10 初顔合わせ
飛ぶように時間が過ぎて、今日は日曜日。シアルト様と彼の両親がうちに来る日だ。
わたしの目の前にはシアルト様が、その隣にウィルフォード公爵様と公爵夫人がいらっしゃる。
客間では、今、わたしの両親とお兄様含めて七名が揃って昼食後のティータイムを楽しんでいるのだ。
家同士の挨拶も終え、話の中心はお父様とウィルフォード公爵様で、学園時代の思い出に花を咲かせている。みんなにこやかな表情でとても良い雰囲気。
わたしも笑顔で話に耳を傾けていると、ウィルフォード公爵様が笑顔でわたしに話を振ってきた。
「ディライラ嬢、この度はうちの倅をもらってくれてどうもありがとう。あの時はシアルトが急に求婚しだしたものだから、私も驚いたのなんの。普段は冷静で、突飛な行動をするような子じゃないんだが。どうもよっぽど君を気に入ったようだな。まあ何かあれば、愚息への要望でもなんでも、遠慮なく私に言いなさい」
と言って、悪戯っぽくウィンクまでされた。
ーー公爵様って、厳格なタイプに見えるけど、実はお茶目な方なのね。
わたしもにっこりと微笑む。
「ありがとうございます、公爵様。シアルト様はわたしには勿体無いほどの殿方ですわ。わたしも彼にふさわしくなれるよう、精進してまいりますわ」
するとそれまで口数の少なかった公爵夫人が、
「ディライラちゃん、そういってくれて本当に頼もしいわ。うちは三人とも男だから、あなたみたいなかわいい娘ができてとっても嬉しいの。ぜひ、家にもたくさん遊びにきてちょうだい」
と満面の笑みを浮かべて言った。
ーーシアルト様の両親に会うのはすごく緊張したけど、おふたりとも優しくてよかった。
ウィルフォード公爵様は白髪混じりの茶髪にいかにも柔和な茶色の瞳で、笑うと目尻に皺がよって、それがシアルト様そっくり。
公爵夫人は金髪にシアルト様と同じ綺麗なペリドット・アイで、すらっと背が高くてめちゃくちゃスタイルがいい。でも高圧的な美人系ではなくて、どちらかというとこざっぱりしていて、まさに男児三人の母、という感じだ。
二人のわたしへの好感度は高そうで、ひとまず安心する。前回初めてお会いしたときも、公爵様と全然お話しできなかったから、余計に心配していたのだが。
と、目の前にいるシアルト様から視線を感じた。相変わらず輝きまくっているペリドットの瞳と目が合うと、にっこり笑いかけられた。
つい、顔が赤くなる。
「ディライラ嬢、二人きりで話せないかな?君ともっと仲良くなりたいんだ」
「…では、庭園をご案内いたしますわ。お父様、よろしいですか?」
「ああ、行っておいで」
みんなから生温い視線を感じながら、シアルト様が差し出してくれた手を取る。
……めっちゃ恥ずかしいんだけど!!シアルト様は恥ずかしいとかないの?また目が合った。……そんなに嬉しそうに微笑まないで!
エスコートされながら、扉を出ると公爵様の笑い声が聞こえた。……絶対揶揄われてるじゃんっ!
隣のシアルト様はこれっぽっちも気にしてないみたいだけど。
「ディライラ、やっと君と二人きりになれてうれしいよ。この数日、君と会えない時間は地獄のようだった」
「それは、少し誇張しすぎでは?」
「ディライラは僕と会えなくて寂しくなかったの?」
「そ、それは…」
ついそっぽを向いてしまう。
「ふふ、困ってる顔もすごくかわいい」
わたしはふんっ!と膨れながら、庭園に向かってずいずい進んでいく。それなのに彼は軽々追いついた。
「うわあ、評判通り見事だね」
彼が目の前に広がる光景ーー満開の紫陽花をみて感嘆の声をあげた。
「今は紫陽花の時期ですもの。わたし、紫陽花がお花のなかで一番好きなんです。だからお母様が、たくさん植えてくださったの」
「そうなんだね。それにしても、本当に綺麗だ」
「でしょう!このグラデーションは、庭師がわざわざ、場所ごとに土を変えているのよ」
「うん。でも、嬉しそうに話す君が一番綺麗だよ」
ーーもうっ!揶揄わないでよね。
でも体は彼の言葉に素直なようで、ポッと顔が赤くなってしまった。
「頬、赤くなってる。恥ずかしいの?ディライラ、かわいい」
「もうっ!そんなに揶揄うなら、置いていきますわよっ」
わたしは踵を返して、またどんどん庭園の奥に行こうとした…
が、
ツルッ
…え?
昨日降った雨でできた水たまりに、足を救われたようだ。…転びそうになる。
「危ないっ!」
焦ったようなシアルト様の声が耳元で聞こえて、気づけば彼に抱き止められていた。
ーーえ?
って、ぎゃーー〜!!!!!!
わたし、わ、わたし、今彼の腕のなかにいるっ!
シアルト様の腕、なんだか意外とたくましい。
って、そんなこと考えてる場合じゃないでしょっ!!
「…ご,ごめんなさいっ!その、滑ってしまって…」
「…いや、間に合ってよかったよ」
なんだか彼の頬が少し赤くなっているような…?
ーーも、もしかしてシアルト様もて、照れてらっしゃるっ?
…初心なのっ?か、かわいいっ!
ど、どうしよう。ときめいちゃう。なんだか胸がキュンキュンするわ。顔も余計に熱くなってくし…
と、彼が俯いたわたしの顔を覗き込んだ。
「ディライラ、気をつけてね?」
「う、うんっ」
……は、恥ずかしいっ!かぁーっとまた赤くなって、わたしは手で顔を覆った。




