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1話 イケメン神様!

毎日、毎日、残業、また残業。

半年前までは終電間際だった退社時刻が、最近では午前零時でも終わらない日が増えた。

会社の個室で仮眠を取り、次の日もまた仕事。

そんな毎日を繰り返しているうちに、ある日、私は過労で死んだ。


葬式はどうなったのかとか、両親は悲しんでいるだろうか――色々な心配事をしているうちに、いつの間にか、真っ白な雲に囲まれた空間に私は浮かんでいた。


そして目の前には真っ白なスーツを着た金髪のイケメンが、なぜか涙腺を決壊させて泣いている。


「安藤星月夜さん、あなたの人生を、生まれた時から観察していました。短い一生でしたが、よく頑張りましたね」

「ストーカー?」

「いえいえ犯罪者ではありません。私はいうなれば、地球の管理官、神のような存在と思ってください」

「はぁ……」

「死んで間もないことですし、状況を理解できないのも無理はない。魂となったあなたを呼び出した経緯をご説明しますね」


高価そうなハンカチで涙を拭ったイケメン神が、私を安心させるように微笑みかけてくる。

それからイケメン神は両手を広げ、朗々と話し始めた。


内容を簡単にまとめてみると――真面目に愚直に頑張ってきたが、いつも不遇に巻き込まれ、人生の中で楽しい経験が少なすぎた私を、あまりにも不憫に感じて、異世界に転生させてくれるという。


「学生時代は勉強漬けで、社会人になってからは自宅と会社の往復だけ。一度も恋愛経験もなく、異性とデートもしたこともない、ずっと幸運にも恵まれず、灰色の世界で終わるなんて……悲惨すぎます」

「少しぐらい楽しいことはありましたよ。人の人生を勝手にディスらないでください」

「そういうつもりで言ったのではありません。異世界では不自由なく暮らせるように、私も協力しましょう。星月夜さんの能力を私が大幅にカスタマイズしますので安心してください」

「はぁ……よろしくお願いします」


仕事ばかりしていた私だが、休憩の時にラノベ小説や漫画くらいは読んだことがある。

異世界転生といえば、貴族令嬢に生まれかわり、聖女のような魔法を使ったりできるのよね。

そして、王家の王太子や殿下と恋をして……お金にも不自由することなく幸せに……


イケメン神は透明なパネルを出現させ、指でパチパチと何かを入力し始めた。


「異世界は剣と魔法の世界ですから、危険な場所に行ったり、油断すれば簡単に死にます。なので私の権限で、力を最大限まで向上させておきますね」


聖女に選ばれるのだとすれば、瘴気を浄化するため騎士団に同行するシナリオもある。

そこで騎士団長と恋に落ちるという展開も……


「せっかくですので容姿や体の構造のパラメータも弄っておきましょう。元々、眼鏡を外せば星月夜さんは美人でしたから、体の凹凸を変更してスタイルを抜群に、手足も長く綺麗に……年齢は十代ぐらいで、美肌にして……微調整が面倒だから、全ての数値を大きくしておけばいいかな……」


顔を褒められたのは嬉しいが、胸の小ささを指摘されたみたいで微妙な気分。

西洋風の金髪美女にも憧れはあるけど……日本風の綺麗で可愛い容姿もいいわよね。


パネルから視線を外し、イケメン神が私を見る。


「多少の病や怪我はしないように。体のパラメータを振り切っておきました」

「ありがとうございます……あの異世界って、魔法は使えるんですか?」


聖女といえば癒しの魔法、神聖魔法は欠かせない。


私の問いにイケメン神が悩ましい表情を浮かべる。


「魔力は十分にありますから、色々な魔法が使えるようにしておきましょう。うーん、人族の体のスペックでは、数値が上限になっているので、種族を変えておきますね」

「是非、お願いします」


魔法を使える種族といえば、エルフが代表的よね。

聖女路線から少し外れるけど、エルフの聖女と人族の王子との恋もいいかも。


パネルの数値を確認し終えたのか、イケメン神はうんうんと頷く。


「異世界仕様に、全ての準備は整いました。では、異世界に転生させますね」

「待ってください! まだ転生先について、色々と聞きたいことが!」

「上手く聞き取れませんけど……転生した後のことなら大丈夫ですよ。カスタマイズは完璧ですから、何とかなるはずです。では異世界ライフを満喫してくださいね」


私の呼び止める声も虚しく、真っ白な空間もイケメン神も徐々に消え、私の意識は暗闇へと吸い込まれていった。


◆◇◆◇◆


意識が覚醒し、周囲を見回すと鬱蒼な森。

視線を下げて、自分を見ると、手には杖を持ち、肩から大きな鞄を下げ、胸に皮鎧、腰に剣が……

これって、異世界令嬢の物語の装備じゃないわよね……

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