3話 ゴブリンなんて大嫌い!
警戒を解くことなく、冒険者風の男は剣を構えている。
こんな森で、女子が一人でいるなんて不気味よね。
イケメン神様が雑に能力をくれたおかげで、言葉は通じているし、なんとか誤解を解いて、近くにある村や街の情報を尋ねてみないと……
杖から手を放し、両手を上げて微笑んでみる。
「私の名はセツナと言います。住んでいた場所から、急にこの森に飛ばされてしまったんです。それで元いた街に帰れなくて彷徨っていたら、おチビな犬に囲まれちゃって……」
「ヘルハウンドは小さくない、獰猛な魔獣だ」
「でも……」
あれ? ちょっと違和感がする。
「あなたって人族ですか? 小人族ですか?」
「俺は人族だ。お前は幻の巨人族か?」
「えー、私は巨人じゃないですよ……ハハハハ。ヤダなー、からかわないでください」
「剣を向けている相手に、冗談を言うことはない」
男性の真剣な表情に、嘘や偽りはないようだ。
つまり……私の体って大きい。
ふと、イケメン神との会話を遡ってみる。
『人族の体のスペックでは、数値が上限になっているので、種族を変えておきますね』
あの時は、魔法に優れたエルフに種族を変えたのかと思っていたけど……まさか巨人族になっていたとは……
ということは……背が低く見える男性は、つまりは普通の身長なのね。
その事実に、体の力が抜け、私は愕然として、地面に座り込んだ。
「酷いよ……せっかく美少女になれたと思っていたのに……」
私が泣き崩れていると、男性は剣を鞘に納めて近づいてきた。
「敵ではなさそうだし、何か事情がありそうだな。森の中で話していても、夜になれば魔獣に襲われるだけだ。俺達の住む街まで案内してやるから、そう泣くな」
「あっ……あじがどう……」
男性に促され、私は杖を拾い、立ち上がる。
そして男に先導されて、私達二人は森の中を歩いていく。
「もうすぐ森の外に出られるぞ」
「はい……」
まだショックが抜けきれていない私に、男性は自己紹介をしてくれた。
向かっている街はトリル。彼はそこの冒険者で、名前はアレル、年齢は十八歳だという。
二十歳を越えていると思っていたことは内緒にしておこう。
機嫌を直して、アレルの後を歩いていると、周囲から「ギギィ! ギャァ!」と声が聞えてきた。
それに反応して、アレルは剣を抜いて、周りを警戒する。
「クソッ……ゴブリンに見つかったようだ。既に囲まれている。セツナも杖で応戦してくれ」
「ゴブリンって……あまり強くないんですよね」
「ああ、一体なら弱い。だが奴等は集団で襲ってくる。特に女性を狙ってくるから気をつけろ」
彼の言葉に私はゴクリと生唾を飲む。
ゴブリンといえば、異世界ファンタジーでは定番の魔獣だ。
女性を捉えては、巣穴に持ち帰って、大勢で繁殖行為をすることでも有名である。
日本にいた時も恋愛もしてないのに。
初体験が魔獣なんて絶対にイヤだ。
私は肩掛け鞄を地面に落し、杖を両手で握りしめる。
貞操は絶対に守る。
大きく息を吐き、周囲を睨んでいると、アレルが大きく頷く。
「魔獣と戦う時は戦意を失うと一気にやられる。どんなに苦境でも、立ち向かう気力を漲らせるんだ」
「わかりました。気力全開ですね」
二人で臨戦態勢を整えていると、樹々の上からバサバサとゴブリン達が飛び降りてきた。
周りをグルリと囲まれている。
緑色の汚い肌。
黄色く濁った瞳。
貧相な手足にでっぷりしたお腹。
石の斧を持つ手の指の爪は真っ黒だ。
下半身にはボロボロの布が巻かれているが、動くたびに不潔なモノが垣間見える。
その姿を見た瞬間、私の中でプチンと何かが切れた。
「イヤーー!」
パニックを起こした私は、悲鳴のような大声をあげ、杖を横薙ぎに振り回す。
すると、何も当たっていないのに、ゴブリン達は吹き飛び、樹々はバキバキと折れていった。
「ヤダヤダ! まだ処女なのに、ヤダー!」
「セツナ、落ち着け! このままだと俺も死ぬ! 頼むから力を抑えてくれ!」
地面に伏せたアレルが慌てて這い、私の足首を掴んだ。
それにビックリした私はパワーを全開にする。
「キャーー!」
私の体が眩しく輝き、残っていたゴブリン達は、危機を察したのか逃げていく。
アレルは私の腰に手を回し、大声を張り上げた。
「ゴブリンはもういない! 危険はなくなった!」
「……いない……」
彼の声が聞え、私は虚ろな目を向け、腰が抜けたように座り込む。
そして周囲の惨状を呆然と見回した。
すると私の体から離れたアレルが、大きく息を吐く。
「さすが神話にも登場する巨人族の力はすごいな。でも、戦闘に慣れるまでは、力を制御してくれよ」
「はい……すみません」
パニックになっていたので、自分が何をしたのか、朧気にしか覚えていない。
しかし、ゴブリンに襲われた恐怖だけは残っている。
絶対に、許せないんだから。




