第七局 ツバメ返し
『はいっ、もしもしッス』
「おう、オレだけど――」
ガラケーから聴こえ来る聞き慣れた声に、オレオレ詐欺みたいな返事を返すオレ。
まあ、非通知でかけてる訳でもなし、オレオレ詐欺と勘違いされる事はないだろう。
『あっ、友也先輩。留守電、聞いてくれたッスか?』
ああ、その留守電のせいで、殺されかけたけどな――
というセリフを、グッと飲み込むオレ。
そう、電話の相手は、今朝オレの携帯に留守電を残した後輩、国無双士である。
「まあ、その事なんだけど、国無? お前達の所に合コンの話しを持ってきた人の名前――ってか、ハンドルネームって、いま分かるか?」
『ハンネッスか? 確か……ツバメ返しさんって、名前っしたね』
ツバメ返しさんねぇ……
随分と分かりやすいハンドルネームッスだな、おい。
『ツバメ返しって事は、やっぱ柔道家かのう?』
『いや、剣道家だろ? 剣術とか女子に流行ってるし……確か、刀剣女子とか言って』
国無、正解。
まあ、そのツバメ返しさんとやら本人は、参加しないだろうけど。
電話口から聞こえる国無達の少々浮かれ気味な会話に、オレは苦笑いを浮かべた。
ツバメ返しさん→返仕つばめさん……
なんて、安直なネーミングセンス。
てゆうか、そのハンネを先に聞いていたら、オレは合コンに参加するなんて言わなかっただろう。
「ああ……悪いんだけど、国無。今日の合コン、所用で参加出来なくなったわ」
『マジッスかっ!?』
「どうも、実は姉さんの怪我が悪化したらしいんだ」
姉さんをダシに、コイツらを騙すのは気が引けるけど……咄嗟には、他に言い訳が思いつかないので仕方ない。
それに、姉さんのせいで毎日苦労しているのだ。少しくらい役に立って貰ってらわんとな。
「なんでも、無断で外にラーメン食いに行って、窓からこっそり戻ろうとした時、足を滑らせて四階から転落したらしい」
『なっ!?』
「そんで、病院から呼び出し受けてな。オレは、コレから姉さんのトコに行かなきゃならんのだ」
この二人は、姉さんに心酔してるトコがあるからな。姉さんをダシすれば、文句は出ないだろ。
『じゃ、じゃあっ、オレ達も病院にっ!』
『オウッ!!』
オレのついた嘘八百に、あっさりと騙される二人……
こうもあっさりと信じられると、少々罪悪感が湧いてくるな。
「いや、大丈夫だ。怪我っても、足首を軽く捻っただけらしいし。どっちかって言えば、無断外出のお小言を貰いに行く感じだから」
『よ、四階から落ちたのに、それだけで済むとは……』
『う、う~む……さすが、友子さんじゃあ……』
またまた、あっさりと信じ込む二人。
コレは、この二人がチョロ過ぎるのか、はたまた普段の姉さんの奇行が異常過ぎるのか……?
まあ、両方か。
オレはそんな事を思い、苦笑いを浮かべながら、更に言葉を綴っていく。
「それに、自分のせいでお前らの合コンが潰れたなんて知ったら、姉さんだって悲しむだろ? だから、姉さんの事はオレに任せて、お前らは加齢な――じゃなくて、可憐な剣道乙女との合コンを楽しんで来いよ」
『と、友也先輩……』
若干鼻声の、感極まった様な声で言葉を絞り出す国無。
しかも、その後ろでは三元が、
『うおぉぉぉ~っ! ワシら、いい先輩を持ったぁ~っ!!』
と、雄叫びをあげていた。
ヤベ……罪悪感がハンパねぇ……
「ま、まあ……アレだ。格闘技が好きな娘と合コンする機会なんて滅多にないからな。このチャンスをムダにしないようにな」
『ウッスッ! ゼッテー大物をゲットしてみせるッスっ!!』
『逃した魚は大きかったって、後悔せんでくださいよっ!!』
「お、おうっ……まあ、頑張れ……」
うん、確かに相手は大物だ|(サイズ的に)。
しかも、シャチや人食いサメレベルの凶暴な肉食系。逆に、食われん様、気をつけろよ……
そんな事を思いながら、オレは遠い目を天井に向け、そっと通話終了のボタンを押したのだった。




