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4話 緊急会議

 次の日の昼休み、4組は昼食の時間に緊急会議が開かれた。議題は4組でも勝てる体育祭の競技について。外部に情報が漏れないよう教室の扉はしっかり閉じた。廊下から教室の中を見られても、なんの話をしているのか悟られないようにするため黒板は使わない。


 4組の生徒は昼食を食べながら話を聞く姿勢を整える。洋乃はこのまま変更がなかった場合やることになる競技を挙げていく。


「まず全員強制参加の徒競走、クラス別対抗リレー、そして女子が全員参加のムカデ競争に、男子全員参加の騎馬戦。この4競技が毎年2年生が行っている競技です」


 これを聞いた金城が口を開く。


「ムカデ競争?」


 源田がツッコむ。


「お前、女子じゃないだろ」


 クラスで笑いが起きた。自分の名誉を守るため、弁解を試みる金城。


「純粋な質問だから。ムカデ競争って何かなっていう」


「本当か?」


「おい」


「ていうか去年やってただろ。今の3年が」


「ん?」


「あの一列になって走るやつ」


「あぁあれか。二人三脚の縦バージョンみたいな。

 全員の右足首を繋いでる」


「左足もな」


「オッケーオッケー。完璧に思い出した。あれはチームワーク勝負だからあっても問題ないでしょ」


 この金城の意見には全員肯定的だった。


「そろそろ徒競走は卒業しよ。あんなの誰も得しないんだから」


 そう言ったのはボンドだ。

 これにはクラス全員が頷いた。


「じゃあ徒競走以外で全員参加できる競技見つけないと」


 この源田の発言に対し、4組の生徒達は障害物競走、玉入れ、パン食い競争などなど、様々な競技名を出し合った。その中で最もみんなの興味を引いたのは、元気な女子生徒の猿渡が中学生の頃にやったという、男子が走る綱引きだった。


 男子は綱から離れた場所からスタートし、男子が綱を掴むまでの間は女子だけで綱引きをするという競技。全員参加という点を満たしている上、綱引きならまだ勝てる可能性があると考えた。男子が走ることにはなるが、4組には突出して足が速い人がいないだけなため、問題ないだろうという考えだ。これには全員が納得した。


 次に話題に上がったのは、男子全員参加の競技である騎馬戦だった。


 騎馬戦というのは簡単に言えば帽子の取り合い。帽子をかぶった1人の騎手役を、騎馬役の3人が持ち上げて1つの騎馬を作り、この騎馬同士が帽子を奪い合う競技。帽子が取られる、もしくは騎馬が崩れて騎手役が落ちたら脱落となる。一対一で戦う他に、複数の騎馬同士で争うチーム戦があり、チーム戦では取った帽子の数で勝敗を競う。


 帽子はかぶらず、相手の騎手役を騎馬から落とし合うだけという、四捨五入すれば喧嘩としかいえないルールも存在するが、名浪高校では帽子を取り合う紳士的なルールを採用している。


 とはいえ騎手を支える騎馬役はもちろん、帽子を奪い合うのにも力強さは欠かせない。今時殴り合いの喧嘩など絶滅寸前だが、喧嘩の強さは純粋に騎馬戦の強さに繋がると言っていい。もちろん騎馬戦で殴るのは禁止だ。ただ、組み合いになることがある上、帽子を奪うために素早く手を伸ばす必要もある。

 優しい心を持ち、喧嘩とは無縁だった4組の男子にとっては最悪の競技だった。


 しかし、彼らにも希望があった。隣のクラス、3組の存在だ。騎馬戦は騎馬の数の都合上、2年生は1.2組、3.4組、5.6組の3チームに分かれて争うチーム戦を行う。2年3組は"名浪高校のスポーツ科"とまで呼ばれる運動神経抜群のクラス。もちろん名浪高校にスポーツ科などはない。名浪は普通科のみの高校だ。そんな高校でスポーツ科とまで呼ばれる3組と組めるのならば、もしかしたらもしかするのである。


 3組が味方となる騎馬戦をなくすのは、ある意味リスクがでかい。こうした理由で騎馬戦を変更する案は消えた。


 問題はクラス別対抗リレー。クラス別対抗リレーは、そのクラスから選ばれた男子3人、女子3人の合計6人がバトンを繋いでゴールを目指す競技。このリレーに出られるメンバーは体育祭の花形であり、多くの人の憧れだ。体育祭の中でも圧倒的な人気を誇る競技だが、純粋に走力の足りない4組にとっては、最も避けたい競技に他ならなかった。


 女子には去年のクラス別対抗リレーで活躍した人物がちらほらおり、それなりのメンバーが揃っていた。洋乃、元気な猿渡、4組の大黒柱である肥後さんが去年のクラス別対抗リレーに出ていたのである。


 問題は男子。去年の体育祭でリレーに出た者は誰もおらず、短距離や中距離を走る陸上部もいない。4組の最高走力は去年惜しくもリレーメンバーの補欠だった源田であり、それ以外の者はリレーなどとは無縁の者ばかりだった。


 近年の状況から、リレーがなくなる可能性を願う者もいた。昨今、特に小学生の運動会で、選抜リレーをやらない学校が増えているのが要因だろう。走るのが得意な一部の人しか活躍できないからだとか、勝敗をつける必要性がないからだとか色々理由はあるようだが、今のところ名浪高校で選抜リレーがなくなる気配は全くない。なんたって盛り上がる。どの学年でも採用されている唯一の競技であるリレーをなくすはずがなかった。


 こうした理由から2年生が行う競技からリレーを除外するというのは現実的ではなかった。しかし、4組にはボンドがいた。ボンドのある提案により、4組に希望の光が差す。

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