12話 荒療治!
アレル、タックルの二人とパーティを組んで一週間が過ぎた。
訓練も積んだし、これで順調に冒険者生活を送ることができると思っていただけど、結果は微妙。
その原因は、やっぱり私だった。
私の冒険者ランクはF級――つまり街の清掃や改修、森での薬草採取、低級魔獣の討伐と依頼内容の制限がある。
E級の昇格すれば、D級までの魔獣討伐依頼を受けられるのだけど、F級は新人、見習い扱いなので、一つ上のクラスの依頼は受けられない。
アレルとタックルと話し合った結果、私のレベルに合わせた依頼を受けようということになった。
『ステラ』結成して、最初の依頼は、街の外壁の修繕。
結果は――作業員に新しいレンガの受け渡しの際、うっかりレンガを壊すこと多発。
そこで壁の穴にレンガを積んでいく作業と交代したのだが……うっかり壁を破壊してしまった。
次の依頼は路地にある側溝の掃除。
大きなスコップで、溝の泥を取り除くだけの簡単な作業のはずが、溝の底の土まで掘ってしまい、これもまた失敗。
街での仕事は無理と判断し、三人でケムルの森に薬草採取に行ってみた。
薬草を見つけて、優しく根を抜こうとするんだけど、ブチブチと幹が切れてしまう。
その上、草原にゴブリンが現れ、私はパニックで暴走してしまった。
というわけで、あまり芳しい成果は出せていない。
今日もケムルの森に向かっている最中なのだが、私の気は重い。
俯いて歩いていると、アレルが話しかけてきた。
「体内の魔力操作が上手くなれば、体の使い方も良くなるさ」
「そうでしょうか?」
「魔力を扱うには繊細な集中力が必要になる。それに武芸の訓練を続けていれば、体の動きも制御できるようになるだろ」
するとタックルがポツリと言葉を漏らす。
「早く力加減を上達してもらわないと、俺の為にもさ」
「ごめんなさい」
タックルと一緒に行動するようになったのが嬉しくて、つい抱きしめちゃうんだよね。
その度に力が強すぎて、早くなんとかしないと、タックルが壊れちゃう。
アレルの聞いたのだが、この異世界では十五歳を過ぎると成人とされているらしい。
タックルの年齢は十六。
小人族は童顔なので、どうしても子供にしかみえない。
本人は不満なようだけど、とても可愛い。
するとアレルが私を見て、溜息を吐いた。
「でも、アレだけは直さないとな」
「そうだね。アレが現れるだけで暴走されたら、安定した魔獣討伐もできないよな」
タックルも難しい表情をして、アレルに同意する。
二人が話しているアレ……それは私のゴブリンアレルギー。
転生した日にゴブリンと遭遇したのだけど、その時の印象がトラウマになっているみたいで。
ゴブリンの姿を見ると、瞬時に体が反応して止まらなくなる。
だって……ゴブリンは、巣穴に女子を持ち帰り集団で……
それだけは絶対にイヤ。
そういうのは、キチンと恋愛をした後に……
するとタックルが私とチラリと見て、イタズラっ子のような笑みを浮かべる。
「こうなったら荒療治をした方が良くないかな?」
「毎回、ゴブリンを見る度にパニックになられても困るからな。どの森にも必ずゴブリンはいるし、耐性をつけてもらう必要もあるか……試してみるか」
二人が何やら物騒なことを言い始めた。
引きつった表情で話を聞いていると、アレルは陽気な笑みを浮かべ「何も聞かずについて来て」という。
すっごく嫌な予感しかしないんですけど。
森の中を進んでいくと、空地が現れた。
空地の中央には蟻塚のように巨大な土も盛られ、塚の中に穴が開いている。
その穴を見つめ、アレルは大きく頷く。
「運がいい。ほとんど森に出払っているようだな」
「あの穴は何なの?」
「ゴブリンの巣穴さ。ケムルの森には、こういう巣が幾つもあるんだ」
「ヒィ!」
「怖がらなくても大丈夫。今は周囲にゴブリンの姿はないだろ」
「でも……ここにいたらゴブリンが帰ってくるでしょ」
「もちろんそうなる。でも先に巣穴を壊しておけば、連中も諦めて逃げだすだろ」
アレルはほがらかに言うが、私としては気が気ではない。
一刻も早く逃げ出したい。
怯える私の太ももに、タックルがそっと手を添わせる。
「俺もいるし、アレルもいる。ゴブリン程度が何体襲ってこようが、俺達がセツナを守ってやるから。
ゴブリンに慣れないと、冒険者を続けていけないだろ」
「……はい」
しぶしぶ頷く私へ、アレルは指示を出す。
「森から来るゴブリンは、俺達二人に任せろ。セツナは大盾を使って、あの巣穴をぶち壊せ」
「うぅ……」
レフィルさんに重戦士が適任と認められた私は、ギルドの経費で人族用の大盾をもらっていた。
ギルマスだから経費を自由に使えると、レフィルさんは言ってたけど、あまり迷惑はかけられない。
しっかりと稼いで、お礼をしたい。
「頑張らないと! 頑張らないと!」
私は意を決して、巨大な塚へと歩いていくのだった。




