第一話 消えていた記憶と出会い
チュドーンッ!!
平和であった宇宙に漂う一つの星、『グロケリス』に一人の男が墜落した。
茶髪のツンツンヘアーで、中学生くらいの身長の男性『ガイタ・トライアングル・ウエハース』。
彼は一体どこからグロケリスに墜落したのだろう。
彼自身、自分が墜落したことはわかる。だが、“どこから”というそれは彼自身にもわかっていない様子で、ちょうど今起き上がって辺りを見回している彼はキョトンとしている。
いや、違った。彼がキョトンとなっているわけにはそれ以外に、彼自身の“記憶がない”ことも含まれていた。彼は自身の名前と彼の過ごし、育った場での一般常識。それ以外に覚えていることはない。もっとも、彼の記憶からはその過ごし、育った場というのも消えているのだが……ちなみに彼は彼が墜落したこの地がそれではないことはわかっていた。
さて、それから少し。くるくると腰を回していた彼は、周辺には自身の墜落によってできたクレーターと、草や木があることがわかった。それしかわからなかったとも言う。
それと、その間に彼は自身の記憶の中の自身に関する状況を整理していた。
まず、名前はガイタ・トライアングル・ウエハース。次に年齢は16。で、元いた場所は不明。自身の身分も不明。そして、親のような関わりの持つ人間は誰一人として記憶になかった。
これだけでわかる。そうだ。彼の記憶には大した情報は残っていなかったのだ。
「くそっ……何にもわかんねえ。こっからどうしたらいいんだ……ま、いいか。とりあえずそこらへんをぶらついて、なんか見つけよう」
ガイタは何もわからない。だがそれを実感した彼は思ったのだ。(何もわからねえのなら、わかることを増やしていこう)と。
だから彼は歩く。そのクレーターから立ち上がり、緑へ足を進める。
するとすぐに彼の目には人型のシルエットが映った。
「ひ、人がいる!?」
そのシルエットからはそのような言葉が発せられた。
ここは俺のいた場所ではないのに、言葉がわかるのか。
ガイタはまず、そう思った。
どうやら彼の記憶には、過ごす場所が違うと使う言語が違い、言葉が通じないという知識があったらしい。
次に彼はそのシルエットに接近する。原住民にコンタクトを取ろうと考えたのだ。だから彼は言葉を発した。
「初めまして。あなたは誰ですか?」
ガイタがそのように言葉を発すと、シルエットから「えっ!?」という、驚きの感情が込められた声が聞こえた。
「あ、あなた……人間!? というか、なんでこんなところに!? え、えっと、とにかく初めまして!! 私はモコと言います!」
ついにそのシルエットがシルエットでなくなった。つまり、それの顔が、身体が見えた頃に元シルエットからそのような言葉が発せられた。
『モコ』と名乗った彼女は、ボブ程度の長さで、先の方だけ桃色でほとんどが金色の髪の女性だ。ガイタと同じくらいの身長で、ピンクと白の皮の服と特徴的な赤いスカーフを身につけている。
彼女はガイタからすれば違う星で育った生物のはずだが、その容姿はガイタと同じような人間だ。まるで故郷すらも同じくらいに。
だが、ここは彼の故郷ではない。育った場ではない。つまり彼女がここで育った人間である場合、それはただの偶然のはずだ。
「俺はガイタ。よろしく。モコはここの人なのか?」
「え……そ、それはどういう」
「すまん……言い方が悪かったかな。モコはここ……この星で育った、ここに生きる人なのか?」
「こ、この星……? まあ、そうですね……私はこの星の、サラネシアという街で育ちました」
「サラネシア? それは一体どういった場所なんだ? それに、サラネシアってのはこの近くにあるのか?」
ガイタは未知の地名を聞き、そこがどこような場所なのか、生まれ育ったモコに聞く。それで語られた内容が好奇心がそそられるようなものであった場合、まずはそこを目的地としてみようという考えである。
「この場所から一番近くて、ある程度発展している街がサラネシアです。とはいえそこそこ徒歩だと時間がかかりますけどね。
それで、うーん、サラネシアは……まず、利便性が良いです。まずまず栄えていて、暮らしに便利な商品や食品を取り扱うお店がいくつもありますので、お金があれば暮らしにはなかなか困りません」
「そりゃあいいな」
現在何も持ち得ないガイタからしたら、生活に必要な品が揃えやすいというのは良いポイントだ。
「次に、仕事が多くあります。さっき言ったようなお店がたくさんあるので、そこで働くというのも良いですし、日雇いのあまりスキルが必要ないお仕事もたくさん。交通整理とか。あとは、最低限資金があれば、ギャンブルができる場もあるので……まああまりおすすめはしませんが……」
「ちょうど一文なしだからな。仕事が多くあるのも素晴らしい。ついでにギャンブルというのも楽しそうだ。生活が安定してきたらやってみるのもありかな」
彼女の提示してくれるその街の特徴は大体今のガイタにピッタリだ。そのため彼の、サラネシアに行ってみようという考えはほとんど確定されてきた。
「? 一文なしって……というか! よく考えると、あなたって一体どこからきたの!? なんであんな……隕石による大爆発の中心に!?」
「……隕石? 大爆発?」
モコは困惑で敬語も忘れ、ガイタがいたその場所で、少し前に起こったことを話して聞く。
隕石による大爆発。最初、彼にはなんのことかわからなかった。
だが、少し考えてわかった。
隕石というのは自分のことだ。自分は宇宙から、隕石のようにこの地へ墜落したため、この地にいた彼女には隕石に見えたのだと。
大爆発というのは自分が墜落したことによって起こった衝撃だろう。
とはいえ、人一人が墜落しただけで、きっと同じような感性のモコから大爆発と呼ばれるほどの衝撃は起こるのだろうか? そして、彼女が隕石と形容した自分の墜落。隕石というほどだから、きっと自分は上空、宇宙から墜落したのだろう。なぜ、自分はそのような墜落をすることになり、そしてなぜ宇宙からの墜落の衝撃を受けてなお、こう、ピンピンしているのだろう?
ガイタの頭では複数の疑問が回り巡っていた。
「……悪い。それはわからない。だが、隕石ってのは俺のことだ。ほとんど何にもわからないけど、わかるんだ。俺はこの地に墜落したってことだけ。だから、墜落した俺が隕石に見えたんだと思う」
「??? ……? えっと、あなたは墜落したの? どこから?」
「多分、宇宙から」
「???」
モコにガイタの言うことは理解できない。わけがわからない。
宇宙から人間……いや、宇宙からというのなら人間ですらないのだろうか? 宇宙人というやつなのだろうか? とにかく、宇宙から人間のようなのが墜落してきた? そんなこと、有り得ない。少なくとも彼女の常識では。
だが、彼の言い分では、それがあり得てしまっているらしい。
「というか、もし本当にあなたが宇宙から墜落していたとして、どこからきたの? なぜ生きているの?」
「わからない。記憶がないんだ」
「き、記憶が……?」
何がなんだかわからない。
それが、話を聞いたモコの感想だ。わからないことを追求しようとすると、さらにわからないことが増えてしまう。
「う、ううー……」
「だ、大丈夫か?」
ガイタは突然唸り始めてしまったモコを心配する。それの原因は、彼女にとってわけのわからないガイタ自身なのだが。
「と、とにかく……一度ここから離れてサラネシアへ行きましょう……のんびりしていると、人も集まってきて面倒なことになるでしょうから……」
「うん? わかった」
「はい……それでは私についてきてください。少し駆け足で行くのでしっかりついてきてくださいね!」
少しの時間を経て唸りを止めたモコがガイタに言った。ガイタには彼女の言う、人が集まって面倒というのもすぐには理解できなかったが、サラネシアには行くつもりだったのでその提案を受け入れた。
ガイタの言葉を聞き、モコは宣言通り駆け足でその場から移動を始め、ガイタも彼女から離れないように駆け足でついていくのだった。
——
緑一色の草原。雲ひとつない青空。たまにチュンチュンと小鳥の声が聞こえる。
走っているうちにガイタはその星の風景を眺めていた。
この星の風景はまるでおとぎ話の世界のようだ。
ガイタはおとぎ話だなんて、全て記憶に残っていないのにそう感じた。
「ああ、そうだ。私からあまり離れないでください」
突然モコは振り向いてそんなことを言う。
ガイタは当然その意図がわからないため、それを問う。
「なぜだ?」
「“ベーゼ”に襲われる可能性があるからです」
「ベーゼ?」
彼女はガイタにそう聞かれることを予測していたかのように、すぐ答えを発した。
とはいえそこで出てきた、固有名詞、“ベーゼ”。
それもガイタにはわからない言葉であるため、彼はまた問うた。
「はい。ベーゼというのは、簡単に言えばバケモノです。奴らは突然、なんの脈略もなく現れます。まるで災害のように。そして人を襲ってきます。
見た目は黒のような色が主で、禍々しい見た目をしているそいつはまるで悪。故に悪を意味するベーゼという名をつけられました」
「……対抗手段は? モコはこんな、あとどれくらいかは知らねえけど、歩けば街に着くような場所でベーゼを警戒してる。つうことはベーゼってのは結構頻繁に現れるんじゃないのか? もしそうならそれくらいなきゃとっくにこの星の生命はベーゼに滅ぼされてるだろ」
「そうですね。あなたの言う通りで、我々人類はベーゼへの対抗手段をとうに編み出しています」
そう言って彼女は右手の人差し指を天に向けて立てた。ガイタはその指に注目する。
「見ていてください」
そう言うと、彼女のその指から青白い光が放たれた。
「それは?」
「“マナ”という人類の体内にあるエネルギーです」
彼女は人差し指をゆらゆらと動かしながら語る。マナとよばれたその光は動き続ける彼女の指から離れず、ついてゆく。
その動きからガイタはマナがそういうものなのだと理解した。
「そのマナがどうベーゼの対抗手段になるんだ?」
「そうですね。軽く見せましょうか。あちらの木と、このマナを見ていてください」
そう言ったモコは人差し指をその木に向けた。
ガイタは彼女の指の先にあるマナに注目する。
ピュンッと、マナがモコの指を離れた。
木に向けて、打ち出されたのだ。
マナは木にぶつかり、木はマナがぶつかった箇所の皮が消え、凹みができている。
「おお! マナが弾丸のように!」
「はい。このようにマナでベーゼにダメージを与えるのです。今のは木を破壊しないためとても小さなものにしましたが、ベーゼと戦う時は——」
モコの指先にまたマナが現れた。そのマナの量は、ついさっきまでマナという存在を知らなかったガイタにさえ先ほどよりもなかなか増えていることがわかった。
モコはその指を天に向け、マナはバスケットボールくらいのサイズの球体となった。
ちなみに、その例えでいうと先ほどのものはBB弾である。
直後——
それは天に向けて放たれた。
「これくらいのサイズになります」
「おおー」
障害物のない空に進んでいくため、バスケットボールはそこそこの距離進んだ時にブオンと消えた。
「とはいえ、これは私の場合ですけどね」
「どういうことだ?」
モコは空から自分に視線を移したガイタにそう言った。
もちろんその意味がわからないガイタは彼女に問うたため、彼女は話し始める。
「先ほど、マナは人類の体内にあるエネルギーといいましたよね。今やったのは、その体内にあるマナを外に引き出して使った、消費したのです」
「つまり?」
「はい。つまりですね、体内のマナがなくなると今やったようなものはできなくなるんです。マナを使えなくなるんですね。
あまり大きいサイズの攻撃にすると、消費するマナの量が多くなり、体内のマナがすぐになくなってしまいます」
モコの説明はマナを知らないガイタがその仕様を理解するにはなかなかわかりやすかった。
だからガイタはすぐにその説明の結論を出す。
「なるほど。するとすぐ動けなくなってやられてしまうってわけか」
「そう言うことです。まあ、大きくすればするほど、つまりマナをより使えば使うほど威力も大きくなるので、大きな攻撃で一撃で倒してしまうというということもできますけどね」
「で、私の場合は……ってのはどういう意味なんだ? その、よりたくさんマナを使って一撃で倒すやり方でベーゼと戦うやつもいるってことか? お前がそうでないだけで」
ガイタの言葉にこくり、とモコは頷いた。
「それと、マナの量は人によって違います。個人差があるんですね。これは生まれもっての量というわけではありません。まあ、それも差はありますけどね……」
「生まれもってじゃないってことは、成長に伴って増えていくとか、そういうことか?」
「成長……まあそう言った感じですね。成長、歳を重ねれば重ねるほどマナの量は増えていきます。それに加え、鍛錬で増やすこともできます」
「なるほどな。そこまで言われたら俺にもわかった。つまり、マナの量が多ければ多いほど消費量を増やしてもいいわけだ。
だから、たとえばお前と、お前よりもマナの量が多いやつがいた時、お前のマナの量を10とし、あの球を撃つ時のマナの消費量をマナの量の半分とする。するとお前があれを撃つ時に使うマナの量は5になり、あれの威力もそれにともなう。
で、お前よりもマナの量が多いやつのマナの量を20にすると、そいつがあれを撃つ時、同じ割合。マナの量の半分を使うとするとそれは10。威力もそれにともなうから、お前と使ったマナの割合は変わらないのに、お前よりも大きく、強い球ができあがるんだ」
そんなガイタの考えをモコは「そういうことです」と、正解だと頷きながら言う。
「マナの量の違いや、戦闘スタイルの違いで、その人が撃つ球の大きさも変わる。だからベーゼとの戦闘時、みんながみんなあの大きさで球を撃つわけじゃないんですね」
「ありがとう。大体わかった」
「この世界で過ごすのでしたらこれくらいは知っておかなければならないですしね。ちょうどよい機会になりました」
モコの言葉だと、ここまでの内容は常識のようだ。
ガイタも彼女の言葉のように、知れておいて良かったと感じた。
と、同時にこれだけ謎の力について聞かされたガイタは、自分もマナを扱ってみたいとそんな気持ちが生まれた。
だから、言う。ガイタはモコに向けて。
「それ、俺も使うことはできないのか?」
「へ? マナをですか?」
モコはガイタの問いに問うた。
ガイタはそんなモコからの問いに首を縦に振ることで、「そうだ」と、肯定の意を伝える。
するとモコはほんの少し悩むような表情を見せたのち、俺に言う。
「できると思いますよ。あなたの身体にマナがあればですが」
この星の人間の体内にはマナがある。のだが、ガイタはこの星の人間ではない。それを考慮してモコはそう言った。
この星の人間ではないガイタの体内にもマナがあればガイタはそれを使うことができる。なければできない。ということである。
「マナの使い方を聞いてもいいか?」
「はい。街までまだ時間がありますから、歩きながら教えましょうか」
「ありがとう。それじゃあ頼む」
俺の言葉にモコは微笑み、「はい」と言って話し始めた。
「まずマナを使うにはマナを体内から外に……あ、この理屈の部分はさっき言ったので、さっそくその方法をお教えしましょう。準備はいいですか?」
「大丈夫だ。いつでもなんでもやってやろう」
「良い意気込みですね。それじゃあ、見つけてきてください。あなたの体の中。その中心。奥深く、真っ暗な場所に灯る青い光を」
なんでもすると言ったガイタはモコの言葉にしたがい、目を閉じて意識を潜らせていく。
体の中心。だいたい腹、みぞおちの上くらいだろうか? そこの奥深く。
確かにそこは真っ暗だ。
正確には、そんなところの風景など特に何もない。もしくは、何かあるのかもしれないがガイタにはわからない。
何もない真っ暗な空間。ここに灯る青い光。
それがガイタの思い浮かべるものだが、どうしてだ。そんな情景は見つからない。
もっと奥だろうか?
そう思い、ガイタの意識はさらに奥へと潜っていく。
キラリ、と。
わずかに光が見えた。
体内の深淵とも呼べるその場所でガイタは光を見た。見つけることができた。
だから一度ガイタは目を開けて口も開ける。
「あったよ。光」
「本当ですか? でしたら、次のステップへ——」
「や、ちょっと待ってくれ」
モコの言葉をガイタが遮った。
それは、彼にとって不可解なことがあったからだ。
「どうかしましたか?」
「ああ……光はあった。あったんだが、青くなかったんだ」
「青くない、ですか? それは、一体どういう……。単に別のものを見つけた……いや、そもそも身体の中の光だなんてマナ以外にはない……あ、あの、その光は何色だったのですか?」
「なんか、いろんな色に見えた。まあ簡単に表現するなら“虹色”だな」
そう。ガイタに見えた奥深くに灯る光。それは赤、青、黄色……と、さまざまな色で輝いていた。
「虹色、ですか。マナは青色の光。そこに例外はないはず……ですから、あなたが見たのはマナとは違う別の光なのかも? 知れませんね」
「……そうなのか。じゃあもう一度、ちゃんと見つけに——」
「ちょっと待ってください」
モコはガイタの言葉を遮る。
ガイタがキョトンとすると、モコはそこから言葉を紡ぐ。
「次の工程も一緒にやってしまいましょう。今やったものは次やることの過程ですから」
「へえ、了解。わかった」
「はい。では次の工程を説明します。と言ってもやることは単純です」
「単純って、それが簡単ってわけじゃないんだよな? 多分」
彼女の言葉に、ガイタはそんな疑問を抱いた。
ちなみに、彼は根拠を持ってそれを抱いたわけじゃない。なんとなくそう思っただけだ。
だが、彼のそれは正しかったらしい。
それを聞いたモコは「はい」とガイタの疑問を肯定した。
「実際、それができない人はたくさんいますから。一応、マナを使える人は限られているんですよ」
そう言ったモコは少し自慢げな顔をしていた。
自分は限られた人の中にいるんですよ、という意味だろう。きっと。
ガイタはその顔を見て、このように思った。
「その限られた人の中にモコはいるってわけか。すごいんだな」
「えへへ……それほどでもないですよ……」
ガイタはモコを褒める。
彼女はぼそっと呟く程度の声量で、照れていた。
「じゃあさっそく、その方法を教えてくれ。俺も限られた人ってのになってみたいしな。限られた人の中にいるモコに教えてもらえるなら、きっとできると思う」
「……はい! わかりました! 私があなたを指導してあげましょう!」
モコはガイタの言葉で気分がよくなった。
「じゃあ、説明します。さっき、潜って青い光を見つけにいきましたよね。この工程ではそれを外に引っ張り出します!」
「引っ張り出す……そのやり方とかって——」
「簡単です。土に埋まったお芋を引き抜くように、身体の中に埋まったそのマナを引き抜くんです!」
「芋を引き抜く……それってどうやって?」
残念。ガイタの記憶に芋を引き抜くという行為がどんなものかは存在しなかったようだ。
「あ、ああ。そうでした……あなたは記憶がないんでしたね……少し、動きだけやってみるので見ていてください」
「すまん。助かる」
そう言ってモコはその芋を引き抜くような動作をやって見せてくれる。
「こう、両手でしっかり掴んで上に引っ張り上げるんです」
「わかった。マナもこうすればいいんだな。やってみるよ」
彼女の言うやり方を理解してガイタは実行する。
まずは先ほどと同じように、あの虹色の光の元まで潜った。
これじゃないんだよな。もう少し潜るか。
ガイタはマナである、青い光を求めてその虹色の光の方へ進む。これは虹色の光に触れるためではない。
それよりさらに先へ潜るためだ。
だが、
なっ……!
バキィッ——————
弾かれた。
ガイタの身体はその虹色の光に弾かれる。
虹色の光がガイタを奥へは潜らせてくれない。
あるいは、虹色の光がガイタの奥も奥、最奥なのかもしれない。
どちらにせよ、だ。ガイタはそれ以上奥から青色の光を見つけることはできない。
一度、周りを探してみるか。
ガイタはその真っ暗な空間を泳ぐ。
手と足を動かし、まるで水の中を進むように身体を動かす。
その空間は足をつく場所がない。本当に水中に潜っているような感じだ。無重力にいるような感じでもあったりする。
ガイタは探した。
けれど、彼は見つけることができなかった。
真っ暗な空間に青い光があるなら目立つだろうに。
これ以上時間をかけるのも……だな。仕方ない。一度戻ろうか……
そうして目を開けようとしたガイタの頭に一つの考えが浮かんだ。
いや、試しにあの虹色の光を引っ張り出してみるか。もしかしたらあれがマナなのかもしれないしな!
このように思ったからガイタは泳ぎ、虹色の光の元へ行く。
引っ張り出す方法は、土に埋まった芋を引き抜くように……ようするに力ずくだ。
ガイタはその光に右手を伸ばした。
バキィンッ——————
また、弾かれてしまった。同じように。
彼は光には触れられないのだろうか?
彼自身もそう思った。
だがどうやら、彼は諦めが悪いらしい。
今度は両手をそれにぶつけた。
さっきと違い、乱暴に。
バキイィンッ——————
ダメだった。
では今度はさらに強くぶつかってみよう。
ガイタは足を動かし、勢いをつける。
そしてその勢いのまま、光にぶつかった。
同じように、また光は彼を弾こうとする。
が、彼は足を全力で動かし、前に進み続けることで、光の弾く力に抵抗している。
彼を弾こうとする力はまるでバリアだ。
ガイタは自身の手をその中に捩じ込んでゆく。
わずかに、ガイタの進む力が弾く力に打ち勝っているのだ。
手は徐々に光の中に入っていった。
よし、いけるぞっ!
そう、ガイタが思った瞬間だ。
バキィィンッ!!
があッ!?
光の弾く力が大きく強くなった。
それにより、ガイタの身体は大きく後方に吹き飛ばされ……
その衝撃でガイタは目を覚ました。
「……あ、おかえりなさい。どうでしたって、ああ、ダメだったみたいですね……」
「くっ、ああ……そういうことみたいだ」
彼は弾かれた時の衝撃のせいか、軽い頭痛がしていて、頭を片手で抱えている。
モコはその様子を見て、彼を心配すると同時に彼がマナを出すのに失敗したことに気がついた。
だが、彼女はそれよりも気になることがあった。
それはガイタが目を覚ます直前くらいのこと。
彼女はマナとは違う、膨大なエネルギーを感じた。
ビリビリと、それは彼女の全身を刺激した。この刺激と共に、ゾワッといった、背筋が凍るというのに近しい感覚もあった。
感じてから少し時間の経った今でも彼女は少し冷や汗を流している。
モコがエネルギーを感じた瞬間、ガイタはちょうど虹色の光に手を突っ込んでいた。
つまり、ガイタがそれに手を入れたことで、その虹色の光、もといマナではないなんらかのエネルギーがモコにも感じ取れるようになったのだろう。
とはいえ、その後すぐにガイタは弾かれたため、モコが感じ取れたのはほんの少しのうちだけだった。
「大丈夫ですか? 疲れたのなら少し休んでから行きましょう」
「ん……いや、大丈夫だ。疲れたというより、衝撃で頭痛が痛かっただけだからな」
「意味が重複していますよ。……それより、衝撃というのはどういうことですか?」
モコの知識に、マナを引き出す時に衝撃を受けるなんてことはない。
ただ、その衝撃というのは感覚的なものでなく、物理的なものである。
感覚的というのは、『雄大な景色を見て衝撃を受けた』とか、『美しい絵画を見て衝撃を受けた』。
物理的というのは『勢いよく石に衝突して衝撃を受けた』とか、『身体を突き飛ばされて衝撃を受けた』という感じで、モコの知識の中に、後者の方の衝撃をそれをする時に受けるだなんてものはない。
だから彼女は前者であると考え、そこからガイタが、自分も感じた膨大なエネルギーを彼自身の身体の中で目の当たりにし、それに衝撃を受けたということじゃないか、と考えた。
けれど実際のところ、そうではなかった。
ガイタの受けた衝撃は後者の方である。
彼はモコに問われ、その答えとして「光に触れたら弾かれて——。その時の衝撃だ」と言った。
ガイタから発せられた答えが自分の想定とは違った。そのうえ、自分の知識にはない現象が彼の身に起こったらしい。ということで、モコは困惑する。
その末に行き着いた答えは——
「ひとまず、マナの件は保留にしましょうか」
「え?」
「サラネシアに行けばゆっくりできますから。落ち着いた環境の方が成功しやすいですよ」
「そうなのか?」
「はい! 安心してください。ちゃんとサラネシアについた後、あなたに私がマナについて教えると約束しますから。続きを教えずに行方をくらましたりとかはしませんよ」
モコはニコリと顔を微笑ませてそう約束した。
「なんでわざわざモコは俺にそれを教えてくれるんだ? そうする理由がモコにはないだろ?」
「……あなたは記憶をなくして見ず知らずの土地でこれから暮らしていかなければいけない。なのに何も持っていなくて、信頼できる、頼れる人もいない。あなたに限らず、そんな人に自分が与えられるものがあるのなら、できる限り与えてあげたいって、私は思うんです」
ガイタは思う。
こんな状態で一番最初に出会った人がこうまで優しい心を持った人で良かったと。
そこからは軽い雑談を交わしながら、ガイタとモコはサラネシアへ向かっていった。
日が落ちてきて、やや暗くなってきた頃だ。
どれだけ歩いても一面緑の似たような風景。
それが気になり、ガイタはモコに「この星はそういった星なのか?」と聞くと彼女からは「遠くに行けば全然違う風景が見られますよ」と返ってきた。
ガイタは違う風景を見ようと、背伸びして遠くを見ようとする。すると——
「煙が見える」
「え?」
「ここからずっと真っ直ぐ行ったところ。煙が昇っている。おまけになんか空に見える」
ガイタのその言葉を聞いて、モコの頭によぎる。
ここからずっと真っ直ぐ行ったところ。ずっと真っ直ぐというのがどれくらい遠くかはわからない。
だが、サラネシアはここから真っ直ぐいったところにあるのだ。
つまり、彼女の頭によぎったのは、サラネシアに煙が昇るような異変が起こっているかもしれない。
「すみません。今から少し、急いで進みます」
「へ———」
瞬間、モコの足に青い光が纏われた。
あれはマナか……?
と、ガイタはそれの正体に気づく。
「もしかしたら追いつけないかもしれませんが、安心してください! サラネシアはここからひたすら真っ直ぐに行けば到着します! きっとわかりやすいですよ!」
「真っ直ぐ……まさか!? あの煙……!」
ガイタはモコがやけに焦っている理由を察した。
と、同時にモコはものすごいスピードで走り始めた。
「はやっ!」
思わずガイタがそういってしまうほどの速度だ。
ビュンっ! と、隣を新幹線が通り抜けたかのような感じである。
ガイタはひとまず、なんとかモコについていこうと走り始めた。
ガイタの速度も、わりと速かったがマナの力で足を強化したモコにはついていけない。
結構すぐに彼はモコの姿を見失ってしまった。
仕方なしでガイタはひたすら真っ直ぐに走ることにした。
ついに日が暮れてしまった。青かった空も、黒に近い色の綺麗な星空に変わっている。
けれど、ガイタは到底その空が綺麗とは思えない。綺麗というよりも不気味に感じてしまう。
月が逆光になり、カラスのような黒い姿に見える鳥がふらふらと不安定な飛行をしていて、それはなぜだか彼をぞわりとさせた。
次に、ガイタが前に見上げるとその星空は見えなくなる。煙に空が覆われているのだ。
「ここが……そうか。確かにわかりやすいな。これは……」
今度は首を下に向け、見下ろす。
そこには『ようこそ サラネシア』と書かれた門のようなものがあった。
ただそれは、あるだけで建っているわけじゃなかった。いや、建っていたんだろう。
今はそれは地面に寝転がってしまっている。
すぐそばにはそれの断片と思われるものが地面に突き刺さっているため、何ものかに破壊されたのだと考えるのが自然だ。
その奥に見える景色も、街ではあるが大きな災害でもあったかのように建物が倒れ壊れている。
その時、周囲に大きな爆発音が響く。
ガイタがそちらに顔を向けると、そこからも煙が昇り始めた。
「……何が起こってんのかは分からねえが、何かが起こってることは分かる。とりあえず進むか。ちょうどよい目印みたいなものもあるしな」
ガイタの視界の先には巨大な城のような建物があった。今も何度か鳴る爆発音もそちらからだ。
それを目指し、彼はサラネシアへと足を入れた。
石で作られたかのような灰色の道に赤い液体が固まり、こびりついている。
ガイタはそれを見てから、なるべく下は見ないように進むことにすると、ぐちゃり、と。何かを踏みつけてしまったため、おそるおそる下を見る。
そこには青い身体に赤い液を被った鳥の死骸があって、ガイタを驚かせた。
彼はその姿を見て、先ほどここへ入る前に見たフラフラと飛行する鳥と同じ種の鳥ということに気がついた。あの鳥と共に逃げられなかったのだろう。
ガイタはその鳥を可哀想に思ったが、今は埋葬している暇もない。先に進むことにした。
その次にガイタは、目を閉じて瓦礫にもたれかかる人間の姿を見た。
「———っ、人が倒れている……けど、今の俺じゃあ何にもできねえ……くそっ、まずは先へ進もう」
それから城まで、彼は一体どれだけ倒れた人を見ただろう。
地面に倒れる人の多さから、サラネシアが栄えている街であったことを実感できるほどの数だ。
けれど、ついにガイタは城の元に到着した。
爆発音もすぐそこ、城の裏から聞こえてくる。
ガイタは「ふう……」と、一息ついた。
その瞬間だ。
「ゃぁぁぁぁ……!!」
爆発音に混じって、そんな女性の、攻撃の時に発するような叫び声が聞こえた。
その声はガイタは聞き覚えがあった。どころか、彼の記憶にあるただ一つの声であった。
「なっ……! 今の、モコか!?」
そう、ガイタが言ったすぐ直後だ。
ズズッと。
城の上半分が少しズレたように見えて、そして——
その上半分は綺麗に三等分され、宙に浮かんで、ガイタの方へ落下した。
「え、うわっ……!!」
ガイタは寸前で、なんとかそれを回避した。
そして立ち上がり、城の方を見上げた。
「は……?」
思わずガイタはそんな声を漏らす。
だって、彼の視界の先にはあまりにも巨大なバケモノの姿があったから。
一瞬ガイタはその光景に唖然とし、思考が回らなくなる。
が、そのすぐ後になった爆発音でハッとした。
まず状況を整理しろ。
今目の前にいるバケモノは多分、モコの言っていたベーゼというヤツだ。で、この惨状の原因はおそらくこいつだ。
そして気がついた。
今こいつと戦闘をしているのはモコだ。
彼女は空中を走ってヤツの攻撃を避け、手からマナの球を出してヤツに攻撃している。
空中を走って避けているとはいえ、多分これまでの間に何度か攻撃を受けたのだろう。彼女は血を流していた。すでに彼女はボロボロだ。
「モコっ!!」
「なっ……、あなた———」
咄嗟に名を叫んだ俺に彼女は気がついた。
すぐに何か言葉を紡ごうとしたように見えたが、それは彼女を襲うベーゼに邪魔される。
ベーゼはその巨大で、黒くトゲトゲしている腕でなんだかノイズがかったような叫び声を発しながらモコを攻撃した。
「くっ! はあ……!」
モコは上空から急降下し、その腕を避ける。
が——
「モコぉッ!!」
「え、あ……!!」
ベーゼの足が振り上げられた。
上から落ちてくるモコを、まるでバレーボールを上に上げるようにベーゼは足を使って再度上空へと撃ち飛ばした。
「がぁ……!?」
「なっ、く、くそッ!! ぐぅう……!!」
モコはモロにそれを胴に受け、痰を吐きながら再度上空へ打ち上げられる。
ガイタはベーゼが巨大な足を勢いよく振り上げた、その衝撃で起こった風に吹き飛ばされないように足に力を入れて踏ん張る。
ようやく風が止んだ時、ガイタはなかなか大きな音を出して墜落したモコの方に、彼女を心配して走り始めた。
「モコ! 大丈夫か!?」
「……ぐ、ぅ」
ガイタがモコの墜落地点に訪れて彼女に聞くと、モコは痛みでまともに答えられず呻き声のみ発した。
ガイタはモコからベーゼへ視線を移した。
ベーゼは彼らを見下ろし、今にでも攻撃してきそうな恐ろしい気配を発している。
きっとこのままでいればベーゼの攻撃で二人揃ってやられてしまう。
そのように考え、ガイタは動けないモコを背負って逃げだす。
まるで知らない人が近づいた猫のようにガイタは全力でその場から逃げる。
ダメだ。あまりにも巨大なベーゼが小さな小さなガイタに追いつくのは容易であった。
しかしガイタには逃げる以外どうしようもない。
ベーゼへの対抗策であるマナは彼にはまだ使用できないのだ。
そんな状況で、彼が背負っていた少女が行動を起こした。
手からかすかに光を放つ。
それは自信を背負っているガイタに対してだ。
「なっ……!」
ドンっと、突き飛ばされ、ガイタの身体はよりベーゼから離れるように一気に飛んだ。そして飛んだ彼の手からはモコが離れていた。
すぐにガイタはそれを引き起こした彼女に、なぜそうしたのかを問う。
「モコッ! 何を——」
「逃げて!」
彼女はガイタの問いを遮って叫んだ。
その声は今まで一度も聞いたことのない強く、安定していない声であった。
「モコもだろ! 逃げるのは!」
「いいえ! 私が止めます! 二人揃って逃げることは無理です! これが最善なんです!!」
そんなことない! と、ガイタは叫ぼうとした。
だができなかった。
彼女の言うことは確かだ。ガイタにはこの状況をどうにかする方法が思い浮かばなかった。
ついにベーゼから攻撃が行われた。
彼女は止めると言ったが既に満身創痍の身体だ。ガイタが逃げるだけの時間止めることはもしかしたらできるかもしれないが、彼女自身がそれから逃れることはできないだろう。
そしてガイタにもそんな彼女を救うことはできない。
けれど——
「それでもモコを放って逃げることはできねェよッ!!」
「なっ……!?」
振り下ろされる拳にガイタは自ら向かっていく。
なんてバカなことをしているんだ。モコの覚悟を、優しさを無駄にする行為だ。
彼は動く自分の身体にそう叫ぶ。
けれど止まらない。ガイタの身体は。
ガイタの身体は思考のいうことなんて聞きやしない。
だってガイタの思考は自分に親切にしてくれたモコのことを見捨て、生き延びることしか考えていなかったから。
身体が覚えている。
そんな言葉があるらしい。
これは少し違うが、きっと、今はない記憶の中にガイタはここで身体を突き動かしてしまうような何かがあったのだろう。
そして彼の身体はそれを覚えていたのだ。
思考にはもう身体を止めることはできない。
だから思考はこの状況をどうにかできる何かを考え始めた。思考が記憶しているわずかな知識の中で。
するとやはりベーゼに対抗するにはマナを使うしかないと、そんな結論に至ったので使う方法を考える。
まずはモコに教えてもらった方法を試そうと、意識を体の中奥深くに送り、虹色の光と対面した。
しかしやっぱりそれに触れることはできない。弾かれてしまう。もうすでにそこをどうにかすることができないということは知っている。
だから別の方法でどうにかマナを引き出す必要があるのだ。
呑気に考えている暇なんてない。はやくマナを引き出してベーゼと戦わなければいけない。一体どこにあるんだ……あのマナってやつは。
ガイタは焦り、探す。その自身の体の中の空間で青い光を。今までのマナの記憶を一つずつ思い返しながら。
モコが見せてくれた、指先について纏う青い光。
木を凹ませた弾丸のようなそれも、光球となったそれも、彼女の足を纏うそれも、そして彼を逃すため、彼に放たれたそれも、全て鮮明に。
瞬間だ。
自身を突き飛ばしたマナを頭に描いた瞬間、ピカリと青い光が真っ暗だったガイタの体の奥深くを照らした。
——っ!?
すぐに光が強い方は彼は振り向く。
彼が見た方向、そして場所は虹色の光のある場所だった。
いや、正確にはあった場所だ。
変わっている……虹色の光が、青色の光に……
ガイタは自分の身体の奥深くでそのような現象が起こっていることに気がついた。
彼はすぐにその光の元へ、青く染まったその空間を泳ぎ、進む。
そして辿り着いたガイタはもしかしたら触れられるかもしれないと、それに手を伸ばした。
彼の手は弾かれず、光の奥まで進んでいく。
いける! 触れる! これならきっと引っ張り出すことだってできる!!
それを確認した瞬間、ガイタは両手で光を掴んだ。
マナを引っ張り出す方法はお芋を引き抜くようにだとモコに教えてもらった。
彼女がやって見せてくれたその動きを彼は再現する。
力いっぱいに、己の出せる精一杯でマナであろうそれを上に引き上げる。
体内の奥から、体外までドンドン光と共にガイタは昇っていって、そしてついに。青い光は明るい光を浴びた。
もうマナを使うことすらままならない満身創痍の状態。それが今のモコであった。
そのうえ助けようとしたガイタがこちらへ駆けてきてるときた。
ガイタの自分を思う気持ちは嬉しかったが、それ以上に誰も救えなかったという絶望感が彼女を襲った。
拳によって生み出される圧倒的な風圧。
彼女はそれに地面に押し付けられ、力が上手く入らないボロボロの彼女の身体は動けなくなってしまう。
ついに彼女はもうダメだと、そう思った。
次の瞬間だ。
ゾワッと、そしてビリビリと。つい最近感じたものと酷似している膨大なエネルギーを感じた。ただ、それは前のとは違って確かにマナであった。
それと同時に、バァァアンッ!! と、巨大な青い光が彼女の視界を覆い、ベーゼの腕を弾き返していた。
「えっ……!!」
彼女の視界は青い光に覆われていたが、それより手前に一つ、逆光に当てられた人型のシルエットが立っている。
自身を守るように。
いや、実際守ってくれているのだと気がついた。
でもどうやって?
あのベーゼは通常のベーゼの10倍ほどのサイズの個体だ。強さもそれに伴っている。
そのシルエットの主はまだマナが使えなかったはずだ。それに、マナが使えているとして、いや使えているようだが、あのベーゼの攻撃を弾き返すほどの威力を出すだなんて。
それで気がついた。
さっきも、今も感じた背筋が凍るような膨大なエネルギー。それは彼のものだったのだ。
そうであれば、あのエネルギーであれば確かにこのベーゼの攻撃に対抗できるだろう。
そこまで整理がついた時、ようやくモコは彼の名を呼んだ。
「ガ、ガイタ……」
「モコ、大丈夫か?」
シルエットの主、ガイタはモコの方へ振り向いて声をかける。
「う、うん……なんとか」
「ほんと、悪かったな。俺のせいで手間かけさせて。すぐにアイツを仕留めるよ」
ガイタが視線を前に戻したのでモコも同じように見ると、ベーゼが再度こちらへ襲いかかってきていた。
ガイタはモコの作った光球を思い浮かべる。
あれをもっと大きく、ベーゼを吹き飛ばせるくらいの大きさで作るんだ。
ガイタはそれを実現するため、大量のマナを引っ張り出す。
「嘘……こんな量のマナを……」
「くっ……上手く球体にならねぇな……が、う、おおおお!!」
とりあえず撃ってしまえッ!!
俺は無理やりその量のマナを前方、そして上の方へ撃ち出した。
グングンと、その形すら成していない、まるで水を流したかのようなマナは斜面を登るように進んでいき、そして——
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア」
ベーゼを吹き飛ばした。
叫び声同様ノイズがかったそいつの断末魔が辺りにこだました。
「な、なんて……威力……」
モコはガイタの放ったマナを目で追った。
するとそれはベーゼを吹き飛ばしたどころか、空を覆っていた煙をも吹き飛ばし、青い空をサラネシアに取り戻したのだった。




