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14.旧友との再会

 ホテルで食事をとった後でヴァレンタインは端末を見た。ウルスラの事務所キボウから返事が来たのだろう。情報をヴァレンタインはじっと読んでいた。

 場所をホテルのバーに移し、リオはノンアルコールカクテルを一杯だけ手元に置いている。

 目の前でヴァレンタインはウルスラの事務所キボウと何やらやり取りをしているようだった。そして神妙な顔でリオを見て、ほっとため息をついた。

「なぜ、ヴェントに?」

「話しただろ、政治難民なんだ。居場所がばれるのが一番恐い。俺は抵抗できる力もない」

「秘密にしよう。俺も恋人を守れない男じゃない」

 政治難民だと主張する理由は何かも聞かずにヴァレンタインは請け負った。やっとまともに話ができそうだ。

 彼はリオに恋している目で見ている。もう、それは隠しようもなかった。そういう視線をリオはウルスラで良く知っていた。うまくかわすには、後援者が物を言うことも分かっていた。

 ヴァレンタインの思慕をどうすればいいか。芸能活動はしていない、フリーの憲兵でしかないリオを、こんな風に見つめる人がいる。その気持ちに応えてみたい。

 だけど秘密を本当にヴァレンタインに話していいのだろうか、リオは少し迷いながらグラスの水に口をつけていた。

 そこに通りかかった女性がいて、リオに声をかけてきた。

「ブラック?あなた、リオ・ブラックだよね?」

 柔らかい女性の声がして、リオは息を止めて彼女を見た。見覚えがある、ウルスラの元女優だ。あの頃よりずいぶんと綺麗になって目の前にやってくる。

「ベサニー……じゃない。ゴルドウィンさん」

「名前で呼んでよ」

 そこにいたのはウルスラ星の元女優で、元の名をロッテ・ベサニーという。セレガ貴族に見染められ、セレガに飛んだ。帝国となったからには、彼女がヴェントにいるのも頷ける話だった。

 彼女の要求は独身だった頃と変わらない。リオは微笑んだ。

「そんなことしたら、俺が旦那さんに怒られるだろ」

「私が叱られるわけじゃないから」

 彼女も少し笑い、それからヴァレンタインを気にして、リオに話しかけた。

「ねえ、あのドラマって、セクハラでもあったの?」

「いや、なかったよ」

「どうして逃げ出したの?」

「ただ、親戚のことでちょっとね」

「親戚?」

 そうだ。ここに来て初めて旧知と出会った。ロッテの口から、リオの居場所が外に漏れるのはあまりいい事態ではない。

 リオはあわてて、ロッテに言った。

「相談なんだけど、ゴルドウィンさん。俺に会ったことを秘密にできる?」

「もちろんいいけど、そのかわりにどうして筆頭元帥とバーにいるのか教えてもらえる?」

 すると、ヴァレンタインがすかさず言った。

「私たちは恋人なんだ」

「一晩限りの?」

 ロッテの不躾な質問は、リオの目の前でなされた。憲兵の制服を、そういう趣向の演出だと思われたのだ。恥ずかしさと怒りと悲しさが一気にリオの喉に詰まって、一言も出てこなかった。

 ヴァレンタインは微かに首を横に振った。

「いや、違います」

「じゃあ、どうしてリオは憲兵の格好なの?」

「それはいいんだよ、ゴルドウィンさん」

 やっとリオが言うと、ロッテは強い口調でそれを否定した。

「何もよくない。ここに二人がいるのはとても不自然ってこと、わからない?だから私もあなたたちを見たんだし」

「不自然ですか?」

 ヴァレンタインの質問に、ロッテは大いに頷いた。

「すごく不自然!リオは上等兵で、あなたは元帥。筆頭元帥が最下部の憲兵に難癖をつけているように見える」

「おや、そうですか?」

「笑ってごまかさないでくれませんか?それに、本当に恋人ならそういうミスマッチにもっと注意を払って当然じゃない?おかしいわよ」

 まるでロッテはヴァレンタインを叱るようだった。リオも思い出す、相手の身分が自分よりどれだけ高かろうと、こうした意見を言えるのがロッテだった。

 気丈にヴァレンタインを睨みつけているが、やり過ぎじゃないか。それともゴルドウィン氏という人はそこまで立場が強いのか。

「私の大切な友達なのに、ひどい」

「友達ですか?」

 ヴァレンタインの質問はロッテに向けたものだったけれど、視線はリオに聞いていた。リオも答えた。

「ああ、まあ。ゴルドウィン氏は結婚式をヴェントでやった。招待されたけど、俺は仕事で行けなかった。祝辞を送ったよ。子供が何歳だっけ」

「息子も夫も元気」

「よかった。ロッテはどうしてここに?」

「期間限定のランチが食べたくて。その後カクテルを飲もうとして、あなたを見つけた」

 彼女はなぜかヴァレンタインを睨んだ。

「なんだか、ごめん」

「謝らないで」

「ブラックさんはなぜ、ゴルドウィン夫人と?」

 折り目正しくヴァレンタインが聞き、ロッテが答えた。

「それは、ウルスラで私にセクハラしていたサウンドデザイナーを、体を張って止めてくれてからの付き合いがあるの。あの時、ブラックは本当に頼りになる人だと分かった」

「なるほど、腕っぷしが強いんですね」

 ヴァレンタインは感心した様子でリオを見たけれど、何の自慢にもならない。軍人の体捌きに何一つ敵わない程度の力しかないことは、よく分かっている。リオは謙遜した笑顔を浮かべた。

 ロッテが話し続けている。

「そういう事がウルスラで知れ渡ったから、だからリオは歌えなくなった。あの時、ホログラム・コンテンツ用のボイストレーニングに入ってたって聞いたけど……」

「ああ。あれは、もういいんだよ。終わったことだから」

「あなたがここでホロコンを作るなら、乗るけど」

「それは面白そうだ」

 話に乗ったのはヴァレンタインの方だった。リオはぎょっとして、ロッテとヴァレンタインを交互に見た。

「は?」

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