2 初めての顔合わせ
さて、そんなこんなで顔合わせ当日。
わたしはウィルフォード公爵家にお父様と馬車でやってきた。
お父様のエスコートで馬車を降りると、そこには初老の、いかにも上品ないい感じのイケオジーーたぶん現当主でお父様の親友のヴァージス様だろうーーが出迎えてくれていた。
その少し後ろに人影が見えるが、緊張でずっと俯いているし、今日は眼鏡をかけていない(わたしは今世でも目が良くないのだ)ので、あまりよく見えない。
お父様が公爵様にわたしを紹介すると、わたしは他人の前では初めてのカーテシーをなんとかキメて、顔を上げる。
そして、ーーーー
わたしは目を見開いた。もう、瞬きひとつできない。
目の前にはひとりの背の高い少年ーー茶髪に緑の瞳のーーがいた。きっと、彼がシアルト様に違いない。
そのとき彼から、正確にはわたしの頭上から、ため息ともつかぬ声が聞こえたような気がした。
わたしは彼をボーっと見つめたまま、こう思った、いや、感じた。
今この瞬間、彼と初めて会った瞬間、そして彼の瞳を見た瞬間、わたしの世界は180°変わったのだ。
わたしはため息ともつかぬ息音を聞きながら、そんなことを思った。
今までぼんやりしていたものが、急にはっきり見えるようになった感じ。いつも頭の隅に抱えていたモヤモヤが晴れて、澄み渡った。
ーーああ、そういうことね。わたしはやっぱり転生したんだわ、悪役令嬢に。……でも、どの小説?それともゲームなのか、さっぱりわからない……。
わたしはひとり合点しながらも、彼の瞳から目が離せなかった。
ーーなんて、綺麗な瞳なの。まるでそう、宝石のペリドットみたい。髪は明るい茶色だわ。この色、この組み合わせ、まさにわたしが求めてやまなかった、理想のど真ん中!!彼はやっぱりヒーローポジション?
でも、頭のどこからか警鐘が鳴る。
ーー彼は駄目、ほら、こういうタイプの人は、あなたとは合わないわ。絶対、あなたが苦労するに違いないの。
わたし達はそうして無言のまま、お互いにただ見つめ合っていた。彼の方も、わたしの瞳から視線を外さない。
彼の視線が、どんどん、なんていったらいいかわからないけれど、熱く?なっていっている気がする。わたしの方が、そう?なだけかもしれないけど。
それはすごく長い時間にも、ほんの数秒だったようにも思えるけど、実際のところはわからない。たぶん、30秒くらい?
隣で痺れを切らしたお父様が、咳払いをするのが聞こえた。
でも、ただそれだけ。それは右の耳から入って左の耳から出ていく。わたしはまだ、全然もろもろの衝撃から立ち直れていなかった。
公爵様も、この状況に困惑しているようだ。
「シアルト、どうしていつまでも黙ってるんだ?早くシャールトン嬢にご挨拶を」
その声に、彼はーーシアルト様ははっとしたようだ。
「シャールトン公爵令嬢、初めてご挨拶申し上げます。僕はシアルト・ウィルフォード。ウィルフォード家の長男で、魔塔で魔法師をしています。ーー唐突で申し訳ないが、」
そう言って、彼はまだ彼の瞳に囚われたままぼうっとしているわたしの目の前で、地面に片膝をついた。
そしてーーパッと、なにか黒い空間が彼の右手あたりにできて、そこから、大きな赤いーー真紅の薔薇!いったい全部で何本あるのだろう?
ーー見たことのないほど綺麗な花束を取り出すと、わたしに向かって差し出す。
「ディライラ・シャールトン嬢。どうか、僕と結婚してくれないだろうか」
彼、シアルト様は真剣そのものの表情で、そう言った。




