第八の噂。
やっと公開出来た……
ーー自分以外の誰かになりたい。
それは、どんな人間ももっている劣等感から現れる感情でね?その劣等感をとことん突き詰めたのが、偽装鎧って超能力。
今回の超能力者ーー立花未来さんも、例外じゃない。
『こんな』自分ではなく他の。
優れた人間の容姿を手にいれて
なりすまし、偽装して、鎧して
他人の幸せの中で生きたいと願った。
結局それも、ただのニセモノでしかなかったみたいだけどねぇ。
翌日、クロイツさんは部員全員を前にして(といっても部員は4人しかいないが)
演説のようにそう語った。
こういう時のクロイツさんは本当に愉しそうで、つくづく思い知らされる。
ーー犯罪者予備軍だな
と。
「はい、禊音お仕置き決定ー☆」
「ひぃっ!?」
「……人の心読まないで下さいよ。
あとなんでお前が驚くんだ、幸樹」
どいつもこいつもツッコミどころあり過ぎるだろ。
「質問です、部長」
シュークリームも喰いながら、今まで黙っていた白夜が律儀に手を挙げる。
反対の手には、二つ目と思われる袋入りのシュークリーム。
……レナさんも同じシュークリームを持っているということは
二人ともグルか。
意外と仲いいんだよな、あの二人。
「なんであの人、私の事知ってたんですか?ずっと探してたーーみたいな口ぶりでしたけど」
思い出すのは、あの言葉。
『みーつけた』
うっかり聞き流していたが
確かに変だ。
初対面で、『みーつけた』って。
「あぁ、それはね」
くるん、と座っていた事務椅子(毎回思うけどどっから持ってきたんだ?)を回転させ、窓の外を眺めてクロイツさんは言う。
「勘違い、の一言に尽きるなぁ。
愚者暴食ーー能力を喰って自分のものにする能力。
それを彼女は、自分と同じ、模倣する能力だと思い込んだ。
吸収するんだから、模倣とは全くの別物だっていうのにね。
多分、愚者暴食の存在を知ったのが
俺たちが他の能力者を相手していた時で
偶然見かけただけだったからだと思う。
そして、その時彼女はもう一つ『勘違い』をした。
ーー愚者暴食は藍谷 禊音だ、という
重大な勘違いをね」
………。
ん?俺?
「だからまず、禊音に偽装したんだよ。
そうすれば、愚者暴食をコピー出来る。
でも、当然禊音にそんな超能力はない。
焦っただろうねぇ。
『自分のものにならない才能なんて』
『消してしまえ』と思うほどに」
しぃん、と。
部室内が静まり返った。
殺気みたいなものは感じたけれど
本当に殺されるところだったなんて。
再び恐怖が蘇る。
重苦しく続く沈黙。
それを破ったのは、机の下の幸樹だった。
「あ、のぉ……
怖いんで、なんか喋っててくれません……?
え、いや、ごめんなさい!
なんかごめんなさいぃぃぃぃ!」
まだ誰も、何も言ってないのに
幸樹は悲鳴をあげて土下座する。
……一瞬で空気が緩んだ。
ある意味才能だな。
「うーん、じゃあ
幸樹のご要望通り雑談でもしようか?
ドッペルゲンガー編は此れにて終了。
ってね」
当然、反対する訳も無く。
下校時刻のチャイムがなるまで、俺達は
比較的平穏な、『普通の部活』らしい雑談をして過ごした。
このとき、何かが変わり始めていたなんて
気づかずに。
ドッペルゲンガー編、此れにて終了です。
次回からは、『おわらないせかい編』入ります。