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ある晴れた日の午後に  作者: あき
幕間 ある共通の知人
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嘘つき啄木鳥は何をつつく

久しぶりに船を下りて街を歩いていると、友人と共通の知り合いに気がついた。


「よう」

「あら、久しぶりね。また遠出でもしてたの?」

「まあな。雪のせいもある」

「今日は暇なの?」

「後であいつの所に行く以外はな」


そう答えると、彼女はくすくすと笑って、それじゃあお茶に付き合って。と腕を引く。


「そうだな。結構過ぎちまったが、誕生祝いに奢るぜ」

「あら、本当? 行ってみたいお店があるのよね」

「仰せのままに。お姫様」


彼女が誘ったのは、海の見える丘にあるこじんまりとした小さな喫茶店だったが、雰囲気は悪くなかった。


「ええと、アフタヌーンティセットで、イングリッシュブレックファースト」

「ブレンドを」

「かしこまりました」


ふうんわりと笑ったマスター以外には、窓際の丸テーブルに少女が二人。

丸いケーキを突きあっている。


「ねえ、そういえば誕生日のことって」

「あぁ。あいつに聞いた。災難だったな」


先日の珍しく泣いていた姿を思い出してそう言うと、彼女はちょっと困ったように肩を竦めた。


「私は良いのよ。私のために走り回ってくれただけで嬉しかったんだもの」

「まったく。最近は理解できない人間が多いな」

「そうなのよね。実は、昨日も」


大きな溜息を零して彼女はこつこつと机を叩く。

彼女は確か、今は少し名の知れた女学校に留学している筈だ。


「昨日?」

「ええ。学校祭があったの」

「祭りね。楽しそうだな」

「私、頼まれてビラ配りをしていたのよ。そうそう、私が記憶力が良いのはご存知でしょ?」

「あぁ、勿論」


彼女は一度、無線の為に暗号化された68桁の数字を一度見ただけで空で暗誦して、周囲の度肝を抜いたことがある。

けれど、記憶力が一体何に繋がるのだろうか。

先を促すと、彼女は小さく溜息をつく。


「人手が足りなくて、そのビラを配っていたのは私だけだったんだけど、周囲では飲食系の出店をやっている人達がそれを売り歩いていたのよ」

「お待たせしました」


マスターが運んできた注文品に彼女は言葉を止めた。

テーブルには、珈琲と紅茶、それに小さなポットが二つと紅茶漉しにミルク、ジャムとクリームの小皿、それから貴族屋敷のティーパーティを思わせるような三段トレイとが並ぶ。

三段トレイの上段はケーキとフルーツ。

中段はスコーン。

下段はサンドウィッチだ。


「素敵!」

「ほう」

「ごゆっくり」


きらきらとした表情を浮かべて、彼女はフォークを取り上げた。

先程までの少しばかり不機嫌な様子は鳴りをひそめていて、苦笑してカップを口に運ぶ。


「美味しい!」

「確かに」


珈琲は薄くもなく濃すぎもしない。

好きな味だった。

けれども中途半端な話題が気になって、幸せそうな彼女には申し訳ないが、水を向けてみる。


「それで、続きは? お姫様」

「あ、そうそう。周りで売り歩いてた全く知らない二人組が、唐突に擦り寄ってきたのよ」

「あぁ、買ってくれって?」

「それだけなら、別に普通でしょう?」


眉間の皺を復活させて、彼女は大きな溜息をつく。


「買ってくれって食い下がるくらいなら、私もそんなに気にしなかったわ。でもね、その一人が全然悪びれた様子もなく、こう言ったの」

「なんて?」

「『私も、さっきそのビラ貰ったんです。だから買ってください』」


漸く話が繋がって、微かに笑ってしまった。

相手はとんだへまをやったものだ。


「なるほど。配ってないんだな」

「えぇ。そもそも、それまでに私がビラを配っていたのは、年配者が主だったの。だから、彼女が誰かからビラを受け取った可能性もほぼゼロね」

「へぇ」

「しかも止めが、『買ってくれたら、見に行きます』ですって。信じられないわ」


呆れたように言い放って、彼女はサンドウィッチを口に放り込む。


「見に行く?」

「講演会のビラだったのよ、それ」

「指摘はしなかったのか?」

「しないわよ。面倒臭い。だって全く悪いとも思っていなかったもの、あれは」


手際よく紅茶漉しを使ってお湯を注ぐと、彼女は紅茶カップに紅茶とミルクを入れて口をつけた。


「何にも思わないのかしらね。それとも、嘘つくのが当たり前なのかしら」


ソーサーに当たって、カップが微かな音を立てる。


「そいつは、嘘だと思ってなかったりしてな」

「それはそれで怖いわね。刃を振るっているのに気付かないなんて、言葉が通じる相手に見えるから余計に」

「あいつも同じようなこと言ってた」

「あら。そうなの? やっぱり妙な人間が増えてるのね。嫌だわ」

「悪かったな。妙な話振って」

「いいえ。私も愚痴を聞いてもらえて良かったわ」


ぱくぱくと止まることなく手は動いて、あっという間に三段トレイは空になる。


「結局、買ったのか?」


ラストドロップまで飲み干した彼女に、そういえばと言うように尋ねると、彼女はきょとんとしてから、酷く尊大に微笑んだ。


「私、嘘つきは嫌いなの。だから、こう言ってあげたわ」



『それなら、貴女が講演会を見に来てくれた時に渡せるように、受付にお金を預けておくわね』


どうやら嘘つきは、売り上げを伸ばせなかったばかりか、手痛いしっぺ返しを食らったようだ。


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