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「お嬢様!!逃げますぞ!!」ようやくハインクが叫んだのはちょうど生き残りが彼とミナだけになった時だった。他はみんな殺されてしまった。死体の中の殆どが虐殺死体だったので食堂は酸鼻極まり無い光景と化していた。
殺されていく光景を見る事しかできなかった。足が竦んで動かなかったのだ。だが、残りは自分達だけと悟ると、本能が叫んだ。
「走って逃げるのですお嬢様!!早く!!」
しかし、ミナは応じない。ミナは余りの恐怖に気を失っていた。ハインクにしがみついた姿勢でぐったりと佇んでいた。
「……!!」アンナがこちらに振り向いた瞬間、ハインクはミナを抱いて逃げ出した。
食堂を出て、走った走った走った。回廊に出て、また走る。後ろを振り返ると、憎悪を叫ぶ怨霊のような顔をしたアンナが猛然とこちらを追いかけてきていた。
息が荒くなった。肺に呼吸が行き届かない。ハインクは六十後半の老執事だ。逃げきる体力を持つはずがない。
だがハインクは走り続けた。背に抱いたミナを守るために。