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5話 ギルマス!

困惑している私に、アレルが声をかける。


「あの金髪エルフはギルマスだ。受付でセツナのことを説明すれば、どうせギルマスから声がかかっていた。騒ぎの直後で丁度いい。上に行こう」

「ギルドマスターはエルフなんですね」

「エルトラン王国は亜人種にも寛容な国家だ。それに冒険者ギルドは実力主義で、種族で区別や差別はされない。ギルマスの見た目は俺と同年代ぐらいだが、二百歳は越えているらしいぞ。元A級冒険者だし、このギルドでギルマスに歯向かう者はいないんだ」

「すごく強い人なんですね」

「そういうことだ」


アレルはニコリと笑い、階段を上っていく。

私は階段の手前で後を振り向き、「お騒がせしました」と深々と頭を下げる。

そして彼の後を追いかけた。


三階の廊下に出ると天井が低く、私の身長だと頭スレスレだった。

アレルはノックをして扉を開けて、室内へと入っていく。

上半身を少し曲げ、私も彼に続く。


「階段で見た時よりも大きいね。ソファに座ってリラックスしてほしい。ここには私達三人しかいないからね」


ソファに座ったまま、ギルマスはにこやかに微笑み、手をかざす。

耳が長くて尖ってる……やっぱりエルフなんだ。


「君はエルフを見るのが初めてなのかい? 何処の国から、ここに来たのか、詳しく話してくれないかな。個人的な情報については、ギルド職員にも公言しないことを約束する。どうかな?」

「えっと……家の裏庭から近くの山に行って、森の中を歩いていたら、いつの間にか、この近くに辿り着いていたというか……」

「セツナの代わりに俺が説明しよう。どうやら彼女は故郷の山中で転移トラップを踏んでしまったらしい。気づいたら『ケミルの森』いたそうだ」

「ふむ……神代の頃の古い罠が、未だに作動していたということかな。それなら幻の巨人族の女の子が目の前にいることも辻褄が合うが……」


少し考えていたギルマスが、私の方へ顔を向ける。


「セツナ君は故郷を離れて他国に旅に出たことはあるかな?」

「いえ……」


そういえば転生前、日本国内を旅行したことはあるけど、海外旅行はしたことなかった。

一度ぐらい行ってみればよかったかも。


「ということは、他種族と会ったのは今回が初めてなんだな。セツナ君、魔獣と戦闘したことはあるかい?」

「えっと……今日、ヘルハウンド、ゴブリンと戦いました」

「凄かったんだぜ。ゴブリンなんて攻撃が当たっていないのに、遠くまで吹っ飛ぶんだ、周りの樹々もバキバキに折れてしまってさ」

「広間で使ったあの威圧、恐怖で体内のパワーを一気に解放しそうになったんだろうね。セツナ君の体内には巨人族の膨大なエネルギーが流れているのは確かだ。精神のバランスが崩れて暴発すれば、ただでは済まないかもしれないな」

「そうかもしれません」


ギルマスの解答に、私も納得して大きく頷く


ゴブリンの時も、さっきの痴女に触られた時も、パニックになって力を抑えられなかった。

アレルが懸命に声をかけてくれなかったら、どちらも大惨事になっていたかも。


私の体の中には、イケメン神様がカスタマイズした、途方もない力が備わっている。

それが巨人族のエネルギーなのかはわからないけど、制御不能になれば危険だ。


私のような規格外に体が大きな女子は街に住んではいけないのだろうか。

不安が過り俯いていると、私の腕にアレルが手を添える。


「平時でも冷静に集中力を保てればいいだけだろ。武芸の訓練をしてみろ。腕が向上する頃には感情を安定させることもできるさ。それまで俺も一緒に付き合ってやるよ」

「なるほど、では私も協力するとしよう」

「どうして初めて会った私のために?」

「一人で飯を食うより、美少女と一緒に食べたほうが、料理も酒も美味いだろ。俺が手伝う理由なんて、そんなものでいいのさ」


とてもアレルらしい、真っ直ぐな答え。

少し照れる。


先ほどまでの憂鬱な気持ちが消えて、二人で微笑んでいると、ギルマスが人差し指を立てる。


「僕はもっと打算的だ。巨人族の唯一の手がかりであるセツナ君を、レブラント伯爵やエルトラン王国に渡すことはできない。他の各国にもだ。セツナ君の身柄は冒険者ギルドが保護する。というわけで僕の名はレフィルだ。トリルの街にようこそ、君を歓迎しよう」


レフィルさんは私のことを幻の巨人族と勘違いしているようだけど、このままでいいのかな?

でも別の世界から、神様に手によって転生したと言っても信じてもらえない。

もっと信頼してもらってから話した方がいいかもね。


転生初日、色々なことがあったけど、街で休めそうでよかった。

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