第十二局 重なるイメージ 03
え~、それでは撃墜数を発表します。
南くん、撃墜数十三人。
国無くん、撃墜数十人。
三元くん、撃墜数七人。
と、以上の結果になりました。
いやいや、大口を叩いたけど、何とか面子を保つ事が出来ました。
もっとも、三元の七人というのも、響華さんを護りながらの数字だから、健闘したのは確かだろう。
そして、あと残っているのは、部屋の中央でボーゼンとしているトサカくん只一人。
「お、お前ら……何者だ……?」
それでもなんとか、絞り出すような声を出すトサカくん。
そんなトサカくんの問いに、国無が一歩前に出た。
「お前、想怒夢のOBだろ? なのに、この人を知らないっていうのが、そもそもの間違いなんだよ。いいか? この人は、あの南友子さんってお方だよ」
「み、南……友子……だと?」
その名前を聞いて、トサカくんの顔が青ざめて行く――
まぁ、有名人だからな、姉さんは……
「あ、あの、轟猛羅をたった二人で潰した南姉弟の……」
「そっ、その南姉弟の、お姉さまの方」
「はあ~い、南友子です。永遠の17歳、只今恋人募集中。よろしくね、トサカちゃん」
と、姉さんのノリで、一応オレの方からも自己紹介しておく。
しかし……なんか放心状態になっていて聞こえていないようだ。
どうしたモノかと国無と顔を見合わせるオレ。
「ふっ……」
しばらく待っていると、まだ虚ろな目をしたままのトサカくんが、静かに笑い出した。
「ふっ……ふふふ……ふふふふふ……」
ぶ、不気味な奴……おいおい、大丈夫か? 特に頭は?
そんな不気味な笑いが止まると、少し目を伏せてから、こちらを睨むように顔を上げた。
「好都合だ――あの南友子をブチのめしたとなりゃあ、想怒夢の株も上がるってもんだ……」
「おーい、現実を見ろー。特に足元に広がる光景を。どう見ても想怒夢は再起不能だろ?」
「喧しいっ! 大口を叩くのは、これを見てからしろや!」
そう言って、トサカくんがスーツの懐から取り出したのは、なんと拳銃だった!
………………
…………
……
い、いや、拳銃は拳銃なんだけど……
「なぁ、トサカくんさぁ……そんな、見るからにモデルガンなんて玩具を出されても、ビビるにビビれないぞ……」
そう、それはどう見てもモデルガン。しかもデザートイーグルって……
ちなみにデザートイーグルとは、50口径のマグナム弾が撃てる世界最強のハンドガンと言われている。
主に軍事用で、日本で手に入れるのはヤ○ザの大親分でも難しいだろう。
しかし、オレの突っ込みに、ニャっと笑うトサカくん。
そして、足元に転がっていたウィスキーの空き瓶に銃口を向け、引き金を引いた。
なっ……!!
ガス銃特有の軽い発射音とはうらはらに、分厚いウィスキーの瓶は大きな音をたて砕け散った。
改造モデルガンか……
しかも半端なカスタムじゃない。当たり所が悪ければ、それこそ命に関わるレベルだ。
「確かに、たった二人でここまでやったのは認めてやる……だがなっ、テメエら二人くらいこいつがあれば楽勝じゃ!!」
そう言って、トサカくんは銃口をこちらに向けた。
しかし……
「友子さん。なんか二人とか言ってますよ」
「しょうがないんじゃない? ニワトリは、三歩歩くと前の事を忘れるって言うし」
銃口を向けられたからといって、特に慌てる事もなく余裕を見せるオレ達。
何故なら――
「何をくっちゃべってやがるっ! ホントにぶっ殺、グフォ……」
セリフの途中で、トサカくんの首に太い腕が巻き付き、銃を持つ手は捻り上げられたら。
「二人じゃなくて三人じゃ!」
そう、何故なら、三元がトサカくんのすぐ後ろに回っていたからだ。
「ダイちゃん、身体の割りに影が薄いからな~」
「なんだとーーっ!」
三元、締まってる締まってる!
国無の軽口に、思わず力が入る三元。
トサカくんが苦しさのあまり、一生懸命タップしているに気付いていないようだ。
「そう言うなよ、クニちゃん。ダイちゃんもお嬢さまを護りながら頑張ってくれたって――と、言うわけで、ご褒美にあまり強くないけど、ラスボスはダイちゃんにあげよう」
「ッシャオラァーッ!」
オレの言葉に歓喜の声を上げてる三元。
「よしっ! ダイちゃん、そのまま決めちゃえっ! ジャーマンスープレックスだーーっ!!」
「押忍っ!!」
オレの掛け声に応え、三元は素早くトサカくんの腰に抱きついた。
「ウォォォォーーッ! ジャーマンはヘソで投げる要領でぇ~~っ!!」
三元の身体が後方へのけぞり、綺麗な人間橋を描いて行く。
そして……
ドッカーーーーン!!
と、まるで落雷のような、もの凄い轟音が部屋中に鳴り響く。
薄汚れた床に積もったホコリが舞い上がる中、三元はゆっくり立ち上がり、得意気に右腕を突き上げた。
「アイ・アム・ウインナー!」
それを言うなら『ウィナー』だからな。
てかトサカくん、大丈夫かー? 生きてるかー?
オレは、三元の足元にいるトサカくんをつついてみる。
ふむ、何とか生きてはいる様だ。
しかし、カウントの必要はないな。身体が『コ』の字になって、完全に固まっているし……
まぁ、何はともあれ『完全勝利!』ということで――
「響華さん。ちょっと、こっちゃおいで」
「えっ? えっ……?え、ええ……」
オレは階段で放心していた、響華さんを手招きした。少しオロオロしながらも、近付いてくる響華さん。
オレは携帯を取り出し動画撮影モードにする。そして、コの字の固まっているトサカくんの足を三脚代わりに、そこへ携帯を置くと国無と三元が並ぶ方へとカメラを向ける。
ん~、こんなもんか……よし。
「響華さんもこっち」
すぐ隣まで来ていた響華の手を取り、国無達の方へ移動するオレ。
「え~、開花大空手部伝統のアレをやりたいと思います!」
「押忍っ!」
「押忍っ!」
オレの言葉に気合いの入った返事が返ってくる。
ちなみに『アレ』とは、伝統なんて言っているけど、試合を応援に来ていた姉さんが勝手に作った伝統で、ハッキリ言って歴史は浅い。
カメラに向かって横一列にならび、オレは息を吸い込んだ。
そして――
「いくよーっ! 勝利のポーズ!」
「「「決めっ!!」」」
「えっ? えっ……?」
各々が、カメラに向かって好き勝手にポーズを取るオレ達。
まぁしかし、分かってはいたが、このノリに付いて来れず、オロオロしている人が約一名。
「はぁ~、響華さん……」
「「ノリわるっ!」」
「えっ? ノ、ノリって……」
更に、オロオロ始める響華さん。
しかたない、ここは少し強引に――
「とゆう訳で、ポジションチェーンジ!」
何がとゆう訳なのかはこの際おいといて、戸惑う響華さんを中央に配置。
両脇にオレと武藤。後ろに長身の三元を配置した。
「じゃあ、改めて……勝利のポーズ!」
「「「決めっ!」」」
「き、決め……」
今度は、恥ずかしがりながらも小さくポーズを取る響華さん。
でも……
「はぁ~、今時Wピースって……」
「「古っ!」」
オレ達の突っ込みに、響華さんの顔が見る見る赤くなる。
徐々に頬が膨れ上がり、そして――
「私を、あなた達の世界に引きずり込まないで下さいっ!!」
大・爆・発っ!!
真っ赤な顔で眉を釣り上げる響華に、顔を見合わせるオレ達――
そして、誰ともなしにクスクスと笑い始める。
そんなオレ達に、益々と頬を膨らませる響華さん。
しかし、徐々にその顔をほころばせると、最後には釣られるように笑い始めた。
四人の笑い声がこだまする、廃ペンションのロビー。
お嬢さまに笑顔が戻ってくれたので、一応は大団円かな。




