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『オレの生徒はお嬢様!?』  作者: 宇都宮かずし
第二部 オレの生徒は男性恐怖症!?
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第二十七局 大乱闘 三本場『巻き上げ』

「オラッ! 毛ぇ剃って、ランドセル背負(しょ)ってから、出直して来いやっ!!」


 下衆い事を喚きながら、警棒を振り下ろす坊主頭――


「真琴ちゃぁぁぁーーんっ!!」

「きゃああぁぁぁぁーーっ!!」

「いやぁぁああぁぁーーっ!?」


 オレの叫び声に、響華さんと白鳥さんの悲鳴が重ってこだまする中、真琴ちゃんの頭上へと迫る漆黒の棒身。


 次の瞬間に起こるであろう凄惨な結果が頭を過り、心臓が激痛を伴う程に跳ね上がる。


 が、しかし……


「な、なっ……?」

「………………」


 予想していたよりも、遥かに軽い衝突音。そして、交差した腕の僅かに手前で止まる警棒と、驚きに言葉を詰まらせる坊主頭のペド野郎――


「わたくしの友人に指一本触れる事、(まか)り成りません……」


 そう、振り下ろされた警棒を止めたのは、和装美少女の持つ一本の竹刀。学院最強の称号を持つ、北原さんの竹刀だ。


「テ、テメェ……そんな細っこい腕で、何度も受け止めれられると思うなよっ!」


 激昂し、再び警棒を振り上げる坊主頭。


「確かに腕力(かいなじから)では、敵わないでしょう。しかし……剣術は力だけにあらずっ!」


 力任せに思い切り振り下ろされる警棒。しかし、北原さんは慌てる事なく、その鉄製の棒身へと軽く竹刀を合わせた。


「なっ!?」

 なっ!?


 坊主頭の驚きの声と、オレの心の声が重なった。

 まったく力など入ってないように見えた、北原さんの竹刀。しかし、その竹刀に触れた瞬間、警棒は遥か上方へと舞い上がっていたのだ。


「セイッ!」

「がはっ!?」


 そして、驚きに棒立ちだった坊主頭の鳩尾(みぞおち)へ、北原さんの両手突きが容赦なく突き刺さる。


 激痛に加え、呼吸が上手く出来ずに、苦しげな表情を浮かべて両膝を着く坊主頭。そして更に、その短く刈られた頭へ、先ほど高く舞い上げられた警棒が直撃。

 短い呻き声と共に、真琴ちゃんに蹴り倒された男たち同様、土下座するような体勢で崩れ落ちた。


 今の技って……もしかして巻き上げか?


 相手の打ち込みに対し、刀身の側面に自分の刀身の側面を合わせる。そして、相手の鍔元の方へ刀身を滑らせながら、クルリと相手の刀身を巻き込んで跳ね上げる剣技。

 タイミングを取るのが難しい上に、強靭にして柔らかく、そして滑らかな手首のスナップが要求される技で、実戦で決まる事などは殆どない。


 一度だけ、テレビでやっていた剣道の試合で見た事があるけど……その時は、巻き上げられた竹刀が体育館の天井へと突き刺さっていた。


 北原さんは、そんな高度な技を、竹刀の半分にも満たない長さの警棒を相手に平然とやってのけたのだ。


「うえぇ~ん、忍ちゃ~んっ! 怖かったよぉ~。剃られちゃうかと思ったよぉ~~。でも、お兄ちゃんが実はロリ趣味だっていうなら、それもアリかなとか思っちゃたよぉ~~~っ!」


 そんな学院最強剣士の胸元へ、顔を埋めるように抱きつき、泣き崩れる真琴ちゃん。


 てか、かなり嘘泣きくさい……

 ちなみに、お兄ちゃんにはそんな趣味ありません………………おそらく。


「ちょっ、ま、真琴さまっ!? そんな所を掴まれたら、着物が(はだ)けてしまいます……って! そ、そこはっ!?」

「(モミモミ)……ふっ、勝った――って、あだっ!?」


 何やら羨まけしからん行為を始めた真琴ちゃんの脳天へ、生徒会長さまによる正義の鉄槌が落とされる。


「助けてもらっておいて、何を不埒な事してるのですか? あなたはっ」

「そうですわっ! それに、見ているコチラの寿命が縮みましたわよっ!」

「ふぅ~んだ……別に助けてくれなんて言ってないしぃ~。実はあそこから、必殺の金的オーバーヘッドキックが炸裂する予定だったしぃ~~」


 頭を押さえながら、涙目で強がる真琴ちゃん。

 そう、明らかな強がり。その証拠に真琴ちゃんの膝は、さっきからずっと震えっぱなしなのだ。


 その事を知ってか知らずか――

 いや、おそらく気付いているだろう。北原さんは、開けかけた襟元を直しながら、真琴ちゃんへ向けて優しく微笑みかけた。


「それは大変失礼致しました。お詫びに、皆さまの身はわたくしが(まも)らせて頂きます」


 北原さんは、そう言って恭しく頭を下げた。


「うむっ、良きにはからえ」

「まぁ~た、この子は……すぐ調子に乗るのですから」

「まったく……ほんと、お調子者ですわね」

「い、いや……お調子者とか、白鳥さんにだけは言われたくないんですけど……」

「なんですって~っ!?」


 北原さんは、そんな先輩お嬢様たちのやり取りを、微笑ましい目で見つめている。


「ね、ねぇ……忍ちゃん?」

「は、はいっ! なんでしょう? 真琴さま」

「そ、そのぉ……ありがと……ね」

「――――――――はいっ!!」


 照れくさそうにお礼を言う真琴ちゃん。北原さんは一瞬だけキョトンとした顔を見せたが、その顔はすぐに満面の笑みへと変わっていった。


 お嬢様学院の中でも飛び抜けて濃いメンツの三人に、北原さんが溶け込めるか少々不安ではあるけど……

 まあ、その辺は、真琴ちゃんのコミュ力に期待しよう。


 さて、学院最強の北原さんが護衛に付くなら、あちらは問題ない。


 残る問題は――


 オレはフラつく足取りで、後方のメイドさんたちへと振り返った。


 そう、残る問題は、このお姉様たちがヤリ過ぎて死人が出ない事を祈るだけだ。

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