第五章 深淵を覗くと
タイトルが思いつかなくなってしまった……
ハヤテが自身の変化に戸惑っている頃、坂口は疑念を抱いていた。あれは僕の知る綾崎ハヤテなのだろうか。心霊現象を笑って話していたり、家の不気味な場所を微笑みながら紹介する。僕の知っている綾崎ハヤテという人物は少し臆病で、怖いものが苦手で、おっとりしてはいるがしっかり者という印象だった。あの家に住んでから作品の更新が倍くらいになっている。この前家にお邪魔させてもらった時も、どこかやつれているような、生気がなくなっているような、そんな顔をしながら迎えてくれた。おかしいと心では思うが、人間色々あるのだからそんなに気にすることでもないと頭が拒んだ。一抹の不安、焦燥を抱え、元の生活に戻る。
「何もないと良いんだがな、あいつは鈍感だから。」
長い年月、自身の気持ちに気づいてもらえず、もどかしく思ってしまっていた。もういっその事、はっきり言ってやれば理解できるだろうかと舵を切りそうになるが、長年待ち続けてきたんだ、こうなったらいつまでも本人が気付くまでこの距離感で付き合おうと意思を固めた。それにしても火を焚べたのは僕だが、まさか本当に事故物件に住んでしまうとは。相手の初めて見る度胸の部分にほんの少し、驚きと楽しみが込み上げた。またすぐに話の種が芽生えて連絡が来るだろうと気長に待ちつつ、自身の仕事を進めた。ゆるりとした歩みで自身の仕事を終わらせて、趣味の読書に没頭する。最近はミステリー作品に目が向いており、黙々と読み進める。先程まで暖かみを帯びていたコーヒーを啜る。こんな時間も悪くはないなと思いつつも、少し寂しさを感じる時間だった。探偵物の小説を読み終わり、リビングに向かった。寂しさを紛らわすように、テレビで映画を見始める。特に珍しくもないストーリーを目で追って、耳で音を拾う。時計の音がボーンボーンと部屋に鳴り響く。どうやらもう遅い時間のようだ。明日の予定を確認し、慌てて寝室に向かいベットに潜る。いつも通り、すんなり睡魔に誘われた。
朝はゆっくりと目覚めた。目覚めは良い方で、起きてすぐに朝の支度に取り掛かる。キッチンで朝ごはんを作り、テーブルに並べ、無音の状態で食べ進める。一人の時間が長い僕は、特に孤食の孤独さを感じることはあまり無かったのだが、綾崎と共に喫茶店でちょっとした茶会をする様になってから、少しずつ寂しく感じてしまっていた。動物でも飼ってみようかなと思案している内に、朝ご飯を食べ終え、片付けに掛かった。1人前の食器など2枚か3枚程しかなくすぐに終わり、予定まで空白の時間が出来てしまう。何をしようかと色々考えてみるが、仕事も特に溜まっているわけでもなく、読書という気分でもなかったので、いつもなら手もつけないであろうジャンルの作品を作ってみようと、インスピレーションを沸かすためにインターネットの世界に浸る。あまり見ることのないニュースサイト、料理本、興味を持つことすら無かったジャンルを次々と開拓していく。すると、ホラー系のサイトに行き着いた。タイトルを見て、王道の歴史物か…とあまり期待をせずにクリックして開く。マウスを動かし、記事を目で追っていく。中々面白いと心が躍り、記事を読むのに熱中する。下へ下へと読み進めると、1枚の画像が張られていた。古ぼけている一軒家の全体図だった。何だろうかと思い、画像の詳細を見てみる。どうやらこの記事の村にある、その村では有名な家の様だ。ふと記事の熱から覚め、時計を見やる。後1時間ほどで予定の時間になる事を認識して、慌ててパソコンを閉じ、支度を始める。バタバタと玄関まで行き外に出て目的地に向かった。帰ってからまたあの記事を読むという楽しみが出来て心が躍っているが、相手を待たせないために足早に道を急いだ。
「すまない、待たせてしまったかな?」
「いえ大丈夫ですよ、俺も今来た所です。」
「寒かっただろう、中へ入ろう。」
予定を済ます為に自身の担当者と合流し、仕事の進捗や納期を確認する。合間に他愛のない話を挟んだりして時間は過ぎていった。どちらも結構な口が上手い者同士で、大体は予定の時間より伸びてしまうが、その時間がとても居心地が良く好きだった。同性ならではの悩み事や、近況報告も込めてこの時間を設けている為、その分いつも楽しみで仕方ないのだ。独り身の男であるから、特に時間など気にせずに過ごせるのがまた良いと改めて思った。合流してから時は流れ、気が付いたら2時間も経っていた。お互い話しすぎたといそいそと会計を済まし、店の外に出る。軽く挨拶を交わし、自宅へと足を向け始める。帰り際に自販機が見えたので、そこで温かいコーンスープを買い、プルタブの開けながら足を進める。ふー、ふーと息を吹きかけながら冷まし口に含み始める。思ったよりまだ熱く、少し口をやけどしてしまうが、彼はそれをも楽しんでいた。早く帰り、読みかけの記事に目を通す事で頭がいっぱいだった。
家につき、一目散にストーブをつける。まだまだ冷える時期で参ってしまう。寒さにめっぽう弱い彼は記事を読む前に少し暖かくなる飲み物を用意しようとキッチンへと移動した。家の冷えて研ぎ澄まされた空気に身震いをしながらお湯を沸かし、ココアを入れてストーブのある部屋へと戻っていった。付けっぱなしだったパソコンから光が漏れていた。慌てて家を出たから付けっぱなしだったのかと思ったが、気にせずに開いてサイトの記事の続きを見る。
【特集!】地域の都市伝説
□△年 ◯◯地方 ✕✕村
小学生を生け贄に!?村の闇を暴き出す!!
この村では有名な都市伝説で、当時小学3年生の結城夏菜ちゃんが突然姿を消した。村の外から中まで捜したが見つからず、行方不明とされた。
1年後、夏菜ちゃんの私物が見つかった。両親は一縷の希望を見いだし、もう一度捜査を依頼した。しかし、その願いは取り上げられることもなく、この事件は幕を閉じた。両親は警察に不信感を抱き、自分たちで探し始め、夏菜ちゃんは遺体で見つかった。白色の着物を着せられ、髪飾りを付けられていたと両親は語ってくれた。外傷もなく、司法解剖でも何も成果を得られず、不審死の扱いになった。犯人も捕まらず、時効となった。
その後、村の悪天候や洪水の危機、不作を神様のお怒りと感じた村長が生け贄にしたという噂が出回り広まった。村ぐるみの犯行だったのではと人々が口にした。その村では今でも怪奇事件が起こっているという…………
【都市伝説サイト 村編より】
ありきたりな記事だった。面白くはあったが、何とも遣る瀬無い事件である。そういえばと1枚だけあった画像を思い出し、上へと記事を戻す。画像をクリックし、拡大してみた。古い一軒家の窓や正面玄関が鮮明に見えた。カチカチと画像を動かし見ていく。大きな家だと感心し見ていると、表札が目に入った。"綾崎"と達筆な字で書かれていた。おや、珍しい名字だな。と考えていたら1人の人物が思い浮かぶ。1人だけその名字を名乗る女性が居た。まさかと思って考えを振り払う。あいつが、本当に?と疑問がぐるぐると回る。品性はしっかりしているが豪快に笑ったり、怒ったり、自分の生活すらまともに出来ていない様なあいつがお嬢様なのか!?お嬢様ってもっとお淑やかな女性じゃないのかと的外れな考えに頭が傾く。そんなふざけた考えを頭の中から追い出し、一旦夜も遅い時間になっていたので、もう寝ようと寝室へとのそのそと向かい、ベッドに横たわり、目を瞑る。頭を働かせて疲れが溜まっていた様で、その日はいつもより早く、深い眠りに落ちた。
綾崎ハヤテお嬢様事件から少しの日が経ち、その出来事を忘れていた頃。1ヶ月以上、綾崎から連絡が入っていない事に気が付いた。最近はこんな事が無かったが、前までは幾度かあったので、こちらから連絡しても少し照れくさく、意識している事がバレてしまうだろうと思い、もう少し自身の生活に集中を向けた。少しインスピレーションが湧き、黙々と書き進める。1つ、1つと丁寧に書き上げる。自身の頭の中にある物語は粗方書き終え、ストーブに当たりながらソファに深く沈み込む。最近は気温が低い日が多く、身体が冷え込んで風邪を引いてしまいそうだと、少しだるく感じる体をゆっくりと横に倒し、身体を休める。うつらうつらと意識が空を飛び、とうとうソファの上で眠りを迎える。瞼の裏には、綾崎に良く似ている風貌の女の子が写った。あぁ、自分の心が反映されているのかなとあまり気には止めなかった。意識が落ちるまで、その子が泣いている様で、同時に笑っている。そこまでで意識が途切れた。
ソファで眠りに落ちた翌日の朝、固くなった体をゆるりと伸ばしながら起き上がる。寝ぼけている頭を動かして、昨日はソファで眠ってしまったのだと思い出す。身体が痛い中、ゆっくりと起き上がり、朝の支度をのそのそと始める。支度が終わりいつも通りパソコンを開きカチカチとキーボードを打ち、作業を進める。朝から晩まで思いつく限り、頭の中からアイデアを絞り出す。そんないつもの日常と特に変わらず、日々を過ごしていった。時たま編集の担当者との会合を挟みつつ、自身の生活を楽しんでいた。
気付けば綾崎からの連絡が無くなってから、3ヶ月程経っていた。いくら何でもおかしく感じたので、起きているであろうお昼頃に連絡を残してみる。コール音が続き、留守番電話への案内音声に切り替わる。1言残して電話を切る。ソワソワする気持ちを抑えつつ、日常を送る。中々連絡が返ってこず、心配が心に少しずつ積み上がる。あまり深く考えない様に他の事に気を向けて時間を使っていく。少し夜の時間に日が傾いてきた頃、担当者からの電話が来た。
「もしもし、どうかしたのかい?」
「お疲れ様です。坂口さんの原稿には何もなかったのですが、同期の担当している作家と連絡が付かなくなっているようで」
「それは大変だ、僕が知っている人かな?」
「綾崎ハヤテという名前の作家なのですが、ご存知ですか?」
嫌な予感がした。胸がざわざわとし鼓動が少し早くなる、最悪な想像が頭によぎり、すぐに消える。僕は努めて冷静な声を発した。声を震わせ無いように必死だった。
「…ああ、知っているよ。」
「ああ良かったです!もし宜しければ、連絡話入れてみて頂けませんか?」
「それが、昼頃に1回電話を掛けてみたのだが、留守番電話になってしまってね。」
「そうですか……ここ3カ月くらい、まともに連絡が取れていないようで。片っ端から作家先生に連絡を入れたのですが、どなたも特に何も知らないとの事でして…。」
「それは大変だ、綾崎の家に行ってみようか?」
「え!?ご自宅知っているんですか?」
「ああ、招待されたことがあってね。」
「出来たらお願いしたいですが、勝手に伺っていいものでしょうか…。」
「流石に家に入らないよ、外から覗いてみようと思ってね。」
「…分かりました、くれぐれも危ない事はしない様にお願いしますよ!!」
「あはは。心配性だなぁ、僕の担当者は。」
冗談のつもりで提案してみたが、まさか通るとは思いもせずに二つ返事で受けてしまった。でも心配にはなっているので、すぐに見に行こうと行動に移った。車で走り、およそ1時間。綾崎が住む事故物件へと着いた。無断では入れないので、外から庭にある窓を見やる。明かりは付いておらず、人影もない。その場で綾崎に電話を掛ける。やはり出ない、胸騒ぎが絶えず、少しの罪悪感と共に庭に入る。窓を覗き、人影や音を確認する。やはりそれらしい物は感じられない。玄関へ回り、ドアノブを捻ってみる、一呼吸置いて、キィイと音を立て玄関が開いた。開くとは思っておらずに、入るのに少し躊躇してしまうが、綾崎の安否の方がよっぽど大事だと足を踏み入れる。1階をぐるりと回り、2階への階段を上がって同じ様に見回る。どこにも居ない、胸騒ぎは収まるどころか、段々と増してゆく。一先ず、家に居なかった事を担当者へ報告する。コール音が鳴ると同時に、電話先から声が聞こえた。
「もしもし、今は忙しいかな?」
「いえ大丈夫ですよ、連絡取れましたか?」
「いや、未だに連絡なしだね。家にも居ないようだ。」
「そうですか……ご足労ありがとうございます。」
「すまないね、役に立てずに。」
会話も程々に切り上げて、帰路につく。車に乗り走らせると、昔の記憶がふと蘇る。そういえば綾崎との他愛ない会話の中で、実家の話をしていた様な、ポロッと実家のある土地の名前を聞いていたことを思い出し、何か分かるんじゃないかとそちらの方に車を進める。段々と景色が移り変わり、建物が減り、緑が増えていく。とてものどかな所だなと、久々に目が休まる。しばらく車を走らせて、目的の場所に着いた。それなりの広さの村で、畑や田んぼが広がり、空気が澄んでいた。村の中を歩き回り、家を探す。平日なのにあまり人に会わないなと不思議に思うが、あまり気には留めていなかった。歩き始めてしばらくすると、大きな家が見えた。あの時サイトで見たあの家に近しい風貌だが、少し写真よりも新しく綺麗になっているような気がして本当に写真の家なのか…?と疑問を持つほどだった。正面玄関の前に立ち、表札を確認する。"綾崎"と達筆な字で書いてある。やはり、同じなのだと確信した。何故連絡が付かなくなってしまったのか、何が隠されているのかとはやり始める思考をどうにか堰き止め、インターホンを指で押す。軽いピンポーンという音がして、遠くから家主の足音が聞こえてきた。緊張を全身で感じ、どうにかして声を出す準備をした。
「はぁい、どなたかしら?」
「こんにちは、初めまして坂口と申します。」
「坂口さん?知り合いにいたかしら……?あっ思い出したわ!ハヤテが話していた方ね。いらっしゃい。」
「実はハヤテさんの事でご相談がありまして……。」
「まぁ、そうなの。外も寒かっただろうからお茶を用意するわ。ゆっくりしていってちょうだいな。」
「ありがとうございます、失礼します。」
緊張して声が震えていないか必死だった。とてもおっとりして可愛らしさが残る人だった。綾崎が僕の話をしていたのが意外で嬉しくなったのと同時に少し気恥ずかしさを感じた。丁寧に中に招かれ廊下を歩く。家の外見は古い感じだったが、中は所々リフォームされている様だった。居間に案内されて中を見やる。色とりどりの小物が飾られており、綺麗な部屋だった。畳の部屋で心を休めながら、台所から帰ってくる足音の主を待つ。お盆に温かいお茶とお茶請けを乗せて、居間に入ってきた。身体が冷えていたので、温かいお茶を頂けて少し緊張が解け、喋りやすくなった。
「外は寒かったでしょう。お茶とお菓子てゆっくり温まってね。」
「お気遣いありがとうございます。」
「ふふ、しっかりしている方ね。あの子も良い人と過ごしているのねぇ。良かったわ、心配していたのよ。」
「あ、いえただの友人なので、まだ。」
「あら、気が早かったわね。もう私も年だから、娘の行く先が心配で仕方なくなるわ。全然連絡もよこさないんだから。」
しばらく昔話を聞かされ続け、いつ綾崎の事を聞くかタイミングが掴みづらい時間が続く。思い出話は聞いているこちらもふっと笑みがこぼれるような話や、綾崎の失敗談など色々な物があり、とても楽しい時間だった。あれやこれやと、テンポ良く話に花を咲かせつつ、切り出すタイミングを伺う。中々冷めないお茶を啜りつつ、会話に相槌を打つ。一通り話し終えた様に相手がお茶に口をつける。今だと思い、話を投げかけてみる。
「そういえば、最近お嬢さんと連絡が取れていますか?」
「あの子貴方にも連絡をしていないの?もう、困った子…。」
「僕だけじゃなく誰にも連絡が取れない様なんです。僕もハヤテさんの担当の方から連絡を貰いまして…何か知っている事はありませんか?」
「そうねぇ、こちらにも連絡は来ていないのよ。」
「そうですか…お嬢さんの近況とかも聞かされていないですか。最近引っ越されて、今は事故物件に住んているんです。」
「………はぁ、辞めるように言ったのに、本当に人の言うことを聞かないんだから。」
「何かあったんですか?」
綾崎が帰省していた時の事をくわしく教えてくれた。事故物件に住む事を反対した事、知らない女の子が写真に写っていたと教えられた事、この家で変なことが起こると騒いでいた事、そしてこの家に秘密が隠されていると確信を得た事。それを話し終え、酷く疲れている様子で、お茶を口に運ぶ。何があるのだろうと聞いてみた。綾崎さんははあまり話したくないようで、聞き方を変えても、口が動かなかった。もう少し揺さぶってみれば、何か出るだろうかと綾崎の話をする。事故物件に住んでから様子がおかしい事と段々と雰囲気が変わっている事を伝えてみた。酷く動揺した様子で、娘の近況報告を耳を傾けていた。
「お嬢さん、事故物件に住んでから様子がおかしいんです。家に籠もりっきりだったり、怖いものが苦手だったはずなのに、今の家で起こった事を笑って話すんです。」
「…それは良いことね、楽しく過ごしているのよ。」
「心配じゃないんですか?お嬢さん、最近は変な現象を怖がらなくなったそうです。誰かに見られていたり、音がしたり、」
「その話はもう聞きたくないわ、お願いだから。」
酷く狼狽えたように話を遮られてしまった。まるで許しを請うような、目の前に怪物が居てそれに襲われているような。そんな雰囲気だった。もう少しで何かが分かると確信し、娘の情報を言葉に乗せて、さらに揺さぶる。
「このままだとお嬢さん、僕やお母様が知らない人になってしまいますよ。段々連絡が取れなくなって、その内、居なくなってしまうかも。」
「駄目よ!!そんなの駄目……」
「何があったか、教えてくれませんか。綾崎さんの力になりたいんです。」
「……分かった、話すから、もう許してちょうだい。」
「聞かせていただけますか、この土地に隠された真実を。」
それから少しずつ、ポツポツと言葉が紡がれた。幼少期に仲の良い女の子の友達がいた、いつもいつも何をするにもずっと一緒だった。ある時期から、その子は居なくなった。探せど探せど、どこにも居なくて皆が諦めた頃、その子の私物が出てきた。それを希望の光と判断した両親はもう一度、村の外から仲間で蟻一匹見逃さない勢いで探していく。その内にその子が見つかった。生きていた時より白く、細くなって。変わり果てた姿で見つかった事を教えてくれた。綾崎さんは消え入りそうな声で文章を紡いでいく。
「それは、辛いですね。でもそれとハヤテさんの事と、関係があるんですか?」
「ええ…。だって私はその子が居なくなる当日、一緒に居たんだもの…。」
「一緒に、いつものように遊んでいたのですね。」
「そうよ、いつも通りの日だった。でも、違う事が1つあったの、私はあの子醜い感情で、殺した。」
戦慄が走る。話の風向きが変わり、少しの身震いと共に鳥肌が立ち始める。神経を研ぎ澄ませ、話を一言一言聞き逃すことなく、頭に収める。綾崎さんはまたポツリポツリと言葉を零す。言葉の意味を飲み込む事に必死になりながら、注意深く聞いていく。自身が想像していた話とは程遠く、くらりと頭が揺れた。
「本当はね、昔は仲良しだったの。でも、小学校を卒業する頃くらいにあの子が私の好きだった人を取ったの。」
「それで、頭に血が上って、居なくなっちゃえって、思って。」
「あの日の遊びは少し特別なものだった。大人の人が話していた"儀式"という物を、あの子でやってみたの。」
「白色の着物を着せて、髪を整えて着飾って、あの子に毒を飲ませたの。ケガをさせたら怪しまれてしまうから。」
「あの日、あの子は私が誘うとホイホイ着いてきた。バカだなぁって笑っていたわ、今から死んじゃうのに。」
「あの子が見つかって、夢を見るようになったの。あの子が私の大切な物を奪っていく夢。当時は酷くうなされてたわ。堪らなくなって、大人に真実を話したの。もう私は捕まってしまうんだろうなって、」
「でも大人はそうしなかった、私が綾崎だったから。大きな家の権力で私の罪は無かったことにされたの。怖くて怖くて仕方なかった。あの子は"生贄"になったと思うんだって、」
「祠が建てられて、供養された。あの子の両親はそれにとても怒っていたけど。引っ越してしまったの。」
そんな事があっていいのかと驚愕した。子供とは言え、人を殺めてしまったのだ。罪を償うのは当然と思っていた。しかし、この事件は権力によってかき消されていた。少しの憤りを感じるが、まだ繋がらない。その話と綾崎ハヤテの事はどう繋がるのか。考えていると綾崎さんは焦ったような顔になり、必死に言葉を紡ぎ出した。
「あの子が死にゆく様を私は、私だけは見てたのッ…あの子の最後の言葉、、今思い出した…」
「あの子、私の大切が出来たら、必ず不幸にするってッッ…そう言ったのッ、ハヤテは、もしかしたら、」
「落ち着いてください、まだ決まったわけではありません。貴女のした事は到底許される事じゃない。でも、お嬢さんは関係ないと僕は思います。」
「私はきっと、恨まれているのね。両親が死んだ時も、主人が死んだ時もあの子が夢に出てきたのよ……取り返しのつかないこと、しちゃったわ…」
「今はそんな事考えている場合ではないです、すぐにお嬢さんの家に向かいましょう。」
綾崎さんはあまり娘に、娘の身の回りの事に関心が無くなってしまったみたいで、やけにぐったりとしていた。僕はそれに怒りを感じ、少し声を荒げてしまった。
「貴女が行かなかったら、誰があいつを助けるんです!!母親でしょう!貴女のした事はもう終わってる。今大事なのはハヤテの安否ですよ!」
「貴女が行かなくても、僕だけで行きます。あいつは僕にとっての大切なんです。」
「でもハヤテは貴女が来ることを望んでいるはずです。ずっと真相を知りたがっていましたから。」
「……娘を取り返しに行かなきゃ。貴女にとっても大切だろうけど、私にとっては命の様な子なのよ。奪われてたまるもんですか!」
綾崎さんを奮い立たせて、家を出る。車を走らせてハヤテの家に急ぐ。頼む、何も無く、杞憂に終わってくれと願いを掛けながら、緊張した空気で時間を過ごす。綾崎さんも、先程までのぐったりとした雰囲気はなく、ただ一人の子を守る母親の顔をしていた。気持ちが焦れど、家に着く時間が早くなるわけでもなくて、こんなにももどかしい気分になったのは久しぶりだと場違いな事を思っていた。
その後の展開どうしよ…良ければ感想ください!




