたから」


 この場合の南先生は、オレではなく姉さんを指しているのだろう。

 オレとは思春期以降、この学院で再開するまでは、ほとんど顔を合わせる事はなかったが、姉さんとはよく二人で遊びに行っていたらしいし。


「それに比べて、生徒会の面々は頭が固いんだから……」

「まったく、固くていいのはチン○だけでいいって…………あっ」


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


「お、お兄ちゃんっ! なんて事言わせるのよぉぉぉぉ!!」

「ま、まま真琴さん! 神聖な生徒会で、なんて事を言っているんですかっ!!」

「ってか、お兄ちゃん言うなっ!!」


 校舎から少し離れにある生徒会室に、三人分の絶叫がこだまする。


 てゆうか姉さん……

 理事長の一人娘に、下ネタまで仕込んでんじゃねぇよっ!!

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