表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/12

8話 可愛いタックル!

お風呂を出た後、部屋で休んでいると、宿の使用人が食事の用意ができたと伝えてきた。

部屋を出て、使用人の後を歩いて一階の食堂に向かうと、テーブルの上には豪華な料理が置かれている。

先に席に座っていたアレルと共に、美味しく食事をいただき、宿がおススメするヒール酒をコクリと飲む。

すると目の前が景色が歪み、平衡感覚が変。


日本の会社に勤めていた時、会社の行事でお酒を飲んだことはあるが、ここまで酔ったことはない。

体の感覚がおかしいと感じた私は、まだお酒を飲んでいるアレルを残して、先に部屋に戻った。

そのままベッドに倒れて眠ってしまったようで、目を覚ますと窓から陽が差していた。


武装を整え、肩から鞄を下げ、杖を持って部屋を出る。

一週間分の部屋賃を、アレルが支払ってくれているから、私がいない間に宿の使用人が掃除してくれるそうだ。


高級宿だけあって、お風呂もあるし、好待遇を受けてちょっと不安になる。


一階でアレルと合流した私は、二人で冒険者ギルドへと歩いていく。

私が大通りを歩いていくと、往来していた人達が立ち止まり、好奇心に満ちた視線を向けてくる。

子供達の態度は露骨で、時々、話し声も聞えてきた。


「あのお姉ちゃん、すっごく背が高いな!」

「胸も尻もデッカイな! 怪力なのかな?」

「おい、地面を見てみろよ! お姉ちゃんの足跡が凹んでる!」

「スッゲー! オークよりも体重が重いのかな?」


うぅ……子供の純真な言葉だけに、心にグサッと突き刺さる。

全部事実だけど……恥ずかしすぎて走って逃げたい。


俯いていると、隣を歩くアレルが私の太ももを叩いた。


「そう落ち込むな。皆、巨人族が珍しくて騒いでるだけだ」

「でも……」

「俺が聞いた、神話に登場する巨人は、山々よりも高く、雲の上に顔があったそうだ。それに比べたら、セツナなんて小柄なほうだろ」

「比べるサイズが違うというか……」

「巨人族って体が大きいだけじゃなくて、心も雄大だと思うだ。だからウジウジと悩むな」


そう諭しながら、アレルはにっこりと微笑む。

彼の方が巨人族が似合いそう。


アレルの励ましに元気づけられ、二人で話している間に冒険者ギルドの建物の前に到着した。

重厚な扉の前にレフィルさん、エレイン、その他に小人族の男子が立っている。


それを見たアレルは首を傾げ、レフィルさんに声をかけた。


「待っててくれたのか。それにしても妙な組み合わせだな」

「エレインが離れてくれないだ」

「ギルマスでも、お姉様を独占するのは許せませんわ」

「こう言って聞かないんだよ。タックル、イタズラは禁止だからね」

レフィルさんは穏やかに微笑み、私に近づく男の子に声をかける。


私の真下まできたタックルは、私のブーツをペタペタと叩く。


「丸太みたいな脚だな」

「!?」

「トリャー!」


タックルは構えて、私のふくらはぎに、何発も蹴ってきた。

衝撃はあるけど、痛くない。

もしかして、加減してくれてるのかな?


しばらく呆然と見ていると、荒い息をしてタックルが地面いペタンと座り込んだ。


「全力で蹴ってるのに、少しは痛がれよ」

「痛い、痛い」

「蹴ってもないのに言うな!」


片手を地面に付け、拳を振り上げるタックルを見て、思わず笑いがこみあげてくる。

怒っている姿がとっても可愛い。


私は膝を折って、姿勢を下げて、腕を伸ばしてタックルの頭を撫でた。

するとキッと睨まれる。


「小人族だと思ってバカにしてんのか!」

「ごめんね!」

「謝ってるなら、笑うな!」

「だって……」


両手でタックルの体を抱き、私はスーと立ち上がる。

両拳で叩いてくるけど、全く痛くない。


「下せ! 下せ! 胸! 胸が当たってるって!


動くぬいぐるみみたいで、とても可愛い。

ギュッと抱きしめていると、私の胸の間で藻掻いていたタックルの動きが止まる。

私達の様子に驚きのあまり、時を止めていたアレルが大慌てで声をあげた。


「タックルを胸から離せ! このままだと窒息するぞ!」

「あわわわ」


私は急いでタックルの体を地面に置く。

ピクピクと体を痙攣させ、タックルがうなされている。


「大きな胸が……柔らかい肉が襲ってくる……」


その声を聞いて、エレインが不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「お姉様の胸に埋もれるなんて、私なら昇天しても本望ですわ」

「縁起でもないこと言わないでください!」


咄嗟に声があげたけど、タックルが痙攣しているのは私の責任だ。

どうにかして彼の意識を取り戻さないと……


えっと……以前に地下鉄の駅で倒れている人に、周囲の人達がAEDを使って蘇生させたのを見たことがある。


『魔力は十分にありますから、色々な魔法が使えるようにしておきましょう』とイケメン神様も言っていたからイメージすれば魔法を使えるはずよね


イメージは電気ショック……できるだけ出力を抑えて。


私はタックルの胸に手を当てて、『エレキ!」と詠唱する。

すると私の中から力が抜け出し、手の平から電気となってタックルの体へと流れだした。


「ギギッギギギギッ……ガガガガガ……痛い! 痛いって!」


髪の毛を逆立てて、タックルは上半身を起こして、私を真っ直ぐ指差す。

元気そうな姿を見て、私は涙を溜め、彼に抱き着いた。


加減を間違えたのかと焦ったけど、意識を取り戻してくれて良かった。


「やめろー! 今度は本当に体が壊れるからー!」


タックルの悲鳴を聞いて、レフィルさんとアレルが笑い転げる。

エレインは冷たい視線を向け、「負けませんわよ」と闘志を燃やしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ