第六局 オサレなデパートにて 一本場 乙女軍団再び
「ハァー、ハァー、ハァー……」
さ、さすがに病み上がりで、この距離を全力疾走するのはキツイな……
ようやく、目的地のデパートに辿り着いたオレ。呼吸を整えながら、入り口の自動ドアの前に立つと、綺麗に拭き上げられた透明なドアが開き、室内から漏る冷気が火照った身体を撫でていく。
ああ~、気持ちいい。
っとと……こんなトコで立ち止まっては、通行の邪魔だな。
オレは後ろへ顔を向け、背後を確認しかながらオサレな空間へと足を踏み入れていく。
が……
「きゃっ!?」
「えっ……」
背後に気を取られ、前方が不注意だったオレ。入り口を入ったところで、右手からやって来た小柄な少女とぶつかってしまった。
「す、すみませんっ! 大丈夫ですかっ!?」
小さな悲鳴を上げた少女の方へと、慌てて目を向けるオレ。
そこにいたのは、女性八人の団体客。
そして、オレとぶつかった小柄な少女は、連れの女性が咄嗟に支えてくれたおかげで、転ばずにすんだようだけど……えっ?
大柄な女性に支えられる、黒縁メガネに和服の少女。
その、見覚えのある姿――と、少しだけ開けた裾から覗く健康的な御御足に、一瞬言葉を失っていたオレ。
そんなオレを、別の女性が胸倉を掴み、もの凄い勢いで自分の方へと引き寄せた。
「おうっ、コラッ兄ちゃんっ! テメッ、どこ見て歩っとんじゃ!!」
オレよりも縦横共に一回り大きな女性が、モロヤン顔でオレを怒鳴り付けると同時に、他の女性達もその周りを取り囲んでいく。
が、しかし……
上から睨み付けていた、やはり見覚えのある女性は、オレの顔を確認するや否や目をパチクリとさせ固まってしまった。
「え……え~と……、南……先生……?」
「ど、どうも……」
それでも、何とか声を絞り出す様に問う女性と、その問いへ引きつった愛想笑いを浮かべるオレ。
そして、オレを取り囲んでいた女性陣は、そのまま三歩程うしろへ下がると、
「失礼しましたーーっ!!」
「失礼しましたーーーーっ!!」×6
と、勢いよく頭を下げた。
って、ちょっ!?
こ、こんな人の多い、オサレなデパートの中で、その体育会系のノリは勘弁して下さい。
てゆうか、ナニこのデジャヴ感……
そう、オレを取り囲んでいた屈強な乙女軍団は、杭丹有子さん、端野美佳さん率いる北原流剣術、第七女子道場の皆さま方。
そして、最初にオレとぶつかった着物少女は――
「も、申し訳ありません、先生。お怪我はありませんか?」
「いやいや! オレよりも、北原さんは大丈夫だった?」
その第七女子道場の師範にして、和装のよく似合う癒し系大和撫子、北原忍さんだ。
「はい、わたくしの方は大丈夫です」
「そっか、良かった」
上品に微笑む北原さんにつられるよう、安堵の息と共に口元を緩めるオレ。
そういえば、北原さんは道場の方の用事とか言っていたけど、用事ってのは道場の人達と買い物か?
ただまぁ……オレも人の事は言えんけど、このオサレな空間と屈強なお姉様方とでは、少々不釣り合いな気が……
そんな事を思いながら、取り囲む女性陣を見回す様に目を向けた。
い、いや……釣り合いは取れているのか? 物凄い違和感はあるけど……
「え、え~と……みなさん今日は、随分とめかし込んでるんですね……?」
その言葉に、少しだけ頬を赤らめ視線を逸らすお姉様たち。
そう、本日の服装(だけ)は、このオシャレ空間にマッチした爽やかにして清楚、そして大人っぽい装いであり、コレから小学校の授業参観に向かう奥様軍団って感じの服装ったのだ。
まあ、あくまでも『服装だけは』であり、その服装が当人達に似合っているかの明言は、避けさせて頂くけど。
「ど、どうでしょうか、南先生……? 皆さんのお洋服、わたくしの見立てなのですけど……」
「そ、そうなんだ……」
「はい……ただ、わたくし、お洋服にはあまり詳しくないものでして……」
自信なさげに、困り顔の北原さん。
まあ、確かに北原さんは、洋服というより和服――いや、もうザ・和服っ! って感じだしな。
そんな事を思いながら、もう一度、有子さん達の方へと目を向けてみるオレ。
照れている……と言うよりは、居心地が悪い、と言った雰囲気の有子さん達。
普段のジャージ姿――と言っても、一度しか見てないけど。そのジャージ姿とは、真逆と言っても過言ではないオシャレな装い。
「い、いいセンスしてると思うよ……」
ま、まあ……似合う似合わないは置いといて、服のセンスはいいと思う。
もっとも、オレ自身それほどオシャレに詳しくもなければ、センスに自信もないけど。
「ホントですか!?」
「あ、ああ、うん……」
ただ、そんなオレの言葉に、パッと笑顔を咲かせる北原さん。
「良かったですねっ、有子さんっ! よく似合ってると、南先生のお墨付きも頂けました」
えっ? ち、ちょっ……? に、似合ってるとは、一言も言ってないけど……
とゆうか、似合うかどうかで言えば、いつものジャージ姿の方が似合ってると思いうぞ。
とはいえ、頬を赤らめ、バツの悪そうに頬をポリポリとかくお姉様達へ向かって、そんな事を言い出す勇気はないけど。
「ま、まあ、別にアタイら、いつものジャージでも良かったんッスけど……」
「その方が、落ち着くッスし……」
うんうん。その気持ちは、よく分かる。
服なんてというのは、普段、着慣れた服装が一番だ。
女装とか、あまつさえメイド服なんていうのは、落ち着かない事この上ない。




