第二十五局 ゲーム開始 二本場『正義とは……』
「ちょいとつばめさんっ! こんな馬鹿げた事に、いったいどんな意味があると言うんですのっ?」
メイド達の答えに、わたしと同じく眉を顰めた白鳥さん。
一拍置いて、顰めた眉を吊り上げながらメイド達に詰め寄り、わたしの思った事と同じ事を一言一句違わず口にした。
「そうですねぇ――人質の忍さまを助ける為のスキを作る事。忍さまを騙していた事に対する贖罪の気持ち。前回、上手く立ち回れず、忍さまに男性恐怖症という精神疾患を負わせてしまった自分自身への怒り……と、色々と理由付けはできますけど、ひと言で言うなら、『ケジメ』でしょうか?」
「ケジメ……?」
「はい、ケジメです――善悪は別にして、あの男達が最初に大阪で忍さまを襲ったのは、いわば北原家に対する復讐。そこには確かに、彼等なりの正義がありました」
「正義ですってっ!? 一人の少女に寄ってたかって暴行し、辱めようとする事の、どこに正義があると言うのですかっ!?」
つばめの提示した答えに、声を荒げる白鳥さん。
確かに白鳥さんのその通りだ。わたしもそんな行為には、正義の欠片も見えない。
しかし、メイド達は顔色ひとつ変える事なく、淡々と言葉を繋げた。
「必ずしも、正義がイコール『善』という訳ではないのですよ、お嬢様方。物事の善悪や正義というのは、立場や見方が変われば、オセロの様にコロコロと簡単に入れ替わってしまうモノ。確かに葵さまのおっしゃる通り、少女へ集団で暴行しようとする行為は『悪』です。しかし、ココに集まっている連中は、それが悪い事だと分かっていて、敢えてそれをしているのですよ」
「人と違う事、人のやらない事をするのがカッコイイと勘違いしている、いわゆる中二病。その中でも特に厄介な、決められたルールを守らず、悪い事をするのがカッコイイと勘違いしている、不良系中二病というヤツだ、でございます」
二人の言葉に、ふとっ、学院で再会した南先生に言われた言葉を思い出した。
『学院内での常識も、一歩外に出たらその常識が通用しないような人が居ます。確かにあなたの言った事は正論だけど、その正論も通用しない人もたくさん居ます――いいですか、ああゆう人は悪い事していると分かっていて、敢えてやっているんです。そんな人に悪い事は止めなさい、と言って止める訳がないでしょう』
あの時、まるで世間知らずだと言われているようで、わたしは腹を立てた。
しかし、実際は先生の言う通りだ。わたしの知る常識は、本当に狭い世界の常識でしかない……
「少々話が逸れれてしまいましたけど――彼等にとって復讐は『正義』。その正義の邪魔を、それも暴力的な手段で邪魔をした南先生は『悪』……そんな構図が成り立っている訳です」
「そ、そんなのは、逆恨みではないですか……」
白鳥さんのひとり言みたいな呟き。メイド達は、その呟きに苦笑いを浮かべながらも、更に言葉を綴った。
「そんな集団中二病の小僧共が、拉致した忍さまの解放の条件として出して来たのが、このゲームとやら、でございます」
「だから南先生は筋を通すべく、ケジメとしてこのゲームを受けたのですよ」
「だからと言って、なにもこんな馬鹿げた事をしなくても……もっと、他にヤリようがあったのではないんですの?」
白鳥さんの問いに、二人の表情が苦笑いから微笑みへと変わった。
「確かに馬鹿げたヤリ方だし、もっと賢いヤリ方もあったでしょう、でございます」
「しかしお嬢様方、よく覚えて置いて下さいまし――基本、殿方というのは馬鹿な生き物なのですよ」
な、なんて身も蓋もない言われよう……
「しかも南先生は、己の意地やプライド、そして信念の為なら、どんな馬鹿な事も厭わない、典型的な馬鹿だ、でございます」
「そんな馬鹿な殿方が、身体を張って己の我を通そうとしているのです。黙って見守るのが、淑女としての嗜みというですよ」
「そして真琴さまは、それが分かっているから何も言わず、さりとて目も逸らさずに、南先生を見守っている、でございます」
そう言って撥麗さんは、このゲームが始まってから、ひと言も発していない真琴さんの方へと目を向けた。
真剣な表情を浮かべ、眉ひとつ動かさずに、ジッと前だけを見つめている真琴さん……
「お二人も、少しは真琴さまを見倣い下さいまし。時には、黙って殿方のしたいようにさせてやる寛容さも、淑女には必要でございますよ」
「そうは仰いますが、つばめさん……このゲームとやらに先生が勝ったとして、あの方々は本当に約束を守って下さるんですの?」
「あらあら、葵さま――あの方々が、約束を守るような人達に見えるのですか?」
「はあぁぁ~、葵さま……主として、もう少し人を見る目を養っていただかないと、仕える撥麗の方が恥ずかしい、でございますよ」
「ちょ、なっ!?」
からかうような笑みを浮かべるつばめと、あからさまに落胆の態度を見せる撥麗さんに、白鳥さんは顔を紅潮させて、目を見開き言葉を詰まらせる。
人を見た目で判断すべきでは無いけれど、確かに約束なんて守るような人達には見えない。
「連中は間違いなく、約束を反故にしやがる、でございます。とはいえ、南先生の方は、キッチリと筋を通している、でございます。その上で約束を反故にするわけですから、その時はコチラも遠慮はいらねぇ。キッチリと落とし前をつける、でございますよ」
「はい。むしろ、反故にしてもらわないと困ります。でないと、こんなのを見せ付けられて、溜まりに溜まったこのストレスをどこに向ければ良いのやら――全員を、足腰立たなくなるまで可愛がってスッキリしないと、明日からの職務に支障をきたしてしまいます」
口角を吊り上げ、不敵に笑うメイド達に、ゾックっと背筋が凍りついた。
な、なるほど……コレが、たまに先生の口にする『黒い笑み』というモノか……
「足りない……」
普段見られぬメイド達の言動に、ずっと沈黙を守って来た真琴さんが口を挟むように呟いた。
どうやら、先生の相手が交代するタイミングのようだ。
ずっと前を向いていた真琴さんは、首を捻り真剣な表情をコチラへと向けた。
「ここまで好きにされて、肉体的な制裁だけじゃ、ぜん~~っぜんっ足りませんよ――その後に、生まれて来た事を後悔するレベルで社会的にも抹殺しないと……わたしのツテとコネを総動員してでも、ふっふっふっ……」
メイド達と同じように、口角を吊り上げて黒い笑みを浮かべる真琴さん……
「なるほど――では、そちらの方もお手伝いしましょう。西園寺家、全メイドのコネを総動員して、ふっふっふっ……」
「では、撥麗も白鳥家のメイド達に協力を呼び掛ける、でございます、ふっふっふっ……」
「くっくっくっ……越後屋ぁ、お主らも悪よのう」
「いえいえ――」
「お代官さまほどでは、でございます」
「「「ふっふっふっ……」」」
揃って『黒い笑み』を浮かべるながら寸劇を演じ始める三人。
そのあまりの迫力に恐怖を感じ、わたしと白鳥さんは思わず抱き合いながら身を竦めてしまった……
そ、そういえば、この同じやり取り――友子さんの病室でも見た気がする。
コレって何か、決まり事みないなモノでもあるのかしら? あとで、つばめに聞いてみよう。
って、今はそれどころではない。
この惨劇も、あと一人で終わり。
まだ、つばめ達の話は、よくは理解出来ていないけれど……
しかし、コレが先生の意思であり、先生なりのケジメというのであれば、目を逸らさずに見届けよう。
それが唯一、今のわたしに出来る事なのだから。




