第一の噂。
新連載開始です!
暗い路地裏を、走り抜ける。
後方の唸り声だけが、鮮明。
「はっ……はぁ、……っ」
曲がり角を何度か 左 に進み
ソレの姿がみえなくなると
俺は大きく息を吐いて、建物の外壁に背を預けた。
最近運動不足だったせいか
もうすでに、息が切れている。
心臓の音がやけに騒がしい。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ーー再び上がった咆哮。
この様子だと、見つかった瞬間に
喰い殺されるだろう。
「ふ、ざけんなよ……なんで、俺が」
『噂噺研究部』
この部活に入ってから、ロクな目に合わない。
毎月、一回は殺されかけている。
何故こんなことになったのか。
始まりは、去年の春だった。
・
・
・
理系の高校に無事受かった俺は
同じ中学出身の先輩にして
『噂噺研究部』なるものを設立した本人
クロイツ・ロヴ・フィニアに呼び出された。
正直苦手な部類に入る先輩だが
渋々、待ち合わせ場所に行ってみると
そこは、古びた実験室で。
驚いて硬直した俺を、クロイツさんは室内に引きずりこみ
そして、笑顔で一言
「『噂噺研究部』に入らない?」
と言ってのけたのだ。
「いや、あの……え?」
「だいじょーぶだいじょーぶ。
そんなきっつい部活じゃないから。
ねぇ、入るよね?」
「入り、ませんけど」
「なんで?」
「なんで、って……」
そんな怪しい部活に入るわけがない。
でも、クロイツさんは昔から
言い出したら聞かない人だった。
「悪い子には、お仕置きが必要だよねぇ」
「なにも悪いことしてませんよね?」
「俺の誘いを断るなんてこの世で最も罪深い行為だよ」
「……あんたは、」
何様のつもりだよ。
そう続けようとした俺に
クロイツさんは、透明な液体が入った試験管を突きつけた。
ぽんっ
と小気味良い音と共に栓が抜けて
同時に感じる
ーー塩素ガスの匂い。
「ちょっ……クロイツさん!?
それって、塩酸じゃあ」
「高濃度の、ね。
……おとなしく入部しないと
頭から塩酸ぶっかけるぞ☆」
「……、……」
「これは命令だよ、禊音君?」
俺の名前を読んで
クロイツさんは、腹黒そうに笑う。
その笑みに、背筋が凍った。
もはや、俺の選択肢は一つしか無く。
「……わかりました、入ればいいんでしょ
入れば!」
・
・
・
若干ヤケクソ気味に叫んだことを、今でもはっきりと覚えている。
叫んだ結果、この状況になったのだから。
ーーーー超能力者に追われるなんて
訳のわからない状況に。