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ダンジョンは夜に舞い降りる  作者: くろのわーる


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第1話:天災



 天災、それは自然界の変動によって、起こる災難。


 地震、台風、噴火、大雪など様々な種類がある。


 そして、新たに加わった天災。


 異界侵食、またの名を "ダンジョンホール"。


 人類の歴史に新たに刻まれた天災だ。


『続いては、ダンジョンニュースです。』


 アナウンサーになりたての女性が初々しく、真面目な表情で告げる。


『本日は○○市、××市、○○市の3箇所で発生すると思われます。この地域にお住まいの方は速やかに避難して下さい。』


 その声は新人らしく少し震えていた。


 私はテレビに目をやりながら、ため息をつく。


「またなの…」


 今月で三回目の出動だと思うと胃が重くなってきた。


 ランダムに発生するダンジョンホールは深夜0時に発生する。


 発生した地域は陽が昇るまで、異界に取り込まれて一度入ってしまえば、出ることは出来ない。


雨宮あまみや!今から移動するから準備しなさい!環境装備を忘れないように!」


 異界のタイプは大まかに2種類。


 取り込まれた地域の建物や地形を残したもの。


 もうひとつは樹海、砂漠、草原、洞窟、廃墟と全く違う異世界のもの。


 世界中の研究所が調査しているがどちらになるかはわからない。


 そして、異界の中は常に夜のように暗い。


 太陽は昇らず、月も見えない。


 肉眼で異界の中が見えるのは私のような特殊な目を持つ、"シェイプシフター"だけ。


 ニュースを見て、張り切ってるのは同じ民間企業で働く私の上司の《白峰しらみね 紗夜さよ》。


 私を異界から助け出してくれた人。


 家族を失くした私を迎えてくれた人。


 そして、この仕事の手解きをしてくれたバディ。


 紗夜は美しい顔を真剣に歪め、手際よく装備をチェックしている。


 刀は鞘に収まり、腰のベルトには小物と補助道具が整然と並ぶ。


 私は弓を肩にかけ、装備を整えながら思う。


「私、まだ夜目以外は普通の人と変わらないのに…」


 当時は予測の精度が悪く、突発的ランダムに発生したダンジョンホールに私とその家族は取り込まれた。


 そこで唯一、救助されたのが私。


 でも、異界に取り込まれた弊害で私の細胞は変異を起こした。


 意図せず、備わったのは"夜目"。


 異界の中でも私だけが化け物ホラーを正確に視認することが出来る。


 今夜、ダンジョンホールが発生すると思われる場所は隣の他県。


 正直に言って、近くて助かる。


 大型車に荷物を乗せると紗夜の運転で出発する。


 車内には紗夜が戦場で駆ける特殊なバイクが乗っているので手狭だ。


 車内は沈黙が続く。


 外はまだ夕方で、街灯がわずかに道路を照らす。


 目的地の市の境にはそれなりの数の同業者がいる。


 車を路肩に停めるとバイクを降ろす。


 周囲の目は好奇の視線を向ける。


 隣の紗夜はそんな視線など気にせず、ゴーグルを手に取り、無言で操作する。


 暗視・熱感知の最新型ゴーグルだ。


 他の同業者達も同様に準備を進めている。


 私だけはゴーグルを使わない。


 夜目が利く私の目には、普通の人には見えない予兆が夜空に浮かび上がっているのをすでに捉えている。


なぎ、後ろに乗りなさい」


 彼女が戦闘モードに入った時の呼び方。


 一度だけ、彼女に聞いたことがある。


 どうして、戦闘の時だけ下の名前で呼ぶのか。


 彼女は素っ気なく、呼びやすいからと言った。


 バイクの後ろに跨がると腰に固定ベルトをつけ、紗夜の鍛えられ、引き締まった腰に腕を回す。


 エンジンの音が響く。


「時間まで後どのくらい?」


 ダンジョンホール発生まで残り3分を切っていた。


「しっかり掴まってなさい!一気に中央部まで行くわよ」


 言葉よりも早く、走り出したバイクに同業者達は唖然とする。


 どんな異界になるのかもわからないのに突っ走る馬鹿な奴らを哀れに思って……。


 ダンジョンホールは、深夜0時の鐘とともに街の一角を覆う。


 空気が冷たく、湿った土の匂いと異界の匂いが混じる。


 異界が降りた瞬間、私の目に広がったのは、異様な光景。


 変形した建物。


 赤黒く染まった空。


 うねる影と人型の怪物。


 壁に沿ってうごめく異形。


 それでも紗夜は気づかない。


 ゴーグル越しにはただの黒い影だ。


 私は静かに息を整える。


 人型のはずなのに、顔が裂けて長い手足を持つ。


「…やるしかない」


 境界線の隊員はゴーグル越しに、ただの迷路と黒い影としか認識できない。


 しかし、私だけが知っていた。


 …あれ、元は人間だ…。


 その瞬間、暗闇から長い腕が私達の乗るバイクに襲いかかる。


 紗夜の身体から僅かに離れ、弓を引き、矢を放つ。


 刺さった矢の先には、私しか知らない「本当のモンスター」の姿があった。


「このまま突っ切るわよ!」


 彼女はバイクに固定された刀を抜き、ダンジョンホールの中央部へと走らせた。



本日、3話投稿。次話は12時です。

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