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『オレの生徒はお嬢様!?』  作者: 宇都宮かずし
第二部 オレの生徒は男性恐怖症!?
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第二十九局 後始末 二本場『更に増えるライバル』

挿絵(By みてみん)


「つばめさん、今回はホント世話になりました」

「いえいえ、気にしないで下さい。有子さん、美佳さん」


 この会話を聞くに、お互い顔見知りなのだろう。

 まあ、つばめも北原で剣術を学んだ身。顔見知りだとしても不思議ではない。


「でも、お嬢さんが(さら)われたのを知らせてくれたばかりか、無傷で助けてもらって……」

「みなさんには、ホント感謝の言葉もねぇッス」


 つばめに向かい、深々と頭を下げる二人。


 違う……みなさんではない。

 北原さんを助けたのは、つばめでもなければ、当然わたしたちでもない。実際に北原さんを助けたのは南先生だ――


 わたしは、そう言ってやりたいのをグッとこらえる。

 何故なら……


「有子さん、間違えないで下さいね。今回、わたくしたちが動いたのは、忍さまの件とはあくまでも別件。西園寺家も白鳥家も、忍さまを助けようとした訳ではなく、コチラの都合で勝手に動いていただけ」

「ですから、忍さまが助かったというなら、それは勝手に助かっただけだ、でございます。なので、コチラは感謝される謂れはないし、ソチラも感謝の言葉を口にしてはイケねぇ、でございますよ」

「有子さんも北原に属する者なら、この意味は分かりますね?」


 そう、今回の件は、家同士の軋轢を生まない為に、西園寺家も白鳥家もあくまで別件で動いた事になっている。


 一番の功労者である南先生を、その大義名分にして……


 上流階級の世界はそういうモノ。そう言ってしまえば、それまでかもしれない。

 しかしこの世界は、感謝の言葉すらも自由に言えないような、(いびつ)でとても(ゆが)んだ世界……

 今日ほど、こんな世界を何の疑問もなく受け入れていた自分が情けなく、そして自由な先生たちの世界を羨ましいと思った事はない。


 悔しさとやり切れない思いから、強く唇を噛み締めるわたし。

 そして、やはりつばめの前に立つ二人も、わたしと同じように唇を噛み締めていた。


「クソッ! だいたい、南先生はどうしたんだよっ!?」

「あれほど、お嬢さんの事を頼んだのに、簡単に一人にしやがってっ! 今度会ったら、ヤキ入れてやるッ!!」


 振り上げた拳の下ろし所が分からず、八つ当たりするように、その矛先を南先生へと向ける二人。


「ああ、南先生ならコチラにいらっしゃいますよ」

「まあ、ヤキ入れてやるのは構いませぬが、せめて傷が治ってからにしてやって欲しいのであります、でございます」


 そう言って、つばめと撥麗さんは、横たわる南先生に視線を落とした。

 その視線を追うように南先生へ目を向けると、(いぶか)しげに眉を眉間に寄せるジャージ姿の二人。


「イヤイヤッ! アタイらが言ってんのは、こんな細っこいカマみてぇな野郎の事じゃなくて」

「お嬢さんのガッコで、先生してる南先生の事ッス」


 オカマみたいとは失礼なっ!

 そりゃあ先生は、線は細いし中性的な顔立ちだし、女装すると美人で本物の女性よりも女性っぽいですが、れっきとした男性ですっ!


 つばめは、思わず頬を膨らませてしまったわたしの顔をチラッと横目で見て、クスクスと笑いながら話を続けた。


「その南先生が、コチラの方なのですよ」

「「はあ?」」

「ですから、今朝、駅前で有子さんたちと会った南先生が、コチラにいる南友也さまなのですよ」

「はあぁぁぁああぁぁぁ~~~~~っ!?」×7


 つばめの前にいる二人だけでなく、ジャージ姿の女性全員が揃って素っ頓狂な声を上げる。

 その姿を見て、つばめは更に楽しげな笑みを見せながら、事の成り行きを語り出した。


 白鳥さんは話を聞いて南先生を容認してくれたけど、彼女たちはどうだろう?

 正直、北原家が相手では、西園寺家の力を持ってするならともかく、わたし一人の力ではとても庇い切れない。


 わたしは一抹の不安を抱えながら、つばめの話を聞いた彼女たちの審判を待った。



 そして……

 …………

 ……



「うおぉぉぉぉぉおおぉぉ~~~っ!! (おとこ)だぜっ、南先生ぇぇぇぇ~っ!!」

「アタイは今、モーレツに感動しているぅぅぅ~!!」

「お嬢さんを助ける為に無抵抗でボコられ、その上で剣字の野郎とタイマン張って勝っちまうなんてよぉ~!!」

「それに、四年前の大阪で、お嬢さんを助けたのも南先生だったとはっ!!」

「しかも、自分の全国優勝を棒に振ってまで、ウチのお嬢を……」

「惚れたっ! アタイは先生の男気に惚れたっ!!」

「怪我が治ったら、是非ウチらを妹分にして下せぇっ!」

「一生着いて行くぜ、南先生ぇっ!!」


 横たわる先生の周りに座り込み、号泣する女性たち。


「あらあら……これは、ライバルが一気に増えてしまいましたね? お嬢様」


 楽しそうに、からかうような笑みを見せるつばめに、わたしは頬を膨らませてソッポを向いた。

 とゆうか、横たわる先生を取り囲んで泣く絵面は、とても不吉な感じがするのでやめて欲しい。


「さてっ――有子さん。ゴミは適当に縛ってまとめてありますので、あとは任せても構いませんか?」

「おうっ! アイツらにはヤキぶち込んで、キッチリとカタァ()めたりますよっ!!」


 そう言ってスクっと立ち上がり、千鳥たちに縛られた男たちの方へと歩きだす女性たち。


「おうっ! いつまでも寝てんじゃねぇ、オラッ!」

「さっさと立てや~っ!」

「キッチリケジメつけたるけぇ、覚悟しいやっ、コラッ!」


 ウチのメイドたちや撥麗さんに、あれだけヤラれた上に、あの女性たちにまでなんて……


「自業自得とはいえ、少しだけ同情してしまうわね……」

「何を言ってんですか、響華さまっ!」


 思わず、そんな事を漏らしてしまったわたしに、真琴さんが眉を吊り上げ顔を寄せて来る。


「アイツらには、あのおネエさん達のヤキ入れが終わったら、わたしによる社会的制裁が待っているんですから。フフフ……生まれて来た事を後悔するがよいわ」


 口角を吊り上げ、不敵に笑う真琴さん……

 まあ、あえて止めはしませんが、ほどほどにね。

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