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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

しりとり的短編集

妄想

作者: 神村 律子

 秋雨が続いていたかと思うとまた夏が戻ってきたかのような暑さ。身体が悲鳴を上げそうだ。

「はあ」

 ふと視界に入った自動販売機に近づき、冷たいコーヒーを選択。喉を潤す。

「ふう」

 人心地ついたつもりだったが、冷たいものが体内に入ったために暑さが増した気がした。思わずコンビニに駆け込む。何を買うつもりもなく入店したので雑誌でも探そうと思って奥へと歩き出し、目当ての雑誌を探す。その時だった。

「……」

 視界の端に若い女性が見えた。ノースリーブの花柄のワンピースを着てショルダーバッグを右肩にかけている。しかも何故か口を開けたままだ。もしや、と思った。

(万引き?)

 つい気になり、目の端でその女性を追った。奇麗な人だ。まさに好みのタイプ。

(女房にもあんな頃があったんだな)

 そんな事が頭をよぎった。

 しばらく観察していると、女性は辺りを窺うようにしてバッグに商品を押し込んだ。生理用品だった。生理中に万引きをする女性が多いと何かで読んだ事がある。この人もそうなのだろうか?

 その後、彼女は何食わぬ顔で別の商品を手に取り、会計をすませて出て行った。私はそれを確認すると店に告げる事なく、彼女を追った。

「ちょっと」

 女性に声をかける。彼女が振り返る。

「貴女、万引きしたでしょ?」

 私は小声で言った。彼女の顔色が変わった。

「警察に言うつもりですか?」

 女性は私を怯えた目で見た。私は首を横に振り、

「そんな事はしないよ。わかるだろう、私が何を言いたいのか?」

と言うと、彼女のワンピースの襟から覗く胸元を見た。

「そういう事ですか。わかりました」

 女性は諦めたのか、前を向いて歩き出す。私は笑みを浮かべ、彼女について行く。彼女は路地に入った。人気がないところだ。どこへ行くつもりだろう? 変に思って声をかけようとした時、

「ぐう」

 いきなり腹部に激痛が走る。目を向けると、いつの間にか彼女が私の腹に包丁を突き立てていた。

「そういう奴がいつか現れると思って持っていたのよ」

 彼女はニッとして私を蔑むような目で見た。


「え?」

 ハッと我に返る。私はまだコンビニの中にいた。視界の端の女性はどこにもいない。

(暑さで幻でも見たのか?)

 苦笑いし、雑誌を手に取ってレジへと歩き出す。

「む?」

 眩暈がする。何故か私の手は赤黒く染まっていた。ボタボタと大量の血が身体から滴っている。

「お客様!」

 店員が驚いて駆け寄って来るのを見たのが最後だった。そして何も見えなくなった。

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