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ステータス・ブルー  作者: 和灯 ルカ
終焉編(仮)
32/38

再び見ゆ時

 薄く鳥肌が立ったので腕をさすると、灯璃に苦笑された。何の話をしているのだったか。


「学園。それ、悠人と被らねえな?」

「大丈夫! 多分瀬尾達は一ヶ月くらいフィーオにいるだろ。属する国の学園だし。講師として入るっぽいから、長くいてくれって言われるだろうし。念のため俺らは二週間だけ入ろうぜ! 多少金掛かるけど、そういう制度もあるしな」

「試験とか」

「呪い掛けるから大丈夫!」


 そこまでして入学したいか。共通語が理解出来ている理由が不明なことや、髪色や種族。諸々の問題も全て大丈夫だと群青は胸を張る。全て放り投げたくなる自分を抑え、他に質問を探す。


「朔也は神獣じゃないの?」


 不思議そうに首を傾げた灯璃。むしろなぜそう思ったのかと俺が聞きたい。いや、聞くまでもないか。言語だ。


「共通語を話せていたからそう思ったんだけど。稀人だからそうでもおかしくはないし」


 俺は灯璃の頭上に、電球のような光源が現れるよう念じてみる。出てこない。


「絶対違う。魔術も何も出来ねえし。言葉は途中から分かるようになった」

「そうなんだ。具体的にはどの辺りから共通語が分かるようになったの?」

「……地下都市を出た辺り」


 今、灯璃の言葉には複数の言語が混ざっていた。イムの言語でも共通語でもない言葉で俺は返答した。


「他の言葉も話せるんだ?」

「らしいな」

「祝いは……掛けられてないね。何か魔道具は装備してる?」

「してない」


 魔道具を装備したのは女装をした時だけだ。益々灯璃は首を傾げる。言語に関する謎の解明は任せてもいいだろうかと考え、群青に向き直る。


「年齢制限はねえの」

「短期入学は、今年で満二十歳に入る人まで! 朔也はセーフ、俺はギリアウトだけどバレねえよ。なぜなら俺には呪いがあるから!」

「灯璃はどうする」

「入ってもいいよ? でも朔也は早く帰りたいようだから、別行動にした方がいいと思うんだけど」

「じゃあそうしよう。悠人に会わないように二週間」


 俺が入学することに意味はない。俺はあらゆる言語を聞き取り喋ることが出来るけれど、それは群青にも出来る。二度手間な上に意味はないが、異世界の教育機関には興味がある。二週間程度なら通ってみたい。送還術の探求は一筋縄ではいかなさそうなので、多少寄り道をしてもいいだろう。それが目的に繋がる可能性もなくはない。


「……朔也は勇者と仲が悪いの?」

「いや、別に」

「そう? 会いたくないように聞こえたから。何か問題でもあるのかな?」


 俺は灯璃を見つめたまま固まった。群青が「灯璃ちゃーん……」と、冗談でありながらも非難するように名前を呼んだ。


「ねえよ。おい群青、お前俺に暗示的な呪い掛けた?」

「いやいやまさか! ほんとマジで何もやってない!」


 重ねて否定されると怪しく思うのだが、これまでの行動を鑑みるに、やっていたのなら群青は謝り倒すだろう。誤魔化すとしても、もっと分かりやすいはず。


「全然問題ねえよ。何で頑なに隠れてんだ俺」

「そっちの方が楽しいし、ほら! 灯璃も言う通り、分かれて行動した方が速度アップ!」

「そうだな」


 頬杖を突いて横を向き、小さな溜息を吐いた。そんなしょうもない理由で、俺は兄を裏切ったのか。非常にまずい。後の俺が大いに後悔することになる。これは、本気でどうにかした方がいい。


「灯璃。イルキニアスに行こうっつったな」

「うん」

「行こうぜ。けど先に行って、様子見頼む」

「勿論だよ」


 特に何か準備をするわけでもなく、着の身着のままで灯璃は亜空間に消えていった。しばらく懊悩していると紅茶が運ばれてきた。群青は流水が苦手なだけで、水や茶は普通に飲める。吸血鬼の仕組みもよく分からない。


「何々? そんな仲良しだった?」

「……多分な。そうでもねえふりしてたけど」

「なあなあ、ちょっと今後の参考にさせてくれよ! 男兄弟、しかも双子って具体的にどんな感じ? 群子興味津々なのよー」

「俺らだと参考にならねえよ」

「なるなる、むしろ少数派こそ至上! メジャーなもんはググれば出てくるから!」


 俺達は客観的に見ると、それなりに仲のいい、何の変哲もない関係の双子なのだろう。どちらも上手く隠せている。周囲には。


「まあ、小説のネタにはなるかもな」


 無論、別の人間なのだからそれだけではない。俺達は二卵性双生児で、外見はあまり似ていない。しかし幾つかの点において、俺と悠人は酷似している。


「お互いがお互いを尊敬してて、おまけに罪悪感持ってる」


 気味が悪いと自分で思う。しかし悠人はそう思っていない。悠人は生まれ変わるのなら俺になりたいと言う。俺は俺になりたいとも、悠人になりたいとも言わない。


「尊敬すると言えば師匠! それに罪悪感っつーと、秘密裏に後ろめたいことしたとか、勝手なことして迷惑掛けたとか、知らずに彼女寝取ったとか! けど数年経っても薄れねえような罪悪感なら、師匠の未来に悪影響及ぼしたとか、闇落ちさせたとか、一生ものの傷負わせたとか! ……あれ? これって聞かねえ方がいい話?」

「いや、別に。まあそんな感じだろ、多分」

「そんな感じ!? 俺今めっちゃ候補上げたけど!?」


 話は終わりだと言わんばかりに紅茶を飲み干した。辛気臭い話は好きじゃない。だからと言って俺と悠人のほんわかした話をしても、俺の目が虚ろになるだけだ。悠人のファンである女なら目を輝かせて聞くだろうが。美人だったら三分くらいは話してもいい。

 その後はなぜか、使えると嬉しい属性の話となった。俺は水と即答した。その理由は言わずもがな。するとなぜか、群青は楽しそうに笑った。いや、本当になぜだ。


「どうでもいいけど寒色っていいよな! 美少女戦士系とか魔法少女系の場合、大体いつも寒色キャラ好きになるわ! 着るもん俺が吟味して集めるからさ! 魔法少女、ニアも今度や」

「しねえよ」

「クッソーと叫んでこの残念な思いをとろとろと吐露したいこの時に! 灯璃から念話が入った」

「グッジョブ」


 俺は今、灯璃のことがとても好きになった。

 俺と群青がイルキニアスを経ってから七日が経過している。怒りはある程度収まっているだろうか。しかし転移陣は使用不可で、灯璃の張った結界によって壁は破れないという状況下。逆に鬱憤が溜まっていても不思議ではない。

 好意を持つ相手から嫌われるのは、辛い。いつだって。だが勝手にイムの八十年と未来を賭けたのは俺の方。他人から巻き上げた金で博打を打ったようなものだ。結果的に丸く収まったとは言え、多くの命が消えていた可能性もあった。


「大丈夫だって! 灯璃が保証してんだぜ? 俺が言うよりずっと信憑性高いだろ?」


 亜空間への入口が開く。最初こそ圧迫感を覚えた黒だが、今では何の思いも抱かない。


「さあ……お前の『大丈夫』も結構当たるし」


 足を踏み入れ、画面の前にある椅子に座った。ここに机も置きたいと、逃避するように考えた。ベッドもあれば完璧だ。家があってもいいのだが、その場合、厠を作れそうにないことが重大な欠点となる。


「おい」


 画面が変わらないので声を掛けると、群青は無言で影に沈んだ。群青の、意図の不明な沈黙は好きではない。よくない方の緊張感を煽られる。

 焦燥、に、近いもの。深くなる落ち込み。放り投げて、どこか違うところに。


『……嘘だろ』


 在りし日の俺の独り言が聞こえた。

 面倒が過ぎた状況に陥ると、周囲との繋がりを断ち、感情を抑圧し、一人だけで生きていたくなる。自分でも辟易する行動パターンの一つ。防衛機制の一種かもしれないと考えているが、実際はどうなのだろう。群青なら知っていそうだが、このような情けない自分を晒すことは出来ない。

 貧弱な人間だとは思われたくない。

 その一心で俺は社交性を捨てた。


「朔也ー」

「何だよ」

「俺さあ、毎度、『そんな人だと思わなかった』的なこと言われて振られるんだよなあ。彼女に」

「そうか、自慢か。死ね」


 黙っていたかと思えば、こいつは。不適切な発言をしたかもしれないと考えた俺が可哀想だ。


「え!? いや、違う! 違うから!」

「じゃあ何」

「あれだよ! ……こう、俺の本性? に、引かないでくれて、すげえ感謝してる……と。…………いや、いきなり何だって話だよな!」


 冗談めかして群青は笑った。本当にいきなりで、さながら今際の際のようだ。


「変人に耐性があるだけだ」

「何それめっちゃ怪しい!」


 何の確証もないが。群青は苦労してきたのだろうと思った。


「ま、イムに嫌われても俺がいるさ! 至れり尽くせり慰めてやるから覚悟しろよー?」

「キモい。灯璃がいるからいい」

「朔也の中で灯璃の株高くね? ……つーかマジな話、灯璃の性別についてどう思う?」


 実のない話をしていたおかげで、イルキニアスへ向かうことの躊躇いは薄まった。そもそも俺は罰を受けに行くのだ。目を背けてはならない。恐怖したとしても、逃げ出してはならない。言い訳も誤魔化しもせず、堂々としていなければならない。

 しかし、死だけは避けねばならない。


「着いたぜ。そんじゃ、覚悟はいいか? ……何つって!」

「おう」


 茶色の穴、机の下から群青は這い出た。数日前に寝起きした、マリアとドラゴが暮らす家だ。椅子に座って本を読んでいたイティは、群青に気付いて顔を上げた。


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