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第4章 湧き出す渇望

段々と展開が分からなくなってきたm(_ _)m

事故物件に住み、もう一ヶ月が経とうとしていた。相変らず変な事は度々続きつつ、その環境に感覚が研ぎ澄まされる。もちろん音がなったり、人の髪がたくさん落ちているのも怖いが、一番怖く感じるのは、誰もいない空間からの気配や視線だった。怖くは感じるが、自身の中で緊張が生まれると、創作意欲やインスピレーションが湧きやすい様な、まるで自身の鼓動と共に文字が湧き出しているかのような感覚に陥る。深い底なし沼に呑み込まれているような、そんな気がしてゾクッと身震いをした。この家に住み始めてから作品を作り出せる頻度が上がっていき、自身の願ってやまなかったスランプからの脱出を成功させて、頭も心も軽くなっていた。あの家に留まり続ける事を考えていた時期もあったが、こんな副産物があるとは。この物件に感謝してもしきれない、と心の中でほくそ笑んだ。



忙しさも落ち着いてきた頃、そういえばあまり坂口と連絡を取っていない事に気づき、久しぶりに電話をかけようかと携帯電話を探す。あれ、どこに置いただろうと机の上や、自身の辿った後を戻り、ガサガサと探している。やっと見つけて電話をかけようとして、画面を付けようとボタンを押す。しかしバッテリーが無いようだ。充電器を差し込んで、少し放置する。携帯電話を最近使っていなかったからバッテリーは無いのが当たり前だろうと、自身の頭に呆れる。



この日は1日執筆作業に没頭した。次から次へとペンを走らせ、出来たものからパソコンに打ち込み、確認に移る。少し手が疲れてきたので、休憩がてら居間でくつろごうと移動する。自身がいつも飲んでいるお茶を入れ、少しだけお茶菓子を用意する。お茶を入れ終わり、そういえばと携帯電話の事を思い出した。ずっと充電器に繋いでいたおかげで、バッテリーは完全に復活していた。画面を開き、電話帳で坂口の名を探す。スイスイと画面を操作し、電話をかけた。プルルルとコールが2回程続き、坂口の声が電話越しに聞こえてくる。



「もしもし?今時間あるかしら?」

「ああ。大丈夫だよ、久しぶりだな。最近連絡がなかったから心配していたぞ。」

「少し執筆に没頭しちゃって、良かったら家に遊びに来ない?色々起きたのよ?」

「お、早速変なことが起きてるのか。それは是非聞かせて貰いたいな。」

「じゃあ、また場所を送るわ。」

「お願いするよ。」



日時を決めて、軽く挨拶してから電話を切る。忘れない内に住所を送り、作業に戻った。さらさら、カタカタと音を奏でている間に日が落ちていた。集中力が長続きしているなぁと自身に感心し、居間に移動し夜の時間を過ごした。家に馴染んだとはいえ、夜の時間はやはり怖く感じる。あまり考えない様、テレビの音量を上げる。ちょうどお笑い番組がやっており、そちらに意識を向ける。久々に有意義な時間を過ごしているなぁと生活の充実感を噛み締め、夜を過ごしていた。その時……



トン……トン………トン……



階段から音が聞こえる、あぁ、またかと特に気にはしていなかった。しかし、今日はいつもの音とは違っていた。いつもは階段より先にある部屋からは聞こえなかった。その階段部分だけで音は完結していたのに、今日は階段から"降りて"きている。身体に緊張が走り、強張る。あまり後ろを気にしないようにテレビへ視線を向ける。まだ音は止まらず、近づいてきている。音の方に意識を向けそうになるのを必死に抑えながら、テレビに集中する。一歩、一歩と音が大きくなっていく。今回ばかりはもう駄目かもしれないと、目を瞑り、さらに身体に力が入る。とうとう部屋の前までやってきた。お願い、入ってこないでと必死に心の中で唱える。インターネットで調べていたお祓いの方法を思い出し、御経を唱えてみる。それが逆効果だったのか……



ガタガタガタガタガタガタガタガタッッッッ………



大きな音を出して、居間の障子が一気に揺れる。けたたましい音に心臓が止まりそうになり、息を詰めた。ふっとテレビが消える。嘘……何でと思いテレビの方へ視線を向ける。するとそこには居間の障子のその向こう、廊下に黒髪の女が立っていた。叫んではいけないと必死に声を抑え、身体を縮める。早く消えてと願い続けてどれくらい経っただろう、テレビは画面に光を取り戻し、やがて重く淀んた空気も澄んでいった。無意識に息を殺していたので、激しい動悸と冷や汗が後からやってくる。はぁ、はぁと呼吸を整え、身体をゆっくりと解いてゆく。慣れていたと思ったか、まだまだ序の口の事しか起こってなかったんだと心が折れそうになる。どっと疲れてテレビを消し、寝室へと向かった。のろのろと布団を引き、中に潜る。まだ寒い夜だが、身体が火照ってくらくらする。この家に来てからというもの、怪奇現象に遭う度に怖い思いもするが、どうしようもなく生きている実感を感じてしまい、仄暗い感情が湧き上がる。怖いものが苦手だったはずなのに、この家に自分が作れ替えられているようで、身震いと同時に身体の奥が疼く。どうしてしまったのだろうと困惑し、頭の中から思考を追い出して眠りにつく努力をする。



「ねぇ、こっちを見て。何でなの……」



また、あの女の子だ。今度は写真よりも少しだけ小さく、泣いている様子だった。何があったんだろうと近づいてみる。進めど進めど、泣いている子には近づけない。もどかしくしている内に女の子は情景と共に攫われてしまった。どうして泣いているの?貴女は何で、私の夢に出てくるの?と頭の中で問うが、返事が返ってくるわけもなく、私の意識ももう一度、眠りに引き込まれていった。火照る身体に"何か"が、影を落とした気がした。



翌日はスッキリと起きられた。意外な程に身体の不調はなく、外の冷たい空気を肺に入れ布団から起き上がった。今日の天気は絶好調に晴れており、執筆をするにはとてもいい天気だと気分が上がる。早々に台所へ行き、朝ご飯の支度をする。調理器具もそろえていたので、目玉焼きとウインナーを焼き、即席のお味噌汁に熱湯を注ぐ、買い置きしていたおにぎりを2つ取り出して椅子に座る。ニュースを流し見して黙々と食べ進め、食器を片付ける。今日は日光の差し、暖かみを感じる南向きの部屋で作業を進めようと思った。この家の中で晴れの日には、一番のお気に入りの部屋だった。軽い足取りで移動し、備え付けで置いてあった机を窓側に動かして、紙にペンを走らせる。お馴染みの音を聞きながら、黙々と作業を続ける。いつになく集中が高まり、あっという間に夕陽が部屋を照らした。紙にオレンジ色が乗る頃に気が付き、疲れを癒やすようにゆっくりと夜の仕度をした。お風呂に浸かり、1日座っていた身体を伸ばす。とてつもない達成感に襲われ、逆上せそうになる。不意に、後ろからカタンと音がする。だが今の私には聞こえておらず、怖いという感情は湧かなかった。お風呂で十分疲れを癒やし、身体を暖められたので、その日はすぐに眠りに落ちた。



作業に没頭する日が続き、ついに坂口が家にやってきた。内側のインターホン前で待ち、今か今かとそわそわしていた。生まれてこの方、家に友人を招待するという経験をしてこなかったために、とてつもなく舞い上がっていた。坂口がこの家に興味を持ったら良いなと思い、引っ越してきてから起こった出来事を正確に伝えられる様、頭の中で文章に起こす。あんな事もあったなぁ、この出来事が怖かった。など日々を思い出してゆく。当初は怖かったが、その感覚が段々と変化していく様を自覚するのが容易かった。そんな自身が少し怖いが、それと同時に生きているからこそのこの感覚なのだと、感情が昂った。そうこう思案している内に、坂口が到着した。浮つく気持ちを少しでも押し殺し、冷静に対応する。



「やぁ、まだ明るいとあまり雰囲気が無いね。」

「そうね、明るいと綺麗な家ってだけだわ。」

「そういう家ほど、夜の顔が怖いものだよ!」

「立ち話もなんだから、上がって。」



興味津々に坂口は家を見回る。キョロキョロと辺りを見渡し、子どもの様にはしゃぎ回る。不意にその仕草が可愛いと思ってしまい、顔が赤くなり始める。モワモワと湧き上がる妄想を頭を振るってかき消し、坂口に部屋を案内する。家をくるりと回り、階段へ意識を向ける。すると坂口も何かを感じたらしく、少し緊張した面持ちになった。何かあっただろうかと聞いてみると、禍々しい感じがして、どうやらあまり近寄りたくないようだ。怖いものに興味津々な坂口でもここは嫌な気分になるのだなと少し意外だった。



「ここは……凄いね。どの部屋とも違う感じがする。」

「ここからよく視線を感じるわ、本当に怖いんだから。」



楽しそうに笑って話す私を、坂口は訝しげに見入る。何か変なことを言っただろうかと頭を傾げるが、その疑いが何かは分からなかった。粗方部屋を案内し終わり、居間へ移動する。紅茶と茶菓子を先に出し、対面に座る。アールグレイの良い香りと茶菓子の甘い匂いが漂い、少し強張っていた身体が緩む。テンポよく会話は進んでいく。最近の生活の話や、仕事の話、そして前にした相談事の話を掘り返される。



「そういえば、スランプって言ってたな。俺が良くやっているスランプ脱却法を教えようか?」

「お生憎様、スランプからは脱却したの。この家に移り住んだ頃から、とっても執筆が捗るの。まるで湧き出てくるみたい。」

「へぇ、それは全盛期より前に戻ったんだな。」

「お陰様でね、この家に感謝しなきゃね。」



ふざけたことを言いながら、お茶を啜る。チクタクと鳴る時計を背に今まであった事を話し始める。コロコロ変わる坂口の表情が面白おかしく、つい口角が上がってしまう。坂口は聞き上手だと感心して、話すのが楽しくなってくる。前までは会話が得意ではなかったが、聞き上手の人と話していると口が柔らかくなる。あれやこれやとポンポン言葉が出てきた。そうすると、坂口が不思議そうに私に言葉を投げかけた。



「何を笑っているんだ?怖い話をしているというのに。」

「別に!何でもないわ。この家は色んな事が起きて、怖いけど退屈しないわね。」

「引っ越しをして正解だったな。」

「一時はどうなるこもやらって思っていたけどね。」



話は盛り上がるばかりで時間が足りないくらいだった。坂口は明日の予定があると早めに帰ると私に伝えて、席を立つ。少し寂しく感じてしまうが、引き留める理由もないので坂口と玄関先までゆっくり歩き始めた。玄関につき、坂口と別れの挨拶を済ます。



「また今度ね。」

「ああ、今日はお邪魔したよ。とても面白い話が聞けて良かった。」

「気を付けて帰ってね。」

「また何か起こったら、話を聞きに来るよ。」

「本当に物好きねぇ、貴方らしいけど。」



坂口を送り出し、家の中に戻る。執筆作業を続けようと居間に戻り、紙に文字を走らせた。湧き出る意欲を少しずつ紙に乗せ消化していく。異常なまでにペンが進み、作家人生の中で今、この瞬間が1番納得できるような作品を生み出してる。この家に来てから段々と私じゃない"何か"に変化している気がして、案外悪くはないと居心地良く感じた。越して来る前は怖くて変なことが起こる家だと、そう決めつけてしまっていたが、住んでみたらその感情が薄れるくらい、住み心地が良いと感じる家だった。ゆっくりゆっくり、身体の芯から文字を引きずり出すように作業を続け、没頭する。どれだけ時間が経ったのだろうか、大方頭に浮かんだ文字を書き起こして、作品のメモ書きに残し終えた時、時計をふと見上げた。午前4時にまで針が進んでおり、最初は見間違えかと思ったが2度、3度と目を向けても変わらない。こんな時間までやっていたのかと驚愕する。バタバタと寝室に向かい、布団を敷き寝る準備を済ませる。作業中、何も掛けていなかった身体が布団の暖かさで体温を取り戻した。だが、集中が高まったままで中々眠りにつけない。どうにかして目を閉じ、布団に潜る。瞬間、部屋の前に"階段のあいつ"の気配がした。ゾクリと背筋が凍りつく。ただ居るだけ、すぐに居なくなると必死に思い込み布団にしがみつく。敷布団を握りしめ、目を固く閉じてやり過ごす。障子が開いた。嘘ッ!入って来るとパニックになりそうで、それと同時に昂っていた。怖いはずなのに、身体はどんどんと心拍が高まり、体温が上がる。こんな感覚に困惑している内に、布団の中に違和感を感じる、身体を触られたのだ。恐怖に鳥肌が立ち、歯がガチガチと鳴ってしまう。品定めをするかのように下から上へと触られる感覚は伸びていき、とうとう首までやってきた。ハッハッと呼吸が速くなり、くらくらする。怖いのに、この身体の感覚が、堪らなく愛おしくて、気持ちいい。まるで夫婦が布団を共にし、絡み合っているような。そんな感覚が私の中から溢れ出す。自身の身体の違和感と頭に変化に追いつけず、疲れ果てて寝てしまう。瞼の奥に、あの女の子がほくそ笑んでいる光景が浮かんだ。あの子の口が動き、言葉を放った。



「あなたも一緒に。私と共に。」



ゆるりと瞼を開ける。朝日が辺りを照らし、小鳥が歌っている。じっとりと寝巻きが汗を吸っている。昨日のあの感覚を思い出して、困惑と身体の疼きが、同時にやってくる。自身の身体を触る。いつもよりくすぐったさを感じ、身を捩ってしまう。でも、昨日の夜の感覚には程遠かった。もう自身の身体がおかしくなっているとすら思いもせずに、欲望のままに自身を駆り立て抱きしめる。昨日の、あの恐怖を思い出す。ハァハァと呼吸が乱れ、奥が跳ねる。堪らなくなって、もう一度布団に潜り、この感覚をやり過ごそうと鼓動を落ち着ける。しばらくして落ち着き、布団から出ていつも通りの日常を過ごし始めた。

朝ご飯を用意し、ニュースを見てゆっくり食べ進める。呑気に今日は何をして過ごそうかと考えて朝ご飯を食べ終えた。



この日を境に、ずうっと、どこに居ても、視線を感じるようになった。視られている感覚で恐怖が込み上げるが、それ以上に恐怖という感情から汲み取れるようになった"生きている"という証をいつも感じられる安心感が心の中で芽吹いた。段々と家に取り込まれて一体化するような、元々ここに根付き、花を咲かせていたような。そんな気分だった。

良ければ感想ください…今後の参考にしたいです_| ̄|○

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