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『オレの生徒はお嬢様!?』  作者: 宇都宮かずし
第一部 オレの生徒は生徒会長!?
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エピローグ

 廃ペンション入り口前にある3段ほどの低い階段。その、木製の階段に並んで腰を下ろす、オレと響華さん。


 元々無関係の国無と三元。

 彼らには、これ以上迷惑を掛けられないので先に帰って貰っている。


 ついでに、携帯の圏外を抜けたら学院に連絡するよう頼んでおいた。

 今頃は連絡を受けた関係者の面々が、慌ててこちらに向かっている頃だろう。


 ちなみに想怒夢の面々(バカども)は、縛り上げてロビーにころがしてある。

 更に、トサカくんと、タコ坊主くんに至っては、全裸にひん剥き駿河問いの要領で吊しておいた。


 奴らがやろうしていた事のお返しに、持参していたご自慢のハンディビデオで、今もその様子を記録中だ。


 まだ、二人共気絶してるけど、起きた時は見物である。


 それと、これは後で聞いた話しなのだが、響華さん捜索のSSさん達は、犯人を刺激しないようにと地道に聞き込みをしていたらしい。


 ホント、ご苦労様です。


 とりあえず、今は迎えが来るのをノンビリ待つだけだ。


 一応、足は奴らのバイクがたくさんあるので、帰れなくはないのだけれど――

 さすがに、あんな痛々しく攻撃的なバイクで、お嬢さまと二人乗り(ニケツ)して帰る勇気はない。


 くぅ~……


 何をするでもなし、ノンビリ空を眺めていたオレの耳に、隣から何やら虫が鳴くような音が聞こえてきた。


 様子をうかがう様に隣を見ると、真っ赤な顔をして俯いている響華さん……


 …………

 …………


 なるほど。もう、お昼の時間は過ぎているもんな。


 オレは、持参していたバックから弁当箱を取り出し、響華さんへと差し出した。


「良かったら食べる?」

「えっ? これは?」

「ん、おベント。お嬢様の口に合うかは、保証しないけど」

「いえ、そんな――これは先生のではないですか。頂けませんよ」


 一度受け取った弁当箱を、慌てて返そうとする響華さん。


 しかし、オレはそれを受け取らず、アルミホイルに包まれた、おにぎりを取り出した。


「私はこれがあるから大丈夫。遠慮しないで食べて」

「は、はい……」


 早弁用に作ったモノだが、意外な所で役にたった。


 ついでに朝、コンビニで買ったペットボトルのお茶も、バックから取り出すオレ。

 学院の自販機など使っていては、あっという間破産してしまうので、何本か買っておいたのだ。

 まさに、備えあれば憂いなし。


 オレがおにぎりにかぶりつくと、響華さんもおずおずと弁当箱を開いた。


「い、いただきます……」


 そう言って、ゆっくり箸を伸ばす響華さん。

 ちなみに今日は、真琴ちゃんの分もあったので少しだけ豪勢だ。


 最初に箸を付けたのは鳥の唐揚げ。

 お嬢さまの感想が気になり、横目で響華さんの様子をうかがうオレ。


「あっ、美味しい」


 良かった。お嬢さまのお口にも、それなりには合ったらしい。

 もっとも、『空腹は最高の調味料』ってだけかもしれないけど。


 その後はゆっくりと、響華さんのペースに合わせるように、静かな食事を続ける。


 元々がオレの弁当だっただけに、少し量が多いかなと思っていたが、残さずに全部食べてくれた。


「ごちそうさまでした」

「はい、お粗末さま」


 空になった弁当箱を、丁寧にナプキンで包み直おす響華さん――


「でも……どうして学食があるのに、お弁当を持参しているんですか?」


 などと、素朴な疑問をぶつけてくる。


「ジョーダン。あんな値段の高い所で食事していたら、あっと言う間に破産しちゃうわ」

「値段……ですか? あまり気にした事なかったです……」


 さすがお嬢さま。言ってみたいね、そのセリフ。


「じゃあ、このお弁当は、そんなに安く作ってあるのですか?」

「う~ん、だいたい二百円くらいかな」

「に、二百円ですか? こんなに美味しいのに!?」


 ふっ……驚いたかね?


 女将を呼ぶのが好きな美食家曰わく、

『値段で味が決まる訳ではない』のだよ。


「それでも、今日は知り合いの()にも頼まれていて、その娘の分も作ったから、ちょっと奮発したんだけどね」

「知り合いの……『娘』?」


 んっ?

 なんか一瞬だけど、響華さんの顔が曇ったような……気のせいかな?


「知っているかな? 二年生の東真琴ちゃんって娘」

「東真琴『ちゃん』ですか……? 面識は有りませんが、存じておりますよ。確か理事長の娘さんですよね」


 なんか、『ちゃん』の部分を、凄く強調してなかったか?

 てゆうか、更に機嫌が悪くなってない……?


「え、ええ、そう。理事長の娘さん。今の所に引っ越す前は隣の家に住んでいたから、幼なじみなのよね」

「幼なじみ? そうですか……では、朝は窓から部屋に入って、起こしに来て貰っていた訳ですね?」


 誰だぁ~っ! お嬢さまに、そんなろくでもない事を教えたのはっ!?

 オレか……


「い、いやだなぁ……それは、幼なじみの男子にする事よ」

「あら、そうでしたわね。私としたことが。おほほほほ」

「あは……あはははははは……」


 い、痛い……

 なんか響華さんの笑顔が、もの凄く痛い……


「あの~、なんか怒ってる?」

「いいえ、嫌ですわ先生。なんで、私が怒らなくてはいけないのですか?」


 お、重い……

 空気が凄く重い……


「でも先生……? 幼なじみなら、あの事もご存知なのでしょう?」

「あ、あの事とは、どの事かしら……?」


 いやマジで、あの事とか言われても、心当たりがないんですが……


 しかし、響華さんはスクっと立ち上がると、階段に座るオレを見下ろすように仁王立ち。

 更に、黒い笑顔を浮かべながら、オレの頭に手のひらをのせた。


 そして――


「これの事ですわっ!」

「あっ!?」


 急に涼しく、そして軽くなるオレの頭。

 でもって、響華さんの右手には大量の髪の毛……


 あまりに一瞬の出来事に、思わず固まるオレ――

 響華さんは、そんなオレを見てニッコリと微笑んだ。


「これは、どうゆう事か説明して頂けますか? 南・と・も・や・先生」


 って! 名前までバレてるしっ!


 響華さんの笑顔から、ドンドン黒いオーラが広がっていく気がする……


「じ、実は……」


 ここまで来ては、とても隠し切れないと判断。

 オレは観念して全てを話す事にした。


 さすがにこの格好で、短髪は落ち着かないし、いつ迎えが来るかも分からないので、とりあえずウィッグは返して貰った。


 また隣に座り直し、静かにオレの話しへ耳を傾ける響華さん。

 蒼天の空に新緑の香り、そして爽やかな風が二人の間を吹き抜ける……


 そんな中、オレの話す声だけが淡々と流れていた。


 そして――


「そうですか……お姉さんが怪我で入院。それで、友也さんが身代わりを……」


 オレが全てを話し終えてた、響華さんの第一声。


「怪我の原因も人命救助だし、強く責められないからね。まっ、オレは最初から、無理があるとは思っていたんだけどね……」


 案の定、初日に真琴ちゃん、二日目に響華さんという、ハイペースで正体がバレてしまった。


「それでも、姉さんはたった一人の肉親だし、その姉さんの将来に関わる話しだから、やるだけはやってみようかと思ってみたけど……ヤッパリ無理だったか」


 でも、入院は本当だし、一度も出勤しないで長休になるのと、二日でも顔を出したのでは少しは違うだろう。

 それに、姉さんを推薦した理事長ってのが美琴さんなら、なんとかしてくれるかもしれない。


 あとは、響華さんを説得出来れば――


「ホントは響華さんに、こんな事を言えた義理じゃないけど……この事は、内緒にして貰えないかな? 理事長には迷惑を掛けてちゃうけど、なんとか二学期からでも姉さんを復帰させて貰えよう、頼んでみようと思っているから……」


 流れる沈黙……


 オレの言葉を聞いた響華さんの表情は、硬い――


 ヤッパ、無理だよなぁ~。

 学院の治安っていうのをあんなに大切にしていた響華さんだ。こんな不正を許せる訳がないか……


「ふぅ~…………」


 沈黙を破ったのは、響華さんの長いため息……


「無理だった? 義理じゃない? 何を言っいるんですか、先生?」

「な、何って……?」

「無理だったって、諦めるって事ですか?」

「いや、諦めるも何も……もう続けられないでしょう?」


 オレの言葉に、響華さんは勢い良く立ち上がり、怒ったようにオレを睨みつける。


「それは私が、この事を問題にして、あなたを学院から追い出す――そんな風に考えているのですか!?」


 考えるも何も、普通はそうするでしょう? 生徒会長なんだし。


「それに、義理じゃないって何ですかっ! 先生は私の友達――いえ、親友になってくれたんじゃないんですかっ!?」

「い、いや……それは、姉さんの立場として……」

「私が親友になったのは、友也さんですっ!!」


 オレは言葉を失った――


 二人の間に、爽やかな春風とは対照的な重い沈黙が流れる。


 響華さんの長い髪がフワリと風になびき、そしてオレを睨むその瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた。


「友也さんは、私が親友を追い出すような女だと思っているのですか? それとも……私では、あなたの親友にはなれないって事ですか……?」


 綺麗な瞳に浮かんでいた、スーッと涙が頬を伝う。


 姉さん……

 こんな時、オレはなんて言えばいいだろか?


 今、オレの頭に浮かんでいる言葉は二つだけ――


「ありがとう……で、いいのかな? それとも、ごめんなさい?」


 今のオレには、それ以外の言葉が浮かんでこない……


 しかし、響華さんは静かに瞳を閉じて、ゆっくりと首を横に振った。


「私が困るんです、先生がいないと。困った時に助けてくれる――支えてくれる親友がいないと……今まで何でも一人やってきた私に、親友って存在を教えた先生の責任です……」


 響華さんの顔に、少しだけ笑顔が戻った。

 そして、その笑顔に釣られ、オレの顔も少しだけ(ほころ)んだ気がする。


「だから責任を取って、これからも支えて下さい……親友として、生徒会顧問として……」


 …………ん?


 いい場面なんだけど……

 なんか今、聞き捨てならない単語が混ざってなかったか?


「あ、あの~、響華さん? とてもいい雰囲気の所、大変申し訳ないんですけど――『なにとして』と言いました?」

「親友として」

「いや、そのあと」

「生徒会顧問として」

「………………」

「………………」

「え、え~と……それは、決定事項なのでしょうか?」

「当然です。もし放棄するなら、責任も一緒に放棄したとみなし、学院の全校放送でこの事実を明らかに致します」

「………………」

「という訳で、これからよろしくお願いします。友也先生」


 ニッコリ笑顔を浮かべる響華さん。その笑顔に引きつった笑顔を返し、なんとか絞り出した最後の言葉――


「…………はい」


 そして、ガックリうなだれたオレの耳に、遠くからリムジンのエンジン音が聞こえてきた。


          ―――FIN.

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