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『オレの生徒はお嬢様!?』  作者: 宇都宮かずし
第一部 オレの生徒は生徒会長!?
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第一局 姉さんとオレ 02

「友也、少し話しは変わるけど、あたしが何で雪崩に巻き込まれたか聞いたか?」

「一応、チィさんから一通り聞いたけど――」


 なんでも、雪山で遭難した人を探しに行ったとか。姉さんがその人を発見した時には、足を怪我して動けないでいたらしい。


 そこで姉さんは、その遭難者を背負って山を降りようとしたとか。そして、その途中で雪崩に巻き込まれた――とかなんとか。


 どこまで本当か分からないけど、変な所で正義感が強いのは確かに姉さんらしい。


 もっとも、全部が本当の話しなら姉さんは人一人を背負って、雪崩の中を泳いだという事になる。

 まぁ、いくらなんでもそれは…………いや、姉さんなら、あるかもしれない。


「そうか……ここだけの話し、私が助けたおっさんなんだけど、実は若い女と不倫旅行中だったらしい」


 若い女と不倫っ! なんと羨まけしからんっ! こちとら彼女いない歴=年齢だというのにっ!!


「まぁ、彼女いない歴=年齢の友也には羨ましい話しだと思うが……」

「大きなお世話だっ!!」


 オレも同じ事を考えていたが、それでも人に言われるとやはり腹が立つ。てゆうかエスパーか!?


「そうか、じゃあ友也の恋の悩みは後で聞くとして、話しを戻すけど――」


『それも大きなお世話だ!』と言う非難の視線を送ってみたが、気にする気配すら見せずに話しを続ける姉さん。


「そのおっさんなっ、遭難した時の捻挫だけで他は無傷だったんだけど、もし今回の件が大事になっていたら、不倫がバレて大変だったらしい」

「姉さんのその怪我は十分に大事だと思うぞ」

「つまり私は、そのおっさんの命の恩人であり、家庭崩壊を救った救世主になる訳だ」


 オレのツッコミを華麗にスルーして、姉さんはドンドンと話しを進めて行く。


「そんで、そのおっさんがさっき見舞いに来たときに、こんな物をくれたんだ」


 そう言うと、首元からパジャマの中に手を突っ込み、小さな紙切れを取り出した。


 ――って、どこから出した! 谷間か? その谷間は四次元とでも繋がっているのか?


 そんな素朴な疑問をよそに、姉さんはその四次元谷間から取り出した紙切れをオレに差し出して来た。


「名刺……?」

「そう、私が助けたおっさんの名刺」


 あまり興味はなかったが、とりあえず人肌に暖かい名刺を受け取り目を落とす。


 えーと、なになに? 名前は加藤一。役職は――人事部長だとっ!? そ、そして勤め先が…………(株)サンナイツーーーっ!!


 サンナイツと言えばガンガムシリーズを始め、数多くのロボットアニメを手掛ける大手のアニメ制作会社じゃないか!


 オレみたいな三流大学では、願書を出すのすら躊躇(ためら)ってしまうような超大手だぞっ!!


 あまりの驚きに慌てて顔を上げると、姉さんは満面の笑みを浮かべていた。


「今回の件と不倫旅行の口止めも兼ねて、ぜひお礼がしたいから『自分に出来る事があったら、何でも相談して下さい』って、言っていたぞ」


 そ、それって……


 姉さんの話す内容にオレは言葉を失った。


「そうそう。それから、まだこれは極秘事項らしいが、新作OVAガンガムの劇場版を正月映画として制作するらしい。だから、その制作に伴って夏に人員の追加募集をするそうだ」


 新作OVAガンガムだとっ!? あのシリーズの中でも人気の高いガンガムUG(ユニゴーン)かっ!?


 アレは名作だった。特に12番目のクローンが出て来た時には感動し、そして予定調和的に死んだ時には思わず涙した。


 あの名作が、スクリーンで蘇るのかっ!?


 驚きの連続で声も出せないオレを尻目に、姉さんはドンドン話しを進めて行く。


「そこで、ウチのかわいい弟が、そっち関係の仕事を探しているって話したら、是非ともウチ来て欲しい。と言っていた」

「えっ……いや、でもそれって……」


 話し終えて満面の(黒い)笑みを浮かべる姉さん。それとは対照的に、まだ上手く言葉が出てこないオレ……


 確かに美味しい話しだ。あのサンナイツに就職なんて、よほどのコネが無いと難しい。ましてオレなんて独力では絶対に不可能だ。それがこんなアッサリと就職出来るなんて。


 …………って!! 何を考えているんだオレっ!


 その代わりにやらされるのが、女装して女子校の教師だぞ。そんなの無理に決まっているだろっ!!


「友也、悩む事はないじゃないか……? さっき話しは変わるって言ったろう。この話しと、さっきの話しは別の話しだ」

「えっ……?」


 てっきり交換条件なのだと思っていたオレは、姉さんの意外な言葉に驚いた。てゆうか今の話しの流れなら誰だってそう思うだろう。


「私達はたった二人の姉弟だし、たった二人の肉親じゃないか……友也のやりたい事なら応援するし、幸せになれるなら姉さんは何でもするぞ」

「ね、姉さん……」


「そう、友也のためなら姉さんは悪魔に魂だって売るし、いい男になら身体だって売っちゃうぞ」

「売るなっ!!」


 まったく、ドコまで本気なんだか……

 しかし、姉さんのさっきの言葉には不覚にもグッと来てしまったのも確かだ。


「何をグッと来てる、友也だって同じように思ってくれているんだろ? 姉さんはそう信じているぞ」


 えっ……?


「友也だって、あたしのためなら女物のスーツ着て教壇に立つくらい、してくれるよな?」


 えーと……? えっ?


「信じているぞ、と・も・や?」


 ――――てっ!!


「話しは変っとらんじゃないかっ!!」

「ないよ」


 開き直りやがった。

 悪びれられる事もなく、新しいバナナの皮を剥きながら言い切る姉さん。


「それじゃ結局交換条件って、ゴフォ……」


 オレの抗議の言葉は、稲妻の様な姉さんの左ストレート……から、更に繰り出されたバナナを口にねじ込まれ封じられた。


「それは違うぞ友也、交換条件じゃない……さっきのは、麗しき姉弟愛と固い絆の再確認だ!」


 カッコ良く言っても同じだ!

 でも――


 とりあえず、口にねじ込まれたバナナを飲み込んでから口を開いた。


「――姉さんは、オレに姉さんの代わりが出来ると、本当に思っているのか?」


 さすがに口に出すのは恥ずかしいが、オレだって姉さんには幸せになって欲しいし、オレの出来る事なら協力したいとは思っている。

 ただ問題は、今回の件がオレの出来る事かと言えば、出来るとは到底思えない。


 しかし、そんなオレ不安を一蹴するかのように、楽天的な笑顔を見せる姉さん。


「出来ると思うかって? 当たり前田のアッコちゃんだろ」


 う~ん……言葉の意味は良く判らんが、とにかくすごい自信だなぁ、おいっ。


「分かってるのか、姉さん? もしオレが失敗したら、せっかく就職したのに、間違いなくクビになるんだぞ」

「大丈夫だって、私は友也を信用してる――そして、何があっても最後まで信用するのが家族だろ?」


 いい事を言ったつもりだろうが、若干使い方が間違ってないか?


「それに、こんなにそっくりな双子で、ずっと一緒に育ったんだ。私の事は友也が一番よく知っているだろ?」


 本当に、まったく心配なんかしてない笑顔。

 そして、その笑顔を崩さずに、姉さんは両手をオレの肩に乗せた。


「何より極めつけが、友也の女顔と女声――心配るす要因なんて何一つないじゃないか」


 グサッ!!


 ね、姉さん、それは言わない約束よ……


 精神的ダメージに完全KO状態で、姉さんのベッドの上に突っ伏すオレ。

 しかし、姉さんの死体蹴り的な精神攻撃は更に続いていく。


「大学に入学して、友也が空手部に入るって言った時は、姉さん本気で心配したんだぞ。あんなムサい男だらけの所に友也みたいな可愛い子が入ったら、輪姦されるんじゃないかって――てゆうか、私が男だったら友也みたいな可愛い子、絶対に押し倒しているし――」

「いや、それおかしい……もし男だったら、男のオレを押し倒すって何か変――」


 ベッドに横から突っ伏したまま、力なく反論してみた。

 が……


「変なものか! 自分の魅力を否定するなっ!!」


 男に押し倒おされるオレの魅力って何?

 てゆうか、お願いだからこれ以上イジメないで……


「だいたい友也は昔から……」


 力なくベッドに顔をうずめた状態のまま、左手を上げて姉さんの言葉を遮る。


「わかった……もう降参っ……」


 永遠に続きそうな精神攻撃に、とうとう音を上げてしまた。


「うんうん、やっとわかってくれたか」

「まぁ……やるだけはやってみるよ」


 でもまぁ、やり方はともかく、姉さんの為にもオレの為にも悪い話しではない。


 が、しかし……


 完全にやり切ったという満面の笑顔を浮かべる姉さん。オレはその笑顔を見て確信した……いや再確認かな。


 この人には絶対勝てないと――


 この後、今後の予定を少し話し合い、ドアを出た所で白衣の天使に追い討ちを食らったオレは、生ける屍状態で帰路についたのだった。

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