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ある晴れた日の午後に  作者: あき
冬色の午後
2/4

努力はする、と答えておく

別段何かがあった訳でもないが、なんとなく友人を尋ねると、珍しく泣いていた。


「どうした?」

「くだらないことだよ。君には関係ない」


素っ気なくいって、珈琲入れるよ。と立ち上がった腕を掴むと、面倒臭そうに手を振った。


「なんでもないよ」

「なんでもなくないだろ」


キッチンに消えた友人からテーブルに視線を移すと、丸くなっていた猫が顔をあげて肩を竦める。


「なにがあった?」

「大したこととはいえないけどなぁ。理不尽ではあるぞ」


あれの誕生日だったろ?-ひろひろと振られた尾につられるように思い浮かんだ顔に目を細めると、猫が起き上がって身体を伸ばした。


「前々から休み取るつもりで、昼飯の予約やら走り回ってんだけどなぁ」

「なんだ、断られたのか?」

「そんな理由で泣くやつじゃあ、ないだろうや」


勿論そんなことは百も承知だが、でなければ何が原因なのか、今の話ではさっぱりだ。


「誕生日プレゼントを、一緒に買ったんだと」

「話の流れが見えない」

「まぁ、聞けよ。問題は二軒目だった訳でなぁ。今日は生憎の雪だったろ? 紙袋にスノウカバーをかけてくれるっていうんで、一軒目で買ったプレゼントも一緒に入れてもらうことにしたんだな、これが間違いだった」


何となく展開が読めてきて、成る程。と肩を竦めた。

自分のことで騒ぐことのない友人らしい怒り方だ。


「入れ忘れたんだな」

「あぁ。スノウカバーってのは厄介だろ? 雨や雪は入らないが、厳重過ぎて中身も見えない。家に帰る前にわざわざそれをはがして中身を改める馬鹿がいたら、見てみたいよなぁ」

「そうか。買ったプレゼントがないってのは、痛いな」

「それだけでああはならないだろうや」


心底呆れたように猫は尾でぴたぴたとテーブルを叩いた。


「取りにこい、ていうんだぜぇ」

「はぁ?」

「店に連絡取ったらな。遺失物係に渡したから、そっちに連絡して取りにこい。って訳だよ。流石にこの辺で、話聞いてた俺はキレた」

「取りに、って、隣島まで行ったんだろう? 買ったものより交通費が高くつくんじゃないか?」

「値段を気にしてるかは解らないが、まぁ、とんとんだろうなぁ」


そもそもなぁ-僅かに目を細めて、猫はキッチンに続く廊下を見遣る。


「プレゼントなんて験担ぎを、落とした。拾った。なんていわれたら、正直けちがついたようものじゃないか」


あいつの想いが可哀相だ-こぼれ落ちた言葉に瞬くと、猫は振り向いて肩を竦めた。


「と、まぁこんな理由だ」

「程度の低い店があったもんだな」


友人の行った隣島は、島全体が巨大なショッピングモールになっていて、周辺の島に住む住人の他に、観光客がよく訪れる名の知れた場所だ。


「全くだなぁ。サービス業のなんたるかを心得ずに給料を貰う奴がいる、てことだ。呆れるね」

「お前は現場にいた訳でもないだろう?」

「勿論。まぁでも、店にも店員にも義理立てする理由もないんだ。あいつの話を否定する意味もない。だったら、そばで泣いてるあいつに寄るよなぁ」


長い尾をぱたぱたと振って、猫は二つのマグカップを持って歩いてきた友人の足に纏わり付く。

それを蹴飛ばさないように歩きながら、友人がマグカップの一つを差し出した。


「お待たせ。砂糖1つで良いよね?」

「あぁ。悪いな」


湯気の立つマグカップを受け取ると、対面の椅子に腰を下ろした友人の膝に丸くなった猫が、一瞥をくれて目を閉じる。


「理不尽に、キレて泣いた。が正解か?」


訝しげに寄せられた眉に瞬くと、違うよ。ぼそりと紡いで、友人はカップに口をつけた。


「理不尽だとは思うけど、それに不機嫌になった訳じゃない。常識で考えて信用して良い、って判断したのは自分自身だから、それに平静を保てなかったことに苛立っただけだよ」

「期待しなけりゃ良かった、か?」

「そうだよ。失望っていうのは期待の上に成り立つんだ。期待した自分が馬鹿だったってことで、それに巻き込んだ彼女に申し訳ないから、自己嫌悪なんじゃないか」


これで、この話は終わり。そう打ち切って、友人は一息に珈琲を呷った。

感情の起伏が乏しい友人は、そんな風に外に期待することを良しとしてこなかったのだろう。

だから、怒ることも、泣くことも、そうないのだ。


「お前、俺には期待してるか?」


膝の上の猫を撫でる手を止めて、友人は顔をあげて目を細める。


「君に? 何を期待するのさ」

「あらゆることを、だ」


呆れたように肩を竦めて、友人は膝の上から抱き上げた猫を差し出した。


「あいにくと、君に期待なんかしてないよ。予想通り動く人間なら、そもそも友人になんかならない」

「それは残念だな。俺にはお前を泣かせられない訳か」


ひょいと猫を受け取ると、目のあった猫がにやりと笑う。


「うん。泣かせないで」

「は?」

「君に泣かせられるなら、それは君がこの世界から消えるときだ」


だから、泣かせないで。

至極あっさりと紡がれた言葉に瞬くと、腕の間から抜け出した猫が楽しそうに高く鳴いた。



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