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11 約束とお願い

 そんなちょっとしたトラブルはありつつも、わたし達はその日の午後を二人でお喋りして楽しく過ごしたのだった。


 ガゼボで座りながら、シアルト様とお互いの趣味や、好きなものと嫌いなもの、家族の話、小さい頃のことなどをとりとめもなく話すのは、すごく楽しい。


「そういえば、」


シアルト様が何かを思い出した様子で呟く。


「どうされましたの?」

「ねぇ、さっきディライラに、僕と会えなくて寂しくなかったのかって聞いたよね」

「え、ええ。それがどうかしまして?」

「寂しくなかった?」

「えっ?…そ、それはもちろん…寂しかったですわ」

「ふふっ、そうなんだ。嬉しいよ、ディライラから直接聞けて」

「…」


 ……なんだか彼のいつもは澄み渡っているペリドット・アイに闇が差している気が…


 彼が目をほめて、クツクツ笑う。


「だってディライラは、僕を尾行させちゃうくらい、僕に会えなくて寂しかったんだもんね」


 ゲホッ、ゴホッ…


 つい飲みかけの紅茶を吹き出しそうになった。


「大丈夫?」


 彼が心配そうに席を立ってこちらに移動しようとする。


「だ、大丈夫です。ケホッ、コホッ…そ、それより、な、なんておっしゃいましたの?」

「いや、ディライラの愛を感じてとても嬉しかったんだよ。ああ、ところであの白髪の彼はディライラ付きなのかな?」


 ……どうやら完全にバレてしまっているようだ。


「……ジャンのことですか?」


 なんだかあたりの気温が一気に下がった気が…


「……ふーん。名前で呼んでるんだ。…その彼にはもう来ないように言っておいたから」

「え?」

「代わりに女性の諜者ならつけてもらって構わないよ?君に僕の行動を報告させてるんだよね?」


 ……女性?彼は何を言っているのだろうか?


「ジャンではダメなのですか?」

「ああ、だめだよ」

「…」


 明らかに気温が下がっている。もはや寒い。


「…ディライラは、そんなに彼を気に入っているの?」

「いえ。ですがシアルト様の要求はのめません」

「どうしてかな?」

「…あなたを24時間観察させるのに、女性なんて絶っ対に!!ダメだからですっ!!!!」


 彼がハッとして、……惚けたような表情をした。


「…ふふふふっ、ハハハっ!そうか、もしかして…ディライラは嫉妬してるの?その、僕の監視役になる女性に?」


 はっ!


 言ってしまってから後悔しそうになるけど、もう遅い。……それになんだか、彼はわたしを嫉妬させて嬉しそうみたいだし…


「……嫉妬しちゃ、ワルいんですか?!ふんっ!もうシアルト様なんて、知らないもん!!」


 腕を組んで、ふいっ!と、今度こそわたしはシアルト様からそっぽを向いた。


 くふふふっ、ディライラが可愛すぎる、と密かに呟いてから、シアルトはディライラを宥めにかかった。


「わかった、わかったよ。ディライラ、彼でもいいから…」


 チラと彼の表情をみる。ーー目が合ってしまった。


「……それ、本当ですわね?」

「ああ、その代わりに、僕のお願い事をひとつ叶えてほしいな」

「……」

「どうかな?……だめ?」

「……わかりました。どうぞ、願い事をおっしゃってください」

「ありがとう。じゃあ、これから僕のことはシアンと呼んで?」

「……シアン、様?」

「様もつけないでほしいし、これからは敬語なんて使わないでよ」

「そ、それは…」


 ね?ほら、と彼に微笑まれる。


 ぐっ、わたしは彼の笑顔に弱いのだ。


「……シ、アン。シアン」


 シアルトは小さくガッツポーズして、喜びを噛み締めた。

 なにより、上目遣いでつぶやくように名前を呼ぶディライラが可愛過ぎた。


「はあ、ディライラ。可愛すぎるよ。どこまで僕を夢中にさせる気なの?」


 ディライラは恥ずかし過ぎて顔を真っ赤にさせながら、じゃあ、と甘えたようにシアルトに言う。


「シアンも、わたしのことはライラと呼んで。家族はわたしをディーラと呼ぶから、これはあなただけに許可するわ」

「……ライラ、ライラ。ディレイラも可愛いけど、ライラもいいね。響きが綺麗だ。それに、僕だけ特別なの、絶対だよ?他の誰にも言わせたらいけないからね?」

「も、もちろんよ!……シアン、もわたしだけなんだから」


「ああ」

と、シアルトは嬉しそうに笑った。

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