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おろかなひと  作者: K.Taka
38/39

#37 epilogue

#36と同時投稿です

/37 epilogue


 その教会を彼が訪れたのは偶然だった。

 子供がそれなりに大きくなり、愛妻と二人きりでの旅行をしようと決めたのは、結婚記念日のことだ。年甲斐もなく楽しみにした旅行で、二人が選んだのは鄙びた田舎町だった。

 大都会で暮らす彼らにとっては、クラクションやけたたましい音楽がスピーカーから流れてこない環境こそが望ましいものだったからである。

 街に一軒しかないホテルにチェックインした後、彼らは街の散策に出た。

 二人きりで歩くなど、何年ぶりだろうか。そう笑いあいながら、二人はかつてのように手を握りあって歩く。

 そこで見つけた教会では、なにやらパーティーが開かれているようだった。

「おや、ご旅行ですか?」

 門に立っていたシスターがにこやかに笑いながら、二人に話しかけてくる。田舎町の常か、見慣れない人間にも人なつっこく笑いかけてくれるのを心地よく思いながら、男は頷いた。

 そして、一体なんのパーティーなのかと尋ねる。多くの人が思い思いに笑い、飲み食いをしている姿は、とても楽しそうだった。

「ああ、これはマザーのお葬式なのです」

「……マザー? お葬式?」

「ええ。マザーは教会に併設された孤児院の院長を、長いことなさってた方なのです。とてもお優しい方で、多くの子供たちが巣立っていきました。私も……その一人なんです」

 誇らしげにマザーの事を語るシスターに、妻が怪訝そうに尋ねる。

 なぜ、お葬式なのにパーティーをしているのか、と。

「マザーの遺言なのです。自分が死んだら、皆で明るく送って欲しい、と。湿っぽいのは嫌いだから、好きに騒いで賑やかに神の御許へ送って欲しいのだ、と」

 その言葉に、なるほど、と頷いた。

 幸いにして自分と妻の両親は、双方とも壮健だ。だが、どちらも同じように、賑やかに送ってほしがるのではないか、などと思う。

「よろしければ、あなた方もどうぞ。マザーを送ってあげてください」

 そう誘われ、妻と顔を見合わせる。彼女が頷いたのを見て、シスターに先導されるままに教会の中へと足を踏み入れた。


 祭壇の前に、一人の老女が棺の中に収められていた。

 多くの花が手向けられた老女は、皆から愛されていたのだろうか。穏やかな死に顔を見れば、彼女がきっと自分の生に満足して逝ったのだと理解できた。

「よろしければ、花を」

 そう言われ差し出された花を老女に手向ける。

「……お名前はなんと?」

「マリアと仰っていました。ただ、マリア、と。もしかしたら偽名だったのかも知れません。彼女は自分の昔のことを、あまり話してはくれませんでしたから」

 シスターの寂しげな声に、なんとなく頷いた。

「ですが、マザーの子供達は沢山います。今日も、これからまだまだ帰ってくると言っていました。皆で、私たちのお母さんを送ってあげるんです」


「――それは、きっと嬉しいでしょうね」


 それほどの子供達に慕われた女性ならば、きっと。それはとてもとても、素晴らしいことなんではないかと、男は思う。


「……あの、失礼ですがお二人のお名前は?」


 男はシスターの問いに、微笑んで答えた。


「ジョシュアです。ジョシュア・クランベル。こちらは妻のアメリア」

「よろしく。アメリアです」


 妻が如才なくシスターと握手をする。

「子供も大きくなったので、二人で骨休めの旅にきたんです」

「そうですか。都会みたいになんでもあるわけじゃありませんけれど、いい街ですよ。ここは」


 シスターの誇らしい響きを持った声に頷きながら、ジョシュアは再び棺の中の老女へと視線を向け、祈る。

 多くの人に慕われた彼女が、どうか心安らかに神のもとへ行けるように、と。



 その日、マリア・ウォートンは多くの子供達に送られ、神の御許へ召されたのだった。







End


/Postscript


#36、#37は同時更新しました。


皆様、最後まで拙作におつきあい下さい、ありがとうございました。

k.takaと申します。


最後がちょっと(かなり)駆け足となりましたが、『おろかなひと』はこれで閉幕となります。

お気に入りに登録して下さった方や、感想を書き込んで下さった方々、本当にありがとうございました。おかげでラストまで完走する事ができました。


本作は、ハーレクインによくある「ヒーローがヒロインを誤解して酷い目に遭わせ、その後に真実を知って愛を誓い、女は男を許してハッピーエンド」という筋に対するアンチテーゼとなっております。

私にはあのヒロイン達がどうしても理解できなかったのです。愛は大切ですが、それでもヒーローの行動を許容できるヒロインはどんだけMなのか、と。私にはDVする彼氏が時折見せる優しさのせいで離れられなくなった女のようにしか見えなかったのです。読んでる間、何度心の中でヒーローを殴ったことか。


そんな訳で、本作はハーレクイン的なハッピーエンドではありませんよ、という意味でバッドエンドタグを付けておりました。


さて、次回作はとりあえずちょっとだけ書き出していますが、今回はハッピーエンドとなる予定です。

よろしければ、次回作にもおつきあい下さい。


それでは、最後までおつきあいいただき、ありがとうございました。



2011年4月25日 k.taka 拝


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