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12 ご招待

 シアンとご両親が帰ってから、わたしは自室で日記を書いていた。

 この日記には、シアンとの思い出やジャンから入手したシアンの情報を、どんどん書き込んでいくつもりだ。


 わたしは今日の一連の出来事を思い出して、ついニヤニヤしてしまう。


 ーーシアンの笑顔、本当に最高っ!笑顔が優し過ぎてわたしが幸せすぎる。

 それになんなの、このヤンデレ全肯定は?わたしをどこまで夢中にさせれば気が済むのよっ!


 ああ、また早く彼に会いたい、そう思ってわたしは日記を鍵付きの引き出しにしまった。



 ーー婚約から半年…。


 わたしとシアンは順調に仲を深めていった。

 毎週手紙を交換して、一ヶ月に数回はお互いの家でお茶をしたりする。

 贈り物もお互いにたくさんした。シアン様はわたしに彼の瞳の色であるペリドットと髪の色のライトブラウン、わたしは赤と黒色のを、送り合った。そのおかげで、わたしの衣装部屋のドレスやアクセサリーの大半が、彼の色になった。


 今日はわたしがウィルフォード公爵家にお邪魔していた。


 公爵夫人に二人だけのお茶会に呼ばれたのだ。


 わたしは公爵夫妻とも、お義父様、お義母様、と呼ばせていただけるくらい仲良くなっていた。


「……それであの子ったら、私にあなたが好みそうなものは何かって、聞いてきたのよ!」


 お義母様が、先日シアンにわたしの誕生日に何をプレゼントするべきか聞かれたと、満更でもなさげに言う。


「ふふふ、そうなんですね。嬉しいですわ!それで、お義母様はなんてお返しに?」

「それはひ・み・つ・よ!」


 そしてもれなくウインクが付く。


「あと、ディライラちゃんをお誕生日の日にデートに誘うのはどうかしら?とも言ったわ」


 さっすが、お義母様!


「それで、ですわね!この前のお手紙で、誕生日に街に遊びに行かないかと、提案されましたの」


 と、そのとき…。


「やあ、レイラ。来てたんだね」

「シアルト様!」


 今日も天使のような麗しさ、彼の周りだけ輝いてみえる……笑顔が眩しいシアンがお義母様の背後にいつも間にか立っていた。

 

 ……な、なんで気がつかなかったんだろう??音も全然しなかったし…


「母上、レイラを独り占めしないで頂きたい」

「まあ、独り占めだなんて人聞きの悪い。お前こそ、淑女のお茶会を盗み聞きだなんて、そんな子に育てた覚えはないのだけれど」


 ねぇ? と、こちらを笑顔で振り返るお義母様。


 ふむ、こうやって並んでみると、やっぱりシアンとお義母様のその表情はそっくりだ。


「…母上、少しレイラを借りても?レイラ、いいかな?」

「ですって、ディライラちゃん?行かなくてもいいのよ〜?」


 お、お義母様、そんな、、。

 小娘を試さないでくださいましっ。隣のシアンの笑顔の破壊力に勝てるわたしじゃないもの。


 わたしが返事に困ってオロオロ二人を見ていると、


「ふふ、ほら、おいでよ。とっておきのおやつも用意したんだよ?リーデル・シャリーのバタークリームケーキ、好きなんだよね?一緒に食べよう?」


 こ、小首をかしげるシアン様のご尊顔、頂きましたー!

 

 しかもシアン様ったら、このわたしを餌付けしようなんて、わかってらっしゃる〜!

 リーデル・シャリーといえば、王都随一のパティシエール、ダリトン夫人のお店で、王室御用達、予約必須のあの!リーデル・シャリーですかっ!?その看板商品、滑らか濃厚、でもくどすぎないバタークリームが堪らないあのケーキを、シアン様と食べれるなんてっ!

 なんのご褒美っ?わたし余命わずかなの???


 そして、シアン様と彼の部屋(!!)に移動し、ソファーで隣に座ったはずの彼のお膝に移動させられ(!!も、もちろんわたしからのったわけじゃないもの、シアン様がよいしょって!よいしょってっ!!!)、なんと彼から直接あーんされているという、もう脳みそパンクしてます無理ですこれ以上わたしにどうしろというの…。


「あ、ごめんね?クリーム付いちゃった」


 あまりの供給過多に呆然となっているわたしをよそに、シアン様がわたしの顔に向かって手を伸ばしてきた。

 ……え?手?えええーー、い、今、わたしの唇に、シアン様の指が…そしてそのままぺろっと舐めた!天使みたいな笑顔で!


「ねえ、今度の週末、うちの領地に遊びに来ないかい?お祖父様とお祖母様の結婚記念日で家族みんな集まるんだけど、祖父母がぜひ君に会いたいって。どうかな」


 わたしが彼の膝の上で頬をいっぱいにして、天国にいるような幸福感に浸っていると、彼が上からわたしの顔を覗き込んで言った。


「…ごっくん。もちろん行きたいですけど、どうしてわたしが?行ってもいいんですの?」

「もちろんだよ。君にとっても、もう実家みたいなものなんだからね。そんなに気張らなくて大丈夫」


 え! 実家って……それって…


 つい訪れるかもしれないシアンとのラブラブな未来を思い浮かべてしまって、顔が赤くなる。と、すぐにシアンにバレてしまった。


「どうしたの?顔が赤いような気がするけど…」

「だ、大丈夫ですわ。それで、ぜひわたしもご一緒させてください」

「ありがとう。お祖母様が大喜びするよ。君と僕の婚約を誰よりも喜んでるんだ」


 彼がわたしを後ろからぎゅーっと抱きしめてくる。肩に彼の顔が密着して、サラサラな髪がわたしの顎に触れてくすぐったい。心臓がうるさいくらいドキドキする。


 距離が近い……。こんなに早くこの距離感だなんて、前世オタクの万年処女には百万年早すぎると思う。


「…そうなんですのね。わたしもシアンのお祖父様とお祖母様に会えるのが楽しみですわ」

「うん、本当にありがとう、レイラ。僕と婚約してくれて」


 そして、彼の満足気なため息がわたしの胸元にかかった。

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