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ダンジョンは壊れた夜に舞い降りる  作者: くろのわーる


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第5話:夢



 自宅へと戻る人々の波を横目に私はバイクの振動に身を任せる。


 すれ違う人々の表情はどこか暗く、疲れたようにも見える


 それもそのはず、戦闘があった場所の建物は損壊が激しく、中には全壊している家も珍しくないのだ。


「どれくらいの人がダンジョン保険に入ってるんですかね」


 他愛ない会話に紗夜は軽く肩をすくめる。


「……さあね」


 興味ないのか、紗夜の返事はいい加減だ。


 だけど、数え切れないくらいの惨状を見てきた彼女だからでもある。


 腕の中で女の子がもぞもぞと動く。


「おはよ」


 女の子はまだ眠たい目をこすり、流れる景色を見る。


 淡く黄金色に染まる朝日が、街の屋根やバイクのボディを柔らかく照らす。


 その光に、女の子の髪の先や頬の赤みがきらりと輝く。


「おねぇちゃんたち、だれ?」


 小さな声に、私は思わず微笑む。


 昨日の恐怖も、瓦礫も、返り血も、光の中では遠い記憶のよう。


 女の子の目に映る世界はまだ、希望に満ちている。


 私は握りしめた手にそっと力を込める。


「私は凪、雨宮凪よ。あなたは?」


「わたしはゆめのりこ」(夢乃りこ)


「そっか、りこちゃんか」


 りこは私の腕の中でキョロキョロと見回す。


「ママとパパは……」


 知らない人に抱かれていて、不安にならないわけがない。


 りこの顔は曇り、再び泣きそうな表情。


「今から探しに行くところよ」


 私は慌てながらも出来るだけ、優しい笑顔を浮かべた。


 紗夜の運転するバイクが避難所のひとつに着く。


 ここでりこの両親か親戚が見つかれば良いのだが……。


 避難所はすでに自宅に向けて帰った人達もいるようで思ったより人が少ない。


 私達はバイクを降りると受付に向かう。


 その隣には掲示板があり、いくつもの紙が貼られている。


『○○を探しています』

『家族は無事です。ここにいます』

『母を見た方は連絡を』


 震えた字の紙、子供の字の紙、急いで書いたメモ。


 ダンジョンの夜が残した爪痕だった。


 掲示板の前に立ち、私達は貼られた紙をひとつずつ確認する。


 無事を知らせるメモ、捜索中の張り紙――どれも手がかりにはならなかった。


「……やっぱり、まだ見つからないか」


 小さく溜息をつく。


 りこの手は私の腕にしがみついたまま離れない。


「りこ、ちょっと見てきていい?」


 優しく声をかけると、りこは小さく首を振る。


「やだ……なぎ、はなれちゃ、やぁ」


 小さな声に少し胸が締めつけられる。


 抱きしめていた腕にさらに力を込める。


「大丈夫、すぐ戻るから」


「やぁ!」


 けれどその言葉ではまだ、りこの不安を消せない。


 私が掲示板の反対側へ回ろうとすると、りこは両手で私の体を抱き留める。


「……なぎといる」


 その瞳はまだ眠そうで、けれど真剣に私を見つめていた。


 結局、りこの両親や親戚の手がかりはここでは見つからず、私たちは施設の職員に相談するしかなかった。


 手続きを終え、施設内の安全な場所で休むことにしたが、りこは私の腕から離れようとしない。


 バイクに乗っていた時の安心感を覚えているのか、まだ強く私にすがっている。


「なぎ……いかないで」


 その声に私は、笑うしかなかった。


「……大丈夫。いなくならないわよ」


 小さな胸の鼓動を感じながら、私はその手を握り返す。


 私の腕にしがみついたまま、りこは小さな額を私の胸に押し付け、寝息を立てる。


 両親と離れて、心細くて疲れてしまったのだろう。


 ふと、紗夜が眉をひそめ、りこの様子をじっと見つめているのに気づく。


 紗夜は目を細める。


「……この子、何か言おうとしてる?」


「え……?」


 りこの指が、無意識に私の服を掴んでいる。


 まるで、何かから逃げるように。


「……さ、さむいよ…なぎ」


 紗夜が小さく呟く。


「……夢、見てるわね」


 紗夜の視線は、りこの小さな手の動きや、微かに震える唇に向けられていた。


 だが、りこはまだ胸の奥で何かを感じているようで、少し苦しそうだった。


「……さむい」


 囁くような小さな声。


 私は寒いと言うりこを、包み込むように抱きしめる。


 紗夜の声に、私は首を傾げる。


 しかし、りこのその寝言は、ただの眠気ではない。


 私の胸に押し付けられた小さな額の奥で、りこは何かを“見て”いる――まだ言葉にならないけれど、確かに感じ取っている。


 私は詳しく尋ねず、ただ優しく抱きしめる。


「大丈夫、りこちゃん。寒くないよ」


 りこは寝顔のまま、わずかに安堵の息をつく。


 だがその肩先が、かすかに震えている。


 紗夜は横目でその様子を見て、唇を曲げたまま黙っている。


 何かが引っかかる――それは夢か、それとも…?


 朝日が建物や屋根を淡く染める中、三人の影は静かに伸びていく。


 まだ、何が起きるかは誰にもわからない。


 だが――


 その予兆は、確かにそこにあった。



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