第七局 生徒会の一声 01
生徒会室――
校舎内の見取り図をいくら探しても、それは見つからなかった。
それもそのはず、生徒会室は校舎から長い渡り廊下を抜けた先。生徒会専用の建物が存在していたからだ。
なんて土地の無駄遣い……土地不足にあえぐ県民と知事に謝れっ!
そして、薔薇の垣根が見える広い渡り廊下を歩いた先に見え来たのは、ちょとした体育館並みの、白いレンガ造りで円形の建物。
オレはもう一度、見取り図を見直してみる……
こ、ここで間違ってないよな?
更に辺りを見回して見ても、それらしい物は見当たらない。
これが生徒会室……?
いや、もう『室』じゃないだろ、これはっ! 『練』とか『館』ってレベルだろ! 日本語は正しく使えっ!!
てゆうか、本当に日本か、ここはっ!?
とりあえず、低い石段を登り、扉の前に立つ。
木製で、両開きの豪華な扉にちょと気圧されてしまうオレ……
いやいや、身代わりとはいえ、これでも教師なんだから堂々としないと、堂々と!
一応は『生徒会室』と言う事なので、通例に従いノックをして、少しだけ扉を開いてみた。
「し、失礼しま~す……」
ドアに隠れるように、コッソリと中を覗いて――
「何をしているんですか?」
「のわっ!」
突然、背後から声を掛けられ、慌て振り返るオレ。
そこに立って居たのは、どこかで見覚えのあるメガネっ娘――
「あ、あなたは……?」
「浅倉二葉、生徒会の者です」
あぁ……今朝見かけた、生徒会長さんの取り巻きそのニか。
「オ……じゃなくて、先生は怪しい者じゃなくて……生徒会室に呼び出されて……」
ヤバい、さっきから腰が引けているぞ、オレ……
「知っています、私がお呼びしたのですから」
なるほど、さっきの放送はこの娘か。
取り巻きそのニさんは、何事もなかったかの様にオレの横をすり抜け、中へと入って行く。
「何をしているのですか? 響華さまがお待ちです。早く入って来て下さい」
一人で入るのに少し――ほんのすこ~しだけ気圧されていたので、ちょうどいい。そのニさんに着いて行こう……
べ、別にビビってたんじゃないからね! 勘違いしないでよねっ!!
と、一人ツンデレをやりながら中に入ると、またすぐ扉……
そして二重扉の先に入って、また驚いた。
北海道の某生徒会の日常と一存を描いたラノベに出てくるような生徒会室とは全く別物、いや別次元である。
武闘会……じゃなくて舞踏会が出来るくらいの円形パーティースペース(別に武闘会も出来るけど)に、真っ赤な絨毯が敷かれ、そこに円形のテーブルがいくつも配置されている。
また、壁には花や絵画が飾られ、天窓にはステンドグラス。極めつけが、一番奥に置かれているドデカいパイプオルガン――
あまりの豪華さに圧倒されながら、取り巻きそのニさんの後に続いて歩いて行くと、ちょうど中央のテーブルに会長さんと取り巻きその一さんが座っていた。
「お待ちしていました、南先生。まだ学院に残っていて助かりました。先生は、そちらの席へどうぞ」
椅子に座って、優雅にカップを持ったまま着席を促される。
ホント何様だ?
――って、西園寺家のお嬢様か。
とりあえず、言われた通り席に着くオレ。
「二葉さん、先生にお茶を淹れて差し上げて」
「かしこまりました」
その二さんこと浅倉さんは、一度こちらを睨むように見てから、奥に引っ込んで行った。あの奥が給湯室になって居るのだろ。
そう言えば会長さんは普通だけど、その一さんもずっとコッチを睨んでいるな――何なんだ……?
「本当なら、もう少し早くにお越し頂くはずでしたのですけど、一恵さんと二葉人が中々納得して下さらないものでして」
何を納得しなかったのかは知らないが、そんな睨むような目で見るのは止めて欲しい。
「お待たせ致しました」
奥から戻って来た浅倉さんが、オレの目の前に紅茶のカップを置いた。
その姿は確かに優雅で丁寧なんだけど、やはり目は睨むような目をしている。
「ダージリンのファーストフラッシュです。お口に合えばいいのですが」
あまり紅茶は飲まないけど、せっかく出された物を飲まないのは失礼だし、
とりあえず一口――
ん~、何が良いのか分からん……てかファーストフラッシュって何? ストレートフラッシュの親戚か?
「早速ですけど先生――失礼ですが、先生の事を少し調べさせて頂きました」
ん? なんの為に?
まあ、調べられて困る事はないけど――
い、いや、ビデオ屋のレンタル履歴やソフ◯ップの購入履歴を調べられると、ちょっとヤバイかも……
「五年前にご両親が他界。以後、双子の弟さんと二人暮らし。嶺上高校から、開花大学に進学。そして卒業後、この聖ラファール学院に数学の教師として赴任――」
勝手に人の――てゆうか、姉さんの過去を話し出す会長さん。この短時間でよく調べたもんだ。
でも……
「別に隠す事でもないから、わざわざ調べなくても聞かれれば教えるのに」
「そうなのですか? それは失礼しました」
全然「失礼した」と言う感じには見えないぞ。
「しかし、嶺上高校に開花大学……この学校の教師としては、前例がありませんわ」
そりゃあそうだろう。開花大はド三流大学だし、嶺上高に至っては四流を通りこして、五流の高校だ。
「どんなコネがあるのかと思えば、理事長の強い推薦だそうですね」
ほぉ~、それは初耳だ。
姉さん……理事長のどんな弱みを握っているのか知らないけど、新聞に載るような事だけはしないでくれよ。
「それで――そんな事を調べて、どうしたいのかしら?」
「純粋に興味があったからですわ。今朝先生が言っていた、私達の常識が通用しないと言う、外の世界の常識に……」
なんだそりゃぁ? お嬢様は、下々の暮らしが気になるお年頃ってか?
「私達生徒会は自治権を認められ、学院の風紀や治安を守って来ました……ただ、今朝の件も含め、私達だけでは対処しきれない問題がある事も事実です」
ほぉ~、今朝のこと少しは反省しているようじゃない。ただの世間知らずのタカビーお嬢様じゃないって事かな。
「また、生徒会側の自治権が強すぎる点。そして学院が不干渉の姿勢で、学院側との連携が取れていない問題もあります」
まぁ、学長があの事なかれ主義だからね~。
と、突っ込みを入れたい所だけど、会長さまは熱弁モードのようなので、とりあえずお茶でも飲みかながら黙って聞いていよう。
「そこで、そのような問題が発生した時や学院側との橋渡しの為、先生には生徒会の顧問をお願いしたいと思っています」
「――――っ!?」
すっかり日和見モードで話しを聞いていた所に、いきなりの爆弾発言。
あやうく、飲んでいた紅茶を噴き出す所だった。
そして、会長さんがそう宣言したと同時に、取り巻き二人組みのオレを睨む目が更に厳しくなる。
なるほど、二人が納得してないのはこの事か……って、そんなの今はどうでもいいっ!
とりあえず、口に含んでいる紅茶を噴き出す前に飲み込んで――




