6話 競技の提案
1組、2組、3組が順番にクラスで何も意見が出なかったことを報告した。次は4組が報告する番だ。洋乃が席を立つ。
「私達のクラスでは2つの意見が出ました。まず徒競走の廃止についてです」
他クラスの体育委員の視線が一気に洋乃に集まった。誰もが心の中で「え、意見なんて出たんだ」と思っていたが、そんなことなど気にせず洋乃は話を続ける。
「個人が争う徒競走より、クラス全員で協力できる競技の方が体育祭に向いているのではないかということで、4組では徒競走の代わりに少し特殊な綱引きを競技に追加したいという案が出ました」
報告役を源田ではなく、洋乃にしたのは正解だった。源田には、ただ徒競走がやりたくないという話をここまで美化することはできない。
そして洋乃は、猿渡が言っていた綱引きの説明を始める。
他クラスの体育委員の反応はかなり良かった。2年の体育委員担当教師である鬼頭も、かなり気に入ったようだ。ちなみに、彼は服の上からでも分かるほど鍛え上げられた筋肉の持ち主だが、"仏の鬼頭"と呼ばれるほど優しい先生で有名だ。30代前半の四宮と同世代であり、四宮とも仲が良い。
鬼頭は仏の笑顔を浮かべながら会議を見守っていた。
「2つ目がクラス別対抗リレーについてです。リレーに出る選手が仮装して走るのはどうか? という案がクラスで出ました」
徒競走の件は洋乃自身すんなり通ると思っていた。しかし、こちらは別だ。なんたって脈絡がなさすぎる。それでも4組が優勝するためにはこの意見を通す必要があった。
そこで鍵となるのが5組体育委員の女子、五百川だ。クラスのムードメーカーであり、笑顔を絶やさない彼女は、この手の面白そうな企画に目がない。
これは去年彼女と同じクラスだった猿渡からの情報だ。前に猿渡と下校していた時、たまたま五百川の話になったことがあった。この時、猿渡が「いおって楽しそうなイベントに目がないんだよね。だからいっつも学校行事に本気なんだよ」と言っていた。"いお"というのは、五百川の愛称である。
彼女なら味方となって援護射撃をしてくれる。その確信が洋乃にはあった。洋乃も選択科目の授業で彼女と面識があるため、猿渡の言っている意味がよく分かるのだ。彼女なら絶対に乗ってくる。
洋乃が発言を終えた瞬間、源田は五百川の様子を伺う。
「面白そう!」
釣れた。五百川の反応でいけると踏んだ洋乃がさらに畳み込む。
「クラス別対抗リレーはクラスの中でも選ばれた人しか走れません。衣装作りで少しでも関わり、応援したいという意見や、一目見ただけで楽しいということが伝わるような体育祭を作り上げたい。体育祭を様々な角度から盛り上げたいといった意見が出ていました」
そんな意見など実際は一つも出ていない。洋乃の脚色である。そして源田が洋乃を援護するように付け加える。
「仮装の出来栄えを採点するというのも面白そうだ、という意見も出てました」
リレーの順位以外に採点される部分を作る。ボンドの狙いはこれだった。