表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『オレの生徒はお嬢様!?』  作者: 宇都宮かずし
第二部 オレの生徒は男性恐怖症!?
114/137

第二十八局 メイド達の狂宴 二本場『私怨』

「男の娘……」

「男の娘が、こんな酷い目に……」


 って……えっ?


「もし、そこに愛があったのなら、それもプレイの一環として受け入れましょう……」

「しかし、愛もなく、いたぶるだけの行為は、ただの暴力……」

「くっ……男の娘への暴力とは、なんと許し難い蛮行か……」


 え、え~と……何を言ってんの、この人たちは?


 コンテナの上からオレを見下ろすメイドたちが、怒りに身を震わせながら絞り出した言葉……

 ただ、オレにはその言葉の意味が全く理解出来ない……いや、理解する事を、脳が拒否していた。


 しかし、その言葉を聞いて、嬉しそうに一歩前へと踏み出すつばめさん。


「その通りですっ! そして、その蛮行を行った愚か者たちに、わたくしたちは罰を与えなければなりません――しかし、間違えてはならないのが、その罰を与えるという行為は、徹頭徹尾わたくしたちの私怨だと言う事。この者たちが、北原家の忍さまを拉致した件とは無関係。あくまでも、男の娘への蛮行に対する私怨から、彼らを罰するのです。いいですね?」

「はいっ!」×5

「よろしい――では、その愚か者たちを蹂躙(じゅうりん)なさいっ!!」

「はいっ!!」×5


 気合の入った返事と共に、一斉に走り出すメイドたち。

 その怒りの形相と迫力に、はまるで蜘蛛の子を散らすように逃げ出す男たち。


 しかし、西園寺お抱えの格闘メイドさんが五人もいれば、あの馬鹿共を取り逃がす事はないだろう。


 とはいえ、せっかく助けに来てくれたの人達に、こんな事を言うのは何だけど――


 全然、嬉しくねぇ……


 そもそも、私怨だ何だって、何か意味があるのか?


上流階級(ジェントル)の世界というのは、色々と複雑なモノなのですよ、友也さま――」


 そんな不思議顔を浮べるオレの疑問を察してか、ニッコリと微笑みながら語り出すつばめさん。


「他家の揉め事に首を突っ込めば、家同士に()らぬ軋轢(あつれき)を生んでしまいます」

「特に北原家は、体面を重んじる武家の家系ですからなぁ、でございます」

「ですから、わたくしたちが動くには、本件とは別に何らかの理由が――何より、北原家が納得するだけの理由が必要なのですよ」


 う~ん……相変わらず、金持ちの考えは良く分からん。

 まぁしかし、話を要約すると――


「つまりオレは、(てい)よくその大義名分に利用されたってわけですか?」

「いえいえ。ただの大義名分だけでは、わたくし達も彼女達も、ここまで本気になんてなりませんよ」


 本気に……ねぇ。


 オレが顔を顰めながら視線を前方へと戻すと、そこで繰り広げられていたのは、阿鼻叫喚の地獄絵図が再び……


 ある者は、竹刀で滅多打ちにされ。またある者は、ボコボコに殴り倒され。またある者は、多彩なキックで蹴り飛ばされ。またある者は、硬いコンクリートの床へと投げ飛ばされ。そしてある者は、関節を(あら)ぬ方向へと捻じ曲げられていた。


 一方的に相手を蹂躙するメイドたち。

 その形相は、触れてはイケないモノ……まさに、彼女たちの逆鱗へ触れてしまったかのようである。


 確かに大義名分だけではないようだけど……


「はぁ……ところで、つばめさん?」


 オレはげんなりとため息をつきながら、隣にいるつばめさんへと声を掛けた。


「なんでしょうか? 友也さま」

「もしかして、西園寺家のメイドさんって……みんな腐ってんの?」

「まさか。腐っているのは、ほんの八割程度ですわ」


 それだけ腐っていれば、充分『みんな』だ。


「まあ、家のメイドが一人でも腐り始めると、他のメイドもみんな腐ってしまうと言いますからなぁ、でございます」

「コレをわたくし達は、『腐ったメイドの方程式』と呼んでおります」


 何それ? 最近のメイドさんは、みかんか何かなの?


「とはいえ、あとは西園寺家(ウチ)の若いのに任せておいて、問題ないでしょう」

「まあ、やり過ぎてしまわないかダケが心配ですが、でございます」

「まっ、その時は戸籍ごと抹消して、存在ごと消えてもらいましょう」


 怖っ!? 上流階級、怖っ!!


 とはいえ――


 オレは軽く後ろを振り返り、横目にお嬢様たちの様子をうかがった。


 なにやら楽しげに話すお嬢様たち。その中で、北原さんも微かにだけど笑顔を見せている。

 彼女には言いたい事、そして謝らなくてはイケない事がたくさんあるけど――今、あの笑顔に水を差すのは野暮ってものだろう。


 でも、北原さんが――そして何より、みんなが無傷で解決出来て、ホント良かった。

 そう思った瞬間だった。突然全身の力が急激に抜けていき、目の前が真っ暗になっていく。


「ちょっ!? み、南先生っ!? でございますっ!!」

「友也さまっ!?」


 まるで、ぶ厚い壁越しに聞こえくる様な、撥麗さんとつばめさんのこもった声……


 ヤバ……この感覚、姉さんにチョークスリーパーをかけられて、落とされる直前の感覚にソックリだ……


「友也さんっ!?」

「お、お兄ちゃんっ!?」

「ちょっ! せ、先生っ!!」


 続いて、コチラに向かって駆け寄る、お嬢様たちの声……

 ただ、その声も遠近感が疎らで、どの方向から聞こえて来ているのかも(さだ)かではない。

 何より、身体の感覚もなくなってきて、今自分がどんな体勢なのかもハッキリしなくなってきた。


「お兄ちゃん、しっかりしてっ!! わたし、お兄ちゃんのツイ垢削除したり、パソコンのHDを破壊するのなんてヤダからねっ!!」


 それは困る……

 オレにもしもの事があった時には、HDを完全に破壊してくれ。そして、ツイ垢は裏垢もあるから、そちらも忘れずに頼む……


 ただまぁ、今回は心配しなくても大丈夫だよ、真琴ちゃん……多分、気絶するだけだから……


「つばめっ! 急いで医者と車の手配をっ!」

「かしこまりました、お嬢様っ!」


 医者? 医者はやだなぁ……

 万が一、姉さんの隣のベッドに運ばれて、今回の(てい)たらくがバレたら、なんて言われることか……


 そう言えば、こういった怪我に詳しい人がいたなぁ……

 正直、あの人には、あまり頼りたくないけど……今回は仕方ない……


「い、医者はいい……そ、れより、も……二丁目に……ある、白百合のき………………」


 オレは、最後まで言葉を発せたのだろうか……?

 それは分からないし、確かめる手段もない。


 なぜならオレの意識は、そこで完全にブラックアウトしてしまったのだから……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一日一ポチお願いしますm(_ _)m
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ