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Monochrome―化物剣聖と始原の熾天使―  作者: 勝成芳樹
第一章―二人の邂逅―
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パーティーメンバー(選択肢無し)

 大規模盗賊団を殲滅し、狂ったブラスと戦い、エルと実質的なデートをするという怒涛の週末を過ごした翌日、俺は何時も通り学園に来ていた。現在は魔道具学の授業を絶賛聞き流し中だ。エルも余り興味が無いのか、明後日の方向を向いている。


「えー、つまり放出系魔法の一種である次元拡張を砕いた魔石で発動させ、その上から循環系魔法の魔力破戒を付加して固着させる事によって、君達の机や鞄のような中身が大きい収納用具が出来るのです。他の魔道具も大体同じですよ」

「先生!それはつまり、キッチンで使う加熱の魔道具は発火の放出系魔法を固定した物という事でしょうか?」

「その通り。全ての魔道具はそうして成り立っているのです。では、そろそろ時間ですね。授業はこれで終わりです」


 教師が授業の終了を告げると共に、生徒達が一斉に立ち上がって騒ぎ出す。俺は基本的に自分の席から動かないが、俺と関係を繋ぎたい人間が引っ切り無しにやって来てくれる。迷惑千万だが、有名税のような物なので仕方が無い。


「今日も一杯来ましたねぇ」


 後ろを向いて俺の机に突っ伏するエルがわざと聞こえるようにして言うが、一週間相手にされなくても諦めない生徒達は何処吹く風とばかりに無視した。寧ろ、何故お前がとエルを射殺さんばかりの眼光で睨み付けている者までいる。


「フハハハハ!今日もチコ殿は大人気なのである!!」


 殺伐としたその場所に颯爽と現れたのは、線が細く見える金髪の細マッチョ貴族、エルメニコさん。何とか侯爵家の嫡男で、全身鎧を着て全力疾走をする変態だ。そして、俺達と唯一良好な関係を築けている貴族でもある。


「今日も相変わらずですね、エブセイオさん」

「エウヘニオである!如何にも、絶好調なのである!!」


 エズメイオさんが高笑いをすると、周りに集まっていた生徒達がスゴスゴと退散し始める。強かな生徒達も、流石に自分達より立場が上の人間を差し置く事は出来ないらしい。彼がいるとこうして他の生徒達が去って行く為、かなり助かっている。つるんでいる理由の九割九分九厘がこれだ。


 一頻り笑ったエウベキオさんは、持ち主(平民)が追い出された横の席の椅子を俺の机の横に寄せてどっかりと座る。そしてぐたりと倒れ込み、脱力。俺の小さな机の上に、三つの頭が適度な距離感で持って並ぶまでが一セットだ。


「うぁー……」

「今日も疲れたのである……」

「実技でしたからね。俺は何とも無いんですが……」

「「 チコ(殿)と比べないで欲しいです(のである) 」」


 声を揃えて俺を糾弾する二人に内心で苦笑いをする。今日の午前二つ目の授業の近接戦闘術の実技が相当堪えたらしく、声にも張りが無い。教師がスパルタだったのもあって、魔法士タイプで体力が無いエルは勿論、タンクとして圧倒的な体力を誇るエブケチオさんまでが授業後に倒れていた。


 俺も真面目に実技を受けようとしたのだが、授業が始まって早速剣術の講師役を押し付けられ、Aクラスの生徒達と、合同だったBクラスの生徒達に教える破目になった。余り厳しくはしなかったつもりだったが、それでも生徒達にとっては相当厳しかったらしく、最後まで付いて来たのはディオニシオさんと他二名だけだった。


 ちなみに暇な時間はずっと素振りをしていた。


 俺達が暫くだれていると、激しい音を立てながら担任のベルナベさんが入室して来た。席を離れていた生徒達が慌てて戻り始め、エルも体を起こして正面を向く。


「おうお前等、今日もお疲れさん。実技が大変だったらしいが、此処での経験が後の生死を分けるからな。真面目にやれよー」


 ベルナベさんが教卓に書類を置きながら言うと、元気がある男子生徒からブーブーとブーイングが上がった。苦笑しつつ片手でそれを制したベルナベさんは、次に全員に書類を配り始める。


 基本的に、書類が配られる時は何かしらの重要事項を伝える時である為、全員が何かあったのかと書類を覗き込んだ。内容は都外実習についての連絡事項で、注意事項や当日の予定が羅列してある。


「来週の月曜と火曜だが、全学年合同での都外実習を行う。王都の外、つまり壁の外で魔獣狩りの実習だ。当然危険も伴うし、場合によっては死ぬ事も有り得る。そうならないように教師や雇われた冒険者が引率するが、注意事項はしっかり読んでおくように」


 真剣なベルナベさんの説明を聞きつつ、注意事項を流し読みする。内容は冒険者の規約や常識と殆ど変わらず、そこに引率の指示には従う等が追加された形だ。ある程度頭に叩き込むと、俺はその書類をバッグの中のゴミ箱に放り込んだ。


「当日は何人かでパーティーを組んでもらう事になる。冒険者やってる奴には馴染み深いだろうな。しっかりバランスを見て組めよ。野営の際に粗相をしない仲間と行くのも重要だ。それと当日は討伐数やランクをカウントし、ポイント化してランキングを発表する。上位入賞者には何か報酬があるらしいから、まぁ頑張るように」


 ランキングという言葉に生徒達が色めき立つ。此処にいるのは一年生ではあるものの、その中でも力を持つ人間が集まったエリート達だ。彼らのプライドがランキングという言葉に刺激されて興奮しているのだろう。上を目指す姿勢は素晴らしいと思う。


「それとだな……」


 話の締めに、ベルナベさんは俺の方を指差した。当然ながら指を追ってクラスメイト達の視線が全て俺に向く。俺は露骨に顔を顰めて見せ、ベルナベさんを睨み付けた。


「あいつとパーティーを組む奴は覚悟しておけ。俺でも付いて行けねぇ」


 真面目な表情で繰り出された言葉に、俺は思わず崩れ落ちた。人が来なくなる分擁護にはなるが、同級生に戦慄の目で見られるのはちょっと心に来る。


「チコ、安心してください。私は()()知ってますから」


 慰めるつもりであろうエルの言葉が、下半身に痛かった。






 その後、ホームルームが終わった俺達は何時も通りに中庭へ集まっていた。俺とディオニシオさんは剣を振り、エルはそれを観察。普段は筋トレ空間に飛び込んで行くエブレミコさんは、疲れの所為か飛び込んで行かずにエルの隣で俺達を観察していた。


「相変わらず綺麗な太刀筋ですねぇ……」

「しかも速さも凄まじいのである。どちらも近衛騎士の精鋭よりも剣速が上なのである」

「剣聖と剣帝の弟子と比べたら可哀想じゃないですか?」

「それもそうなのである。某も強さの基準がおかしくなって来ているのであるな……」


 そんな会話をしている二人を尻目に、俺とディオニシオさんは最後に大きく剣を振って納剣する。毎日のノルマである三千回は振り終わった俺達は、額に浮かぶ汗を拭いながらエルとエズメティオさんの横に並んで座った。


「あの、やっぱりチコさんは凄いですね。剣先が全くブレてませんでした」

「ディオニシオさんも中々ですよ。基礎を積めば今よりもっと良くなれます」

「あの、ありがとうございます!」

「それと、右手の握りが若干甘いですね。もっと小指の方に力を――」


 素振りをした後はこうしてアドバイスをするのも恒例だ。ディオニシオさんは俺のアドバイスを素直に受け入れ、どんどん吸収して行く為アドバイスをする方も楽しい。順調に一番弟子への道を進みつつある。


「あの、チコさんのアドバイスを受け始めてから剣が振りやすくなったんです。ありがとうございます!」

「……あぁ、うん」


 そして、男も女も魅了する笑顔から目を背けるのも恒例だ。かのz……彼はこういう所に無頓着だから困る。実際、Bクラスでは「ホモになってしまったかも知れない」と医務室を訪れる男子が後を絶たないらしい。さり気無く自重するように言っているのだが、ディオニシオさんに自覚が無い所為で全く効果を発揮していなかった。


「くっ!こんな所にもライバルがいたとは……しかも同棲ですか……」

「エルネスタ嬢よ、お主は男をもライバルと見做すか……」


 隣で悔しそうに歯噛みするエルと、それに突っ込むエブケリオさん。これも恒例だ。基本的に、俺達の日常は鍛錬とアドバイスと男の娘と嫉妬で成り立っている。物凄く微妙に思えるが、こういう生活も体験してみれば中々面白い物だ。


「あの、来週って都外実習ですよね?皆さん、パーティーはもう決めたんですか?」


 アドバイスも終わってのんびりしていたディオニシオさんが問うと、エルとベグメジオさんは顔を見合わせ、同時に俺の方を見た。キラキラと輝く瞳は、俺と同じパーティーに入りたいと全力で語っている。エルの目には「入れないとバラしますよ?」というメッセージも篭っている。


「……あ、はい、エルと一緒に行きます」

「当然です。チコのバックアップが出来る後衛は私しかいませんから」


 ふんすーと踏ん反り返るエルだが、実際その通りだ。エルの魔法の精度や速度は二天と呼ばれた学園長と同等で、戦闘のセンスも良い。高速で動き回る俺に合わせて攻撃出来る能力は魅力的だ。対多数戦で頼れる戦力になってくれるだろう。一緒に泊まった仲でもあるし。


「……某は?」

「え?」

「某は?」


 エルの横で俺を見つめ続けるベルヘミオさん。顔立ちは整っていて見苦しいという事は一切無いのだが、普段の性格を考えるとどうしても微妙に見えてしまう。


「……何の話?」

「某もパーティーに入れて欲しいのである」

「……必要無いかな」

「フハハハハ!チコ殿は照れ隠しが苦手なよ……あ、申し訳御座いませんでした」


 ヘンベギオさんをパーティーに加えても、正直に言ってやる事が無い。エルの魔法の発動速度は早い為にタンクは必要無く、いざとなれば俺がタンク役をこなせてしまう。エフレヒオさんの高い防御力を俺達の所で殺すよりも、他のパーティーでそれを存分に生かしたほうが良い。納剣しながらそう説明すると、彼も納得したように頷いた。


「確かにその通りであるな……ならばディオニシオ殿!某とパーティーを組んで欲しいのである!」

「あの……ボクですか?」

「如何にも!前衛として頼りになる人物として、ディオニシオ殿以上の人を某はチコ殿しか知らぬのである!!」


 俺を諦めた次にはディオニシオさんを勧誘し始めたエクレチオさんだが、俺はかなり良い組み合わせであるように感じた。剣士として達人クラスの腕前を持つディオニシオさんが前線を構築し、圧倒的な耐久力を誇るデルヘリオさんが後衛の盾となる。二人が支えている間に、魔法士が魔法を叩き込めばパーフェクトだ。


 AクラスとBクラスという事もあって、二人はそれを理解しているようだ。少しだけ考え込んでからうんうんと頷いたディオニシオさんは、デブヘニオさんに手を差し伸べた。


「あの、是非ともよろしくお願いします」

「フハハハハ!お願いされたのである!!」


 ガッチリと握手を交わした二人を横目で眺めつつ、俺は地面にごろりと横になる。元より他のパーティーには余り興味が無い。学園主導という事はそこまで強力な魔獣は出て来ないだろうし、ランキングや報酬にも興味は無い。俺の目的は、そう言った物から逸脱した所にある。


 その目的は出来れば遂行したくは無い。だが、遂行しなければ周囲に危害が及ぶ可能性がある。不穏な事件でセナイダ達が負傷した以上、火種になりそうな物は全て消す。それが俺の周りの人を守る為に必要な事だ。


 俺がいれば守る事は出来る。だが、何時も俺がいる訳では無い。俺がいない時に事件が起きてしまえば、それを察知出来ない俺が守る事は出来ないのだ。


 故に火種は全て消す。または俺の管理下に入れる。そうする事で、周辺の安全を確保するのだ。今回の目的は、その火種を消す事だ。魔獣などは二の次であり、ランキングなどは気に掛ける必要も無い。


 その事に考えを廻らせていると、俺の拳が強く握られている事に気付いた。知らない内に、大分気負ってしまっていたらしい。俺は深呼吸をして脱力すると、校舎の影に隠れようとしている太陽のスペクトルを見上げた。


「チコ?どうしました?何か悩んでいる顔をしていますよ?」


 横からひょっこりと視界に入り込んで来たエルが、俺の頬を突っつきながら問う。俺は無言で両手を伸ばすと、無駄に鋭いエルの頬を引っ張った。


「むひゃ!?ひほ、いひゃいへふ(チコ、痛いです)!!」

「あなたは何も心配せずにいれば良いんですよ」

あはいあひあ(わかりました)あはひあいあはあ(分かりましたから)ううひへふらはい(許してください)!!」


 暫くエルの頬の弾力を楽しんだ俺は、目的とそれの遂行に伴って発生するであろう面倒事を想って溜息を吐いた。

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