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ある晴れた日の午後に  作者: あき
冬色の午後
1/4

それが理解というのなら



「いい加減、電話くらい買わないのか?」

「買わないよ。必要性がない」


訪ねるなり口を開けば、友人はあっさりと切って捨てる。


「珈琲で良いよね?」

「あぁ、珈琲が良い」


頷いてソファに座ると、友人が振り向いて微かに笑った。


「君のそういうところ、嫌いじゃないよ」

「そうか」

「うん」


友人と入れ代わるように、歩いてきた猫がひらひらと尾を振ってにやりと笑う。


「あいつの嫌いじゃない、は結構好きってことだからなぁ」

「知ってる」


そのくらいのことが解る程度には、付き合いがある。


「だよなぁ。好きじゃない、が結構嫌いだってことくらい解ると思うんだけどなぁ」

「は?」

「さっき来た奴だよ」

「客か?」


眉を顰めると、猫は面倒臭そうにひげをかいた。


「まさか。迷惑な厄介者だよ。他人のモノを自分のモノと勘違いしてるんだからなぁ」

「親の七光りってやつか?」

「威光を笠に着る程度なら、笑ってすませてやるくらいには、心が広いぜぇ? 相手との差も計りきれない馬鹿が売る喧嘩に、あいつを巻き込まないならなぁ」


ちらりとキッチンに向けた視線に肩を竦めると、猫はその細い瞳孔をますます細めて小さく笑う。


「あいつは家には厄介を持ち込まないんでなぁ。向こうからくる火の粉は、お前が掃ってくれると助かるってもんだ」

「助かるのは、お前だろう?」

「勿論。だが、あいつも助かるぜぇ? ひとつの石で二羽仕留めるってやつだ」


にやりと笑った猫は、不意にくるりと身を翻して、キッチンに続くドアを見上げた。


「どうした?」

「開けてくれ」


訝しげに扉を引くと、向こうから歩いてきた友人がふわりと笑う。


「ありがとう。両手が塞がってて、どうしようかと思ったんだ」


はい、どうぞ-渡されたカップを礼を云って受け取ると、猫が軽い動作で椅子を引いた友人の膝に丸くなった。


「妙な知り合いでもいるのか?」

「なにそれ?」

「出迎え方が、普通じゃなかっただろう?」


云われて気づいたように、友人は僅かに眉根を寄せる。


「そんなに不機嫌そうだった?」

「まあな」

「だから、電話の話か」


ごめん-友人の中で、漸く話がつながったようで猫の背中を撫でながら、息をついた。


「最初は来訪に対して不機嫌なのかと思ったからな。それなら電話くらい買えって意味だったんだが、あっさり家にあげるくらいだ。その前に来訪者がいたと考えるのが妥当だろう」

「そうだね」

「それで?」


渋る友人を促すと、一瞬落とした視線をあげて呆れたように肩を竦める。


「理解できないんだ」

「は?」

「話は通じないし、同じ国の言葉なのに、伝わらない。お互い、異星人なんじゃないかと疑いそうになるよ」


心底疲れたような物言いに笑ってしまえば、友人は手を伸ばして頬を引っ張った。


「笑い事じゃない」

「お前が不機嫌なのは珍しいからな」

「怖いだけだよ。同じ形をして同じ波形を持つから、理解できると思うことが」


唐突に鳴いた猫に、友人はぱっと顔をあげて猫を抱いて立ち上がる。


「お腹空いた。食べてく?」

「貰う」

「そっか。食欲だけは、共有できるって思えるかも」


肩を竦めた友人の腕の中で、猫が同意するように小さく鳴いた。



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