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エルネスタの一日

 私の朝は早いです。


 日が昇る頃、グランテーサ王国の王都の端にある小さな家のベッドの上で目を覚まします。天使にだって休息は必要です。ミツキ様がそう望まれて創られたので、生命維持の為に睡眠と栄養補給をする必要があります。多少の徹夜は問題ありませんが、続くと体に堪えますね。


 目を覚ました後はお風呂で体を清めます。汚れた体では籠絡が難しくなりますからね。特に髪は入念に洗います。密着する時、鼻に一番近付くのが髪です。臭ったら大変なのです。


 お風呂の後はお弁当を二人分作ります。勿論、私と籠絡対象であるチコの分です。以前に記憶を覗いた際、妻がお弁当を作るのは鉄板だと学びました。手間はあまり掛かりませんし、チコも受け取って食べてはくれるので、最近は毎日作っています。


 チコは意外と小食なので、少し小さめのお弁当箱にお米と卵焼き、腸詰肉と野菜の炒め物、デザートに塩水に浸けたウサギ型のリンゴを入れて置きます。日本という国では鉄板のお弁当らしいですが、気に入ってもらえているようです。お米を扱っているクラウディオ商会には感謝ですね。


 お弁当を綺麗に包み終わったら朝御飯です。献立はお弁当を作った時に余ったお米とおかず、出汁を使った澄まし汁です。出汁の原料の海草を含め、材料は全部クラウディオ商会から仕入れています。最近、醤油が入荷したのでバリエーションが豊かになりました。


 さて、お腹を満たしたら次は着替えです。学園指定のブレザーとスカートですが、これをチコの好みの通りに着ます。ですが、偶に趣向を変えてギャップ萌えという物を狙います。今日はスカートを短めにして、膝を見せてみましょうか。髪も後ろで縛って、ポニーテールにしましょう。


 鏡に映る姿が完璧になればいよいよ出発です。チコに買ってもらったローブとバッグを身に着けて、此処から一時間の学園へ向かいます。勿論、道中の挨拶も忘れません。


「あ、およめさまー!おはよーございまーす!」

「はい、おはようございます」

「おやおやお嫁様、今日も学園かい?」

「おはようございます、学園ですよ」


 あの式典以来、私は街の人にお嫁様と呼ばれるようになりました。少々恥ずかしいですね。ですが、外堀は着実に埋まっています。


 学園に着いたら、そのままAクラスの教室へ直行です。チコは恥ずかしがり屋なので、私が学園に着く頃にはもう椅子に座っています。今日も椅子に座って、机の上に身を投げ出していました。


「チコ、おはようございます」

「エルか……おはよう」


 机に突っ伏したまま、チコが挨拶を返してくれます。実際は気配で私の事は察知済みだったのでしょうね。気配を消す技術には自信があったのですが、チコには全く通用しないのです。流石は未来の旦那様です。


「不穏な気配がした」

「気の所為ですよ」


 そうそう、式典の後からまた愛称で呼んでくれるようになりました。着実に距離が縮まっている証拠ですね。目標は一ヵ月後です。


「また不穏な気配がした。エル、何考えてやがる」

「乙女の秘密は探る物ではありませんよ」

「乙女……?」

「下」

「すみませんでした」


 全く、チコにはデリカシーという物が足りません。年齢は最早数え切れませんが、私の外見は立派な美少女です。それに、今までチコのようなイレギュラーはいなかったので、まだ経験もありません。乙女ですよ、乙女。


 それと、普段との違いにはしっかり気付いてくれたみたいです。顔を真っ赤にしていました。それを見ると、悪戯したくなってしまいます。


 自分の席に座ったら、チコの頭をつっつきます。黒が一、灰が六、白が三のまだらになっているチコの髪は、拷問を担当する天使ですらも真っ青になるような訓練の結果だそうです。良く心が壊れなかった物だと思います。


「おはようなのである!」


 つっつく度にぴくんぴくんと肩を震わせるチコの反応を楽しんでいると、大きな音を立てて開いた教室の扉から金髪で長身の細マッチョの男性が入ってきました。チコの数少ない友人の一人、マラヴェンターノ侯爵家嫡男、エウヘニオさんです。


「フハハハハ!剣聖殿は今日もお疲れであるか!」

「朝っぱらから煩いですねケムベヒヨさん。首でも飛ばしますか?」

「エウヘニオである!それと勘弁して欲しいのである!」


 真っ青になったエウヘニオさんが、自分の荷物を置いてチコの隣の席に座りました。もう席を交換した方が良いと思うほどに、エウヘニオさんはそこの席に入り浸っています。元の持ち主の人も慣れてしまったようです。


 それにしても、チコは相変わらずエウヘニオさんの名前を覚えませんね。母音は合っているのですが、毎回子音が変わっています。ケムベヒヨとか、完全にエウヘニオの面影が無いと思うのです。わざとでしょうか?


「今日の授業は何であったか」

「午前は放出系魔法学、算学。午後は近接戦闘術です」

「げ。エル、手加減してくれよ」

「大丈夫です。魔力が尽きたなら補充してあげますよ」

「フハハハハ!相変わらず仲の良い夫婦である!」


 チコの逆鱗に触れたエウヘニオさんが絞められてます。完膚なきまでに叩きのめされています。自業自得とは言え、流石にやりすぎな気がしなくもありません。あ、落ちました。


「おいてめぇら、始まんぞ。席に座れ」


 エウヘニオさんが崩れ落ちると同時に、担任のベルナベ先生が豪快に入ってきました。朝のホームルームが始まるようです。チコはエウヘニオさんを椅子に運んで戻って来ました。優しいですね。


「あー、先日の都外実習の集計結果が出た。このクラスからはエウヘニオが入賞してるから、午後の授業前に報酬を学園長室まで取りに行くように……なんでコイツ気絶してんだ?」


 ベルナベ先生の疑問に、クラスメイト達は無言でチコを見る事で答えました。チコは目を逸らしていますね。ベルナベ先生から飛んで来た殺気付きチョークも華麗にキャッチしています。流石と言うべき……なんでしょうか?


 しかし、都外実習はあの三人パーティーが上位に入ったんですね。実力者が揃っていただけあって、しっかり数を仕留めていたようです。バランスも良かったですし、納得です。


「チコ、後でエウヘニオにしっかり伝えとけ」

「了解です」


 考え事をしている間にホームルームが終わったようです。ベルナベ先生は何処か疲れきった様子で教室を出て行きました。生徒達も、次の実習の為に出て行きますね。私もそれに続きます。


 冒険者装備になったら、校庭の端にある放出系魔法実習場で全員集合です。担当の教師は既に到着していました。


「はーい、授業始めるよー」


 放出系魔法学の教師はグラマラスな紫髪の女性です。チコの記憶によると、テンプレの魔女さんらしいです。確かにあのとんがり帽子は中々インパクトがありますね。


「えー、実習の前に復習だ。放出系魔法を使う際に最も重要な事。えー、エウヘニオ」

「イメージである!どんな現象を望むのか、その過程や結果を正確に思い描くのである!」

「正解。術を使いたい時は魔力を扱うんだよ。イメージはしちゃ駄目だからね。さ、今日は数を撃つ練習だ。チコは的ね」


 グラマラスお姉さん先生の指示で、クラスメイトが実習場に広がって行きます。チコは放出系魔法が使えないので、的に混ざって魔力破戒の練習をします。当然、チコに魔法を撃つのは私です。


「良し来い。全部捌いてやる」

「やれるものならやってみてください」


 剣を構えたチコに、規模の小さい魔法を大量に叩き込みます。今日は授業が終わるまで持つのでしょうか?チコの魔力量は増えてきているので、今日は最後まで粘られてしまうかも知れませんね。


「ぬおぉぉぉ……」


 授業終了数分前、チコがとうとう魔力切れを起こしました。これは次の授業では最後まで粘られてしまいますね。まぁ、そんな事は絶対にさせませんが。


「大丈夫ですか、チコ?」

「おう……ありがとう」


 チコの肩に手を置き、私の魔力を譲渡します。チコの魔力容量は風呂桶程度なので、譲渡しても海のような魔力量を持つ私には何の負担もありません。先日の竜との戦いではかなり削られましたが、水深が百メートル下がる程度でした。


 ちなみに、私が一番苦戦した戦いの時は魔力が尽きました。あの時は本当にギリギリの勝利でした。一歩間違えれば、今頃私はチコと一緒に日々を過ごす事は出来なかったでしょう。生きてて良かったです。


 放出系魔法学の後は算学ですが……学ぶ必要は特に無いんですよね。チコも私もそれなりに計算は出来ますから、この時間は専ら外を眺めていました。あぁ、竜山脈は何時見ても綺麗です。


 そして待ちに待った昼食の時間です。何時ものように食堂に集まったのは、チコと私、そしてBクラスのディオニシオさんです。エウヘニオさんは学園長室ですね。チコが上手く厄介払いをしていました。


 ディオニシオさんは、私から見ても整った容姿をした男性です。ですが、姿や声は女性にしか見えません。男の娘と言うらしいですが、この姿で立派な剣士だと言うのですから驚きです。チコが唯一、本当の友人として接している相手です。


 エウヘニオさん?打算が八割程度では無いでしょうか。


「ディオニシオさん、報酬は受け取らなくても良いんですか?」

「あの、エウヘニオさんがボクの分まで受け取って来てくれるらしいので」

「なるほど」


 席を確保しながら、チコがディオニシオさんと楽しそうに談笑しています。何でしょう、心の奥底がもやもやします。男性と男性の絡みなのですが、どうしても男性と女性の絡みにしか見えないからでしょうか……。


 思えば、ディオニシオさんはチコと同じ部屋で寝泊りしているのですよね……チコが危ない方向に走らないように、頑張って誘惑しなければなりませんね。


「チコ、お弁当です」

「あぁ、うん……ありがとう」

「あの、やっぱりお二人は仲が良い夫婦みたいで……あぁっ!チコさん、頭が割れちゃいますっ!!」


 チコさんがディオニシオさんの頭をグリグリしました。女の子の悲鳴にしか聞こえないので、如何わしい現場に見えてしまいます。


 戯れが終われば昼食です。私とチコは私お手製のお弁当、ディオニシオさんは定食を食べます。うん、お弁当は完璧ですね。チコにも喜んでもらえているようです。


「ん、うまい」

「ありがとうございます」


 本場の味を知っているチコに誉められると嬉しいですね。少し気が抜けたのか、顔が綻んでしまいました。ディオニシオさんには見られていなかったので良しとしましょう。チコにはバッチリ見られてしまいましたが。


「あの、その白いのは何ですか?」

「これですか?これは米です。調理が難しいですが、上手いですよ」


 チコがディオニシオさんに説明しています。確かに調理は難しいですね。炊くなんて調理方法、パンがメインのこの世界では思いつき難いでしょう。最近はクラウディオ商会が普及運動をしているようです。主食としては非常に優秀ですからね。


 あ、ディオニシオさんがチコの箸からお米を食べました。あーんです、あーん。これは私も真似しなければなりません。


「チコ、私にも下さい」

「面倒臭い」

「下」

「はい、あーん」


 チョロイですね。美味しいです。


「あの、何でしょう。さっきのやり取りの時、何か悪寒が……」


 ディオニシオさん、それはきっと気の所為ですよ。決して私の殺気ではありません。


 その後は何時も通り中庭へ移動し、二人は素振りを始めます。私はのんびりとそれを眺める係です。二人の太刀筋は綺麗で、惚れ惚れします。恐らく、天使一の剣の使い手よりも上なのではないでしょうか。少なくとも、チコは上ですね。ディオニシオさんはチコの指導でどんどん上達していますし、いずれは越すでしょう。


 さて、昼の時間が終わればチコの独壇場、Bクラスと合同の近接戦闘術の授業です。チコは既に教師役の地位を確立していて、教師と生徒の両方を扱いているらしいですね。私は短剣術の方にいるのでどんな訓練かは知りませんが、時折聞こえて来る悲鳴から察するに相当厳しい訓練をしているのでしょう。何故授業なのに訓練なのでしょうか。


 斯く言う私も、天使としての恵まれた身体能力のお蔭で好成績を残せています。チコ程ではありませんが、人としての域は出ていますからね。


「あの……もう駄目……です……」

「まだまだ!後二十回!!」

「あぁぁぁぁぁ……!」


 ディオニシオさんの痛々しい悲鳴が響き渡っていますが、誰も助けには行きません。何故なら、行けば普段とは性格が違うチコの訓練に巻き込まれてしまうからです。私も行きません。疲れるのは苦手ですからね。


 さて、授業が終われば学園は終了し、私達は暇になります。人によっては研究会やサークルのような物に所属しているらしいですが、私とチコは基本的に暇なのでよく街に繰り出しています。案内役は勿論私です。


「チコ、デートに行きましょう。デート」

「えぇー……」

「下」

「よし、行くか、エル」


 移動中は勿論腕を組みます。この時、胸の部分の端っこを肩に押し付ける事が重要です。多少揺れれば触れてしまうという場所を保つ事によって、チコにこの胸の存在をアピール出来ます。しかし面白いほど顔が赤くなりますね、チコは。


 私とチコが腕を組んでいると、自然と衆目を惹き付けます。当然といえば当然ですね。私は大勢の人々の前でチコの嫁になる宣言をしましたし、チコはその私に独占されていますから。


「……恥ずかしい……」


 チコがそう呟いたので、更に密着してあげました。顔が茹蛸のようになって面白かったですよ。


 チコは意外にもかなりシャイな人です。私が演技をしていた頃は上手く自制していたようですが、そうはさせません。積極的に突っ込んで行きますよ。それこそが籠絡への道です。絶対に逃がしはしません。


 適当に王都を廻ってチコに色々と奢らせたら、次はセナイダちゃんとテオドラさん、旦那さんが新しく建て直した金色の小皿に行きます。資金は王国が全額負担してくれたらしいです。英雄が懇意にしている家族ですからね。蔑ろには出来ないのでしょう。


 一際立派になった金色の小皿の扉を潜ります。折角立て直すのだからと高級感溢れる安宿となったこの宿は、多くの冒険者から高い評価を得ているらしいです。今日も奥の酒場が賑わっていますね。


「あ、チコさんとエルお姉ちゃん、いらっしゃいです~」


 パタパタと可愛らしい足音を立てながら奥から顔を出したのは、栗色の髪と可愛らしい顔、子供らしからぬ胸とそれに見合わぬ眼帯を付けた女の子、セナイダちゃんです。お姉ちゃんと呼ばせているのは趣味です。良いと思いません?


「元気だったか、セナイダ」

「はい、元気にしてますよ~。冒険者の方々も優しいですし~」


 滅多に浮かべない微笑を浮かべながらセナイダちゃんと話すチコ。凄く似合っているのですが、あの顔を私に見せてくれた事は無いんですよね。ちょっと妬いちゃいます。


 そして、セナイダちゃんは多くの冒険者に愛されています。仮に彼女に乱暴を働いたりしたら、王都で活動している冒険者の八割が報復に動きます。この前、左目の事を馬鹿にした冒険者がボロ雑巾のようになって王都の外に放り出されていました。ギルドも黙認です。当たり前ですね。


「エルお姉ちゃん、今日も教えてくれますか~?」

「はい、頑張りましょうか」


 セナイダちゃんには放出系魔法の素質があります。それも、学園長のクリスティアーネさんを超えるほどの素質です。ですので、私が彼女に魔法を教えています。何時か人間で最強の魔法使いに育て上げるのが夢です。


 その間、チコにはセナイダちゃんの変わりに給仕をしてもらいます。無愛想で常に怒っているような表情のチコが給仕をするのは似合わないと思うのですが、意外と冒険者からは好評のようです。英雄に給仕してもらえるのが嬉しいんでしょうね。


 セナイダちゃんに魔法を教え、テオドラさんと旦那さんに挨拶をしたら金色の小皿を出ます。勿論、密着する事も忘れません。チコの髪は良い匂いです。


「クッ……振り解けない……ッ!」


 当然です。振り解かれないようにしていますから。


 私の家の前まで、チコと一緒に歩きます。既に日は傾き、壁の向こうに隠れてしまっています。オレンジ色の雲が目に眩しいですね。中々壮観です。


「今日も楽しかったですね」

「そうだな。また明日も続けば良いが……」

「調査結果、届いたのでしたね」


 普段の二割り増しの厳しい表情をしているチコが気にしているのは、ブラスという冒険者とあの竜が発した瘴気のような魔力の事です。調査によれば、私の知識にも無いあの魔力は、チコが奴隷として使役されていたというインバジオ帝国に関係があるらしいですね。


「あれを発した二体は理性を失っているように見えた……早めに背後を掴んで、叩きのめしておかないと」

「チコに手傷を負わせるほどの力を発揮する物ですからね。主にも報告はしてあります」


 チコは世を乱す可能性がある者として、天使である私に監視されています。それを梃子摺らせるほどの力を発揮し、理性を失わせるような物を放置してはおけません。早々に原因の人物を見つけ出して、監視または粛清する必要があります。


「一応完封する事は簡単だが、あれが軍事転用されでもしたら他の国は堪らないだろうな。劣化しているとは言え、先代剣聖……師匠が大挙して襲って来るような物だ」


 そう語るチコの顔は何処か辛そうです。記憶を覗いた限り、厳しかったとはいえ長い間を共に過ごした先代剣聖の事を憎みながらも慕っていたようです。剣に対して誇りを持っていたようですし、その誇りを汚されるのは複雑なのでしょう。


 それに、主も良い顔をしないでしょう。主は国が多く建ち、尚且つそれなりに平和な状態を好んでいます。インバジオ帝国が勢力を拡大していた時も、最後まで先代剣聖を排除するか悩んでいました。チコが生まれた事で止めたらしいですが。何故かは聞いた事がありませんが、大体察しは付いています。


「無いとは思いたいんだがな。帝国の事だから、他の三大国を飲み込もうとしてもおかしくはない」

「流石にそうなれば主が動きます。心配は要りませんよ」

「そうか……」


 チコを抑える事が出来る天使は少ないですが、先代剣聖を抑える事が出来る天使はかなり多いです。流石に大天使や権天使では無理ですが、力天使(ヴァーチュズ)主天使(ドミニオンズ)辺りになれば互角、それより上の上位天使ならば圧倒出来ます。チコがどれだけ非常識なのか良く分かりますね。


「なら安心だな。エルと違って真面目に仕事をしてそうだし」

「失礼ですね。私は何時も真面目です」


 チコの首を絞めている間に、私の家はすぐそこまで迫っていました。


「それではチコ、また明日に」

「あぁ」


 チコと分かれて家に戻り、着替えと洗い物を済ませてしまえば後は暇になります。その時間は、主であるミツキ様との交信に使っています。


「はい。後もう一押しですね。チコも満更では無さそうですし。はい、はい……えぇ?会いたい?駄目ですよ、認められません。えぇ、はい……だから駄目ですって、諦めて下さい。同郷だからって言っても駄目です……ずるいと言われても困ります……駄目ですって……いえ、嫉妬なんかしてませんよ?してませんってば……ですから……」


 全く、ミツキ様は自由過ぎて困ります。それに、色恋沙汰が好きな所も相変わらずですね。ですが、私がチコに恋をしているなどありえませんよ。あくまでも仕事です。


「えぇ……はい……本気で戦う時は見せても良いんですね?本当ですね?なら良いです……はい……はい、お疲れ様です……あまりリディアを困らせないで下さいね……はい、それでは」


 一時間に及ぶ交信を終了し、私はベッドの上に倒れ込みます。目的の許可は得られましたし、ミツキ様の御声も聞けましたし、大満足です。ですが、変な事を聞かれた所為か胸がもやもやとします……。


「……早めに寝ましょうか」


 一人小さく呟くと、私は部屋の明かりを消しました。明日も良い日になると良いですね。

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