6話 エレイン・バフェット
ギルマスの部屋で、登録手続きを済ませた私は、F級冒険者となった。
一階へ戻ると、また騒動になりそうなので、レフィルさんに案内してもらい、ギルド職員専用の裏口から建物の外へ出た。
手を振って見送りしてくれたレフィルさんに会釈し、アレルと二人で裏通りを歩いていく。
「ギルマス、セツナの保護の為に、奮発してくれたな」
「迷惑かけたみたいで、申し訳ないです」
「どうせギルド支部の金だし、遠慮することはないさ。この資金を使って、今日は間取りの広い宿にに泊まることにするかな」
「え? アレルと一緒に?」
「安宿だと、セツナも窮屈だろ。もちろん部屋は別々だ」
一瞬、アレルと一緒のベッドで寝るのかと勘違いして、私は目を白黒させた。
そんな私の内心に気づかず、アレルは金貨の入った革袋を見てニコニコしている。
ランプの明かりに照らされ、路地を歩いていると、急に背中に寒気が走って、咄嗟に体を横にずらす。
すると後から突進してきた人影が、バランスを失い、私達を過ぎて、バタンと地面に転ぶ。
「ふふふっ、さすがはお姉様ですわ。私の気配を既に覚えてくれたのですね」
鼻を抑えて顔を上げた人物は、ギルドで私の胸を触った美少女だった。
さっきの騒動を思い出し、パニックになりかけると、アレルが私の腰に抱き着く。
「セツナ、大丈夫だ。あれは上級冒険者だ」
「でも……私の体を」
「女なのに女が好きな癖はあるが、悪い奴ではないよ」
「黙れていれば、言いたい放題ですわね」
「エレイン、お前が悪いんだぞ。セツナを動揺させたらギルドの二の舞になるのはわかるだろ」
「アレル、私の邪魔をするのですね。恋とは壁が高ければ高いほど萌えますのよ!」
エレインと呼ばれた少女は、ニマニマと笑顔をゆらりと立ち上がる。
その不気味さに、私は思わず条件反射で杖をぶん投げた。
その攻撃が腹に突き刺さり、少女はまた壁に減り込んだ。
「ぐふッ……愛で壊れそうですわ」
「ヒィ!」
叫び声を上げて、私は瞬間移動のようにアレルの後へ避難した。
ジッと少女を見たまま、アレルが大きく息を吐く。
「セツナをからかうのは止めろ。ギルドから尾行してきたんだろ。俺達に何の用だ」
「お姉様は巨人族なのでしょう。そうであれば是非、お友達になりたいじゃないですか」
「お前の女に対する友好の証はおかしいだよ」
「コミュニケーションの方法は人それぞれ、アレルの説教など受け付けませんわ」
「セツナに嫌われてもいいなら、俺は何も言わないがな」
アレルの言葉に愕然として、エレインは壁から出てきて、路面にペンタンと正座する。
「私はエレイン・バフェットと申します。この度の非礼をお詫びいたしますわ。どうか私とお友達になってください」
「……体を触ってこないって約束できますか? それと勝手に恋愛対象にされるのも困ります」
「お姉様が心身共に私を受け入れてくださるまで、強引なことは致しません。誓いますわ」
「体を許すことなんてありませんから、諦めてください」
「善処しますわ」
「もう……それでいいです」
アレルとの会話で、エレインは変な人だけど、悪意がないのはわかる。
まだ警戒は緩めないけど、一応、彼女のことを許すことにした。
アレルは腰に片手を当て、エレインに声をかける。
「謝りに来ただけじゃないんだろ」
「ええ、お姉様が泊まる宿を探されるなら、私の定宿をおススメしようと思いまして。これでも私はB級冒険者、高級宿に泊まっております。C級冒険者のアレルなど頼らずとも、お姉様のことは私がお世話いたしますわ」
自信満々に胸を張られても困る。
宿選びに冒険者ランクは関係ないと思うし、エレインのことをまだ信用できないし、身の危険を感じる。
「申し出はありがたいですけど、宿はアレルに案内してもらいます」
「なぜ!?」
「変質者よりも、俺の方が安全に決まってるだろ。エレイン、さっさと消えろ」
「今日は負けましたが、次は必ず勝ちますわ」
キッとアレルを睨み、エレインは角を曲がって暗闇へと消えていった。
いつの間にか、二人の勝負になっているし、賞品が私ってこと?
チラリとアレルの顔を見て、ちょっと緊張する。
「あいつも普段は悪い奴ではないんだ。パーティメンバーには優しいからな」
宿に向かう道すがら、アレルはエレインのことを話してくれた。
彼女は見目麗しく、武芸に秀でた美少女冒険者を勧誘し、女子だけでパーティを組んでいるそうだ。
美少女を飢えた男性から守るためと豪語し、高級宿を借り切って女子達と暮らしているらしい。
そして彼女たちが組むパーティの名は『ユリーズ』。
つまり……そういうこと……もしエレインと一緒に行けば私も……
首を大きく振り、私は深く考えるのを拒否する。
異世界でも、詮索したり、知ってはいけない世界もあるのね。




