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『オレの生徒はお嬢様!?』  作者: 宇都宮かずし
第三部 オレの生徒の後日談!?
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エピローグ 第二局 かけがえのない友人たち

「ゼェー、ゼェー、ゼェーッ……」


 細身な女性のウェスト程はあろうかという桃色熊の腕から命からがら生還したオレは、手の届かない安全圏まで距離を開けて、必死に息を整える。


 マジ、死ぬかと思った…………社会的に。


「ところで、ユリさんはこんな所で何してるんですか?」

「ん? 今日は、お店がお休みだからん。買い物にきてたのよん」

「へぇ~、なに買ったんですか?」

「しょ~ぶ、し・た・ぎ・よん。見てみる?」

「見たい、見たいっ!」


 ユリさんの差し出したデパートの紙袋を覗き込む真琴ちゃん。


 てゆうか、あの桃色熊相手にもう友達感覚とは……

 コミュニケーション能力が高いと言うか、怖いもの知らずと言うか……


「おお~っ!? ユリさんっ、大胆っ!」

「そりゃあ、大人のオ・ン・ナ・ですものん」


 いや、アンタは女ではなくオカマ――百歩譲ってオネエです。


「でもぉ、ワタシに会うサイズが中々なくてぇ、困っちゃうのよねぇ~」


 そりゃあ、スーパーベビー級のプロレスラーみたいな体型に合う女性物下着なんて、そうそうないだろ。

 そしてよく見ると、真琴ちゃんの隣に立つ響華さんも、興味なさそうなフリを装いながら、横目に紙袋を覗き込んで頬を赤くしてるし……


「友也きゅんも、見てみる?」

「いえ、結構です」


 袋を開いてコチラへと向けるユリさんから、サッと顔を(そむ)けるオレ。


「んっ、もおぉ~。テレちゃってぇん。まあ、そこも友也きゅんのキャワユイとこなんだけどぉ」


 ヤベッ……また、全身にトリハダが……


「ところでぇ、真琴ちゅわん達こそぉ、こんなとこで何してるのん?」

「え~と……まあ、色々あったんですけど、とりあえずはココイチへご飯を食べに行くところです」

「はい。友也さまが、ご馳走して下さるという事になりまして」

「ココイチ……カレーかぁ~」


 真琴ちゃん、そしてつばめさんの答えを聞いて、何やら考えだしたユリさん。


 まさか、一緒に行くとか言い出さないだろうな……? あの大食漢が増えたら、完全に予算オーバーだぞ。

 もし、一緒に行くとか言い出したら、何と言って断ろうか……


 などと考えながら身構えていたが、次にユリさんの口から出た言葉は、少々想定外の言葉だった。


「そう言う事なら、ウチのお店にいらっしゃいな」

「ユリさんのお店……? 白百合の君にですか?」

「ええ。実は昨日、裏メニューの予約があって用意していたんだけどぉ、そのお客さん、急に来れなくなっちゃってねん。困っていたところなのよんっ」

「裏メニューッ!?」


 ユリさんの言葉に目を輝かせる真琴ちゃん。


 ユリさんとこの裏メニューってぇと……ああ、アレか。

 ウチに来ていた時に、一度だけ作ってもらった事があったけど確かにアレは美味かった。


「う、裏……メニュー……?」


 ただ、被り気味に身を乗り出す真琴ちゃんとは対照的に、不思議顔でキョトンと首を傾げる響華さん。

 響華さんが普段行くようなセレブ御用達のレストランじゃ、聞き慣れない言葉なんだろう。


「裏メニューとは、正規のメニュー表にはない、常連などに向けた特別なメニューの事でございますよ。お嬢さま」

「なるほど……それは気になりますわね」


 家庭教師(ガヴァネス)の答えに、響華さんは興味津々とばかりに食いついて、ユリさんの方へと目を向けた。


「それで、それでっ!? ユリさんトコの裏メニューって、何なんですかっ!?」

「そ・れ・は――横須賀式の海軍カレーよん」

「おお~っ!! 本場の自衛隊カレーだぁっ!!」

「海軍……カレー?」


 再び目を輝かせる真琴ちゃんに対して、やはりキョトンと首を傾げる響華さん。


 今度はオレが、教師として知識をひけらかしておこうかな。


「海上自衛隊ではさ、昔から週に一回――今は毎週金曜日にカレーを食べるって伝統があるんだよ。しかも、部署や艦艇ごとに、先任者たちから独自の秘伝レシピが伝えられてるんだ。そして、自衛隊員向けの食事だから栄養価も高く、それでいて美味しいって評判なんだよ」

「へぇ~。面白い伝統ですわね」


 まっ、カレーはインドからイギリス経由で入って来ただとか、すでにイギリス海軍で採用されていたカレーを取り入れただけとか、トリビアはまだあるけど、そこまで話す事はないだろう。


 知識だけならともかく、トリビアまでひけらかすとウザがられるし。


「でも、あれ……? ユリさんって、習志野にいたんだから、陸自の人ですよね? なんで海自カレーなんて作れるんですか?」


 と、ここで真琴ちゃんから素朴な質問。

 そう言えばそうだな。気付かんかったわ。


「うふっ♪ それはねんっ、ワタシは元々、横須賀の海上自衛隊にいたのよぉん」


 ほう、そうなんだ、それは知らんかった。ってか、別に興味なかったし。


「でねんっ、その横須賀でイベントをやったとき、習志野から見学に来ていた三等陸佐さまにワタシが一目惚れしてねぇん。もう、すぐに習志野へ転官の希望を出したわけなのよん。ホント、渋くてダンディな人だっわぁ~」

「「「わあぁぁぁ~♪」」」


 うわぁぁぁ……


 桃色な歓喜の声を上げる女性陣とは対照的に、ドン引きして頬を引きつらせるオレ。

 この人、その頃からソッチの趣味だったのか……?


 てゆうか、キミたち分かってる? 今の話しは男×男の話しだよ。

 ソッチの腐ったメイドさんは手遅れとして諦めるしかないけど、出来ればオレの生徒諸君には、腐らずに真っ直ぐ育って欲しいのだけれど……


「ユリさん、ユリさんっ! もっと詳しく聞きたいですっ!」

「私も聞きたいですわ」

「そおぉ? じゃあ~ん、ウチの店でゆっくりガールズトークで恋バナと洒落込みましょうかぁ。カレーを食べながらねん」

「はいっ! いいよね? お兄ちゃんっ!」


 いいよねとか? 言われても、オレはガールじゃないし、発起人(ほっきにん)すらも、ガールじゃないんだが?


 てゆうか、女の子は恋バナに目がないとは言うけど、そんな極めて特殊な恋バナ、ホントに興味あるのか、二人とも……


 い、いや、それよりも……


 ココイチのカレーと、ユリさんトコの裏メニューでは値段の開きがソコソコにあるし、オレとしては出来るならココイチの方が――


「んっ、もぉ~。お金の事なら心配しなくても大丈夫よんっ、友也きゅん」


 と、そんなセコい予算の計算をしていたオレの考えを察したのか? ユリさんは、オレに向かってゆっくりと歩み寄り、その大きな顔をズイッと寄せて来る。


 ち、近いです。そして、キモいです……


「元々キャンセルになってたモノだから、お代は半額でいいわよん」


 半額となっ!?

 それなら、ココイチより安く上がるのでは?


「なんならぁ、カ・ラ・ダ・でぇ、払ってくれてもいいのよぉ~ん(ハート)」

「いえ、現金でっ! キャッシュでっ! 即金でっ!! お支払しますっ!!」

「あらそおぉ~、残念ねぇん」


 人差し指を唇に当て、腰をくねらせるユリさん。


 マジキモいです……


「じゃあん、近くに車停めてるから、ワタシの車で移動しましょぉ」


 車か……確かユリさん。真っ赤なBMW(ビーエム)に乗ってたけ。ああ見えても、それなりに人気のある飲み屋のママだしな。

 それに、BMWなら大きいし、あんま揺れないから、響華さんが車酔いする事もないだろ。


 とはいえ……


「なんかドッと疲れたわ……」


 時刻はまだお昼前だというのに、ホントに濃い半日だった。

 てゆうか、今日はこの短時間で、色んな人に会いすぎじゃないか?


 オレは、踵を返して歩きだしたユリさんの大きな背中を見ながら軽くため息をついた。


 ただ、まあ……


 「ふっ……」


 ため息をつきながらも、頬をほころばせるオレ。


 思い出してみれば、今日会った人たちは(みな)、今のオレの生活には欠かせない人たちだ。


 そう、わずか一ヶ月前にとは一変(いっぺん)したオレの生活に。一ヶ月前には想像すら出来ないほどに、大きく変わり果てた今の生活環境になくてはならない人たちである。

 予想もつかないトラブルやドタバタの毎日。オレの中の常識の通じない学園生活。そしてなにより、女装をし、女の園で取る教鞭……


 そんな慣れない不遇な環境にあっても、そんな友人たちのおかけでオレは、この生活をそれほど嫌だとは感じていないのだ。


 そう、かけがえのない友人(トモ)たちのおかげで――


「ちょっと、お兄ちゃんっ……? なにユリさんのお尻見ながらニヤニヤしてんの?」

「せ、先生……やはり、そう言った趣味がお有りなのですか……?」

「そんなトコ見てもいなけりゃ、ニヤニヤもしてないよっ! そして、そんな極めて特殊な趣味なんて、カケラも持ち合わせていないからっ!!」


 ジト目を向ける幼馴染みと、ドン引きする生徒会長へキッパリと断言。


 まあ、何かを期待する様な、恍惚とした笑みを浮かべている腐ったメイドさんは、もはや色んな意味で手遅れなのでスルーしておこう。


「そんな事よりお兄ちゃんっ、早く行こっ! 美味しいカレーとガールズトークが待ってるんだからっ!」

「そうですわね。早く行きましょう、先生」


 両側からオレの手を取り、先行する大きな背中に向かって走り出すオレの生徒たち。


 オレが二人の先生になって一ヶ月(ひとつき)足らず。そして、先生でいられるもは、あと三ヶ月足らずだ。

 この短期間で色々な事があったし、残りの時間も色々と振り回されて行くのだろう。


 それでも、オレの頬が(ほころ)んでいるのは、この大変でトラブルだらけの教師生活を、オレ自身が楽しく心地よいと感じてるからだ。


 そう、大切な友人(トモ)たちとの毎日を――


「ところで、友也さま。ガールトークをするなら、やはり友也さまは女装すべきだと愚考する所存。そこでわたくし、友也さま用に黒ゴス服をご用意致しました」


 そう言って、スカートの中から黒ゴス服と金髪ツインテウィッグを取り出すつばめさん。


「遠慮させていただきます」

「いえ、遠慮などなさらずに、友也さま。わたくしが人肌に温めておきましたから、遠慮なくお(めし)し変え下さいませ」

「どこの秀吉だっ! 絶対に着ないからなぁ~っ!!」


 そして今は、オレの学院生活が終わったあとも、この友人(トモ)たちとの絆だけは、ずっと続く事を祈って――


長いあいだのお付き合いありがとうございました。

本作は、初めて書いた小説であり、とても思追い入れのある作品でした。


まだまだ書きたいこともあったのですが、一度ここで完結させて頂きます。


ただ、思い入れの強い作品ですので、また続きが書きたくなるかもしれません(笑)

その時は、あらためてお付き合いください。


繰り返しになりますが、本当に長いあいだお付き合いありがとうございました。

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