10話 魔力暴走!
きく深呼吸するエレインの体の中央に拳大の光が見える。
「体内の魔力を操作して、光のように見えるようにしましたわ。お姉様なら光が見えるはず。身体強化は、体内の魔力を循環させ、体の筋肉を強く変えるのです。では参りますわよ」
「お願いします」
私の体を触ろうとしていたのが嘘みたい。
B級冒険者が本当の素顔なのだろう。
エレインが真面目に協力してくれてるんだから、しっかり観察しなくちゃ。
エレインは目を見開き、頬を赤らめて集中力を上げていく。
するとお腹にあった光が尾をひきながら、体の中を動き出した。
動きが徐々に早くなり、両腕、両脚にまで光が移動していく。
「見えますか?」
「見えます」
「今は体内に循環させるイメージで魔力を動かしています。でもこの方法は少し時間がかかり、慣れた冒険者は行いませんわ。では上級者の魔力の展開を見せますわね」
「はい、しっかり観察します」
私が凝視していると、エレインの口が小さく動く。
「お姉様が私だけを見つめてる……あぁ、愛を感じますわ」と呟いているのだが、声が小さすぎて、私にはハッキリと聞えなかった。
一度、体の中の魔力の光を消し、エレインは体をブルブルと震わせる。
そして荒い息を繰り返して、再び体の中央に光が浮かび上がらせた。
その光は一瞬の内に毛細血管のように全身へと広がり、エレインの体から透明の靄が噴き出し、ユラユラと揺れる透明の膜になって、彼女の体を包み込んだ。
これって、アレルとタックルと同じだ。
透明の膜は魔力が外に溢れた状態だったのね。
何もしていないのに、私は魔力がわかるのかな。
魔法を解き、エレインは潤んだ瞳を向けてきた。
「いかがでしょう。参考になりまして」
「イメージは掴めました」
「では最後に、身体強化ではなく、属性魔法を披露しましょう。しっかりと見ていて下さいね」
「わかりました、見逃しません」
「あぁ……お姉様が私の体の動きを、全て見つめてる……」
身体強化を解除して、エレインは身悶えすると、プルプルと腕を震わせ杖を頭上に向けた。
「もう我慢の限界ですわ! エクスタシー!」
杖の先から一筋の光が放流され、訓練場の天井近くで、大きくハートを描く。
そして、ガクガクと体制を崩して、エレインは床に座り込んだ。
彼女の邪魔にならないように黙っていたアレルが渋い表情で額に手を当てる。
「あいつ、何をやってんだか」
「あの魔法なんだろ?」
「二人共、深く考えないように。エレインなりに頑張ったということにしましょう」
アレルとタックルを穏やかに諭し、レフィルさんは私の方へ歩いてきた。
「エレイン君の体内の光の動きは見えたかな?」
「ハッキリと見えました」
「微細な魔力操作ができなければ上手くいかない。さすがは実力者だね」
「高等技術なのはわかります」
私が頷くと、レフィルさんは微笑んで、床に座って胡坐を組む。
「セツナさんも一緒に」
「はい」
「目を閉じて、深く呼吸を繰り返して体をリラックスさせ、意識をお腹に集中します。暖かい力を感じたなら、それが魔力です。その魔力を意識して。ゆっくりと優しく、少しずつ動かすようにしてみてください」
「わかりました」
対面に座り、私はまぶたを伏せて、レフィルさんの指示通りにお腹に意識を集中する。
少し間があって、腹部に暖かい塊が振動しているのがわかる。
これかなと思った私は、暖かい球に意識の手を添えた。
ドクドクと動いているのがわかる。
心の声で「力を解放しよ」と呼びかけると、球が光輝き、一気に体全身に爆発的に広がっていく。
その勢いに体が反応し、立ち上がった私は目を見開いて叫び声をあげていた。
「ウゥォオオオオー!」
体から透明の靄が噴き出してくる。
そしてユラユラと揺らめく、大きな膜が私の全身を包み込んだ」
力が漲ってくる……止まらない……すごく気持ちがいい、もっと解放したい……
レフィルさんは私を見上げ、力なく微笑む。
「巨人族の力がこれほどだったとは……魔法に精通しているエルフの私でも見抜けないなんて」
「お姉様……すごい」
「ギルマス、エレイン、驚いている場合か、早くセツナの暴走を止めるぞ」
「俺も協力するぞ」
アレルとタックルは、真剣な表情で駆けてきて、私の腰にしがみつく。
遅れて、エレインも走ってきて私の太ももを抱きしめた。
「セツナ、落ち着け。魔力をコントロールするんだ」
「ダメ……無理……力が溢れてくるの」
「地下で魔力暴走なんて起こしたら、ギルドの建物が危ないですわ」
アレルとエレインが必死に話しかけてくるが、魔力の放出が止まらない。
するとタックルが私の体を這い上がり、私の顔を小さな両手で掴んだ。
間近で私の目を見つめ、タックルがニッコリと笑う。
「俺もアレルもエレインも一緒にいるぞ。セツナは一人じゃない。皆も一緒にいるぞ」
「タックル……」
タックルの笑顔を見て、私の心が少し緩んだ。
すると暴走するかと思った力が、穏やかになっていく。
私達の様子を見ていたレフィルさんは、地面に両手を着いたまま乾いた微笑みを浮かべる。
「今回ばかりはタックルに助けられたな……」




