終わらない世界へ。
「いーよ、入っても」
しばらく修羅場のような音が続いた後
雰囲気に合わない軽やかな声で、クロイツさんは俺たちを呼んだ。
若干、入りたくない気がする。
入りたくないっていうか……
中を見てはいけないっていうか。
俺がドアを開けるのを躊躇っていると
横から白夜が手を出し、ドアを開けてしまった。
「あ、」
部屋の中は、想像以上に酷い有様だ。
クロイツさんは笑顔だし
涼成さんは涙目だし
何故かソファに大穴空いてるし。
あの短時間で
何をすればこうなるというのか。
「白夜ちゃん。
後は、君に任せるよ。
煮るなり焼くなり好きにして」
「ひっ!」
涼成さんは白夜を見て、顔を引きつらせる。
自分がどんなことをしてきたのか、自覚はあるんだな。
とっさに、『殺される』と思うくらいには。
「先輩、ちょっと待ってて下さい。
ちゃんと、向き合ってきます」
白夜はそう言って、床に這いつくばる自分の父親の元へと歩み寄る。
その表情は、もう
いつもの無表情に戻っていた。
笑顔もないが、涙もない。
そして白夜は淡々と、話し出した。
「……お父さん。
貴方は私の、『世界』そのものだった。
だから、それが終わるのが怖かった。
貴方に見放されることが、怖かった。
……お母さんが死んでから、ずっと」
「ーーでも、」
一度切って
涼成さんの襟首を掴み上げる。
「私は、貴方を『卒業』することにします。
貴方を見捨てて、見放してーー
見殺すんです」
「貴様……!今まで、誰が育ててやったと、」
「もう、いいんです。
いつか終わる『世界』に、怯えるなんて
愚者暴食らしく、ありませんから」
白夜は、逆の手を振り上げて
慣れた動きで横薙ぎに払う。
ぱあん、という乾いた音が。
綺麗に平手打ちされて目を見開く涼成さんに、あくまで冷静に、白夜は吐き捨てた。
「さようなら、お父さん。
私は、貴方が大嫌いでした。
次に私の前に現れたら、その時は
全力で喰い殺しますから、覚悟しておいて下さいね。千草涼成さん」
手を離すのと同時に振り返り、いつの間にか俺の隣に立っていたクロイツさんと
俺、そして顔を出した幸樹やレナさんに向かって
白夜は言う。
「ここまで連れて来てくれて、ありがとうございました。
帰りましょう。明日も、学校ありますから」
これで本当に、普通の日常に戻る。
そりゃあ、多少の差異はあるけれど。
大体は、あの
危険な代わりにまぁまぁ幸せな生活に。
だが、一件落着大団円には、まだ早いことを
俺は、知らなかった。
本当のエンディングは、俺が自宅に帰ってからーーーー
次回、『おわらないせかい。』編最終回!




