駒凛様と慎次殿の安寧な令和へと時代を越えて時をつなぐ
悲劇の運命に翻弄される駒姫様へ、神様がくれたひと時の幸せは
最初で最後の令和の切ない恋だった
文禄4年8月7日
令和から文禄の世界に戻り、
駒姫の目の前で撃たれた佐川 慎之介は、
生きていた
「うぅ」
全身に痛みが走った。俺は鉄砲で撃たれて死んだはず
だが、死んでも痛みの感覚があるものなのか?
ここが地獄だとしても、こんな痛みは…
目を開けると木の天井が見える
左に障子の引き戸、右に襖が並ぶ部屋で俺は寝ている
障子からは日差しが入り、外から鳥の声が聞こえて来る
ここは天国だろうか?そんなはずはない
「駒姫様は!」
俺はハッとして起き上がった。まるで生きているかのようだ
俺は元の世界に戻った瞬間、駒姫様の目の前で撃たれ、
駒姫様が斬首されるのを目の当たりにして、死んだはずだ
腹と頭に布が巻かれ、痛みを感じる
この痛みの感覚は・・・俺は生きている
その時だ、侍女と思しき女性が引き戸を開けた
「木俣様!目を覚まされました!」
すると志村様のごとく、
優しき表情の中にも武士の不気味さを持つお方が現れた、
「気が付かれましたか。拙者は井伊 直政が家臣・木俣 守勝でござる
ここは徳川屋敷。秀吉様も容易に手出しはできませぬ
ご安心くだされ
鞘の家紋は削り落とされているが、最上家のご家臣とお見受けいたす」
「かたじけのうございます。ですが、なぜ・・・」
「ご案じ召されるな、伊賀者から聞いておりまする
ご事情を聞きは致しませぬ。今は養生されよ」
「木俣様、お伺いしてもよろしいでしょうか」
「何なりと聞かれよ」
「駒姫様は如何なりましたでしょうか」
「痛ましくも、三条河原にて露と散られた」
『駒姫様も生きている』淡い期待は失われた
「そうですか・・・わたくしも三条河原にて鉄砲で撃たれ、
死んだはずです」
「我らが忍びが助け出し、一命を取り留められたのだ
家康様の命により、隙あらば駒姫様をお救い申し上げようとしたが、
警備が堅く貴殿をお助けできたのも奇跡でござる」
「しかし、勇ましき無茶をされたようですな
歴戦の忍びも呆れておりましたぞ
削られた家紋。ご事情があるようですな。最上家には伝えておりませぬ
貴殿の目はまだ殺気を宿しておられる
生かされた命、無駄になされるなよ」
「わたくしは、
俺は名乗ろうとしたが、木俣様に遮られた
「案ずるな、今は養生されよ。失礼仕る」
聞きたいことはまだあった。『なぜ、徳川様が最上の我らを助けようとした』
『なぜ、鞘の家紋が削られた』『慎次殿は何をしたんだ』
木俣様が帰られた後、刀を確認すると確かに鞘の家紋が削られていた
久しぶりに持つ刀は、傷ついた俺にはとても重く感じた
『これでは戦えない。駒姫様のご無念を晴らすことは出来るのだろうか』
そして、俺は令和から持ち帰ろうとした『プリクラの写真』を探した
ある訳が無かった・・・大切な宝物を失った
駒姫様の遺品は何もない
だが、駒姫様と過ごした令和の世界の思い出は心に深く刻まれている
その思い出だけで俺は生きていける。そして、戦える
そうだ、駒凛様と慎次殿は令和の世界に無事、帰れたであろうか
俺は回復するまで約一か月、都の徳川屋敷で養生させていただいた
まだ痛みは残るが、動けるようにはなった
徳川の方々は俺の素性など、一切聞いてこられなかった
逆に、素性の分からない俺をなぜ、これほどまでに
手厚く世話をしてくれるのだろうか
俺に世話をしてくれる侍女の結様はとても気さくなお方だ
心を閉ざしていた俺は何を聞かれても一つ返事だった
それでも、いつも明るく俺に接してくれた。気を使ってくれた
俺は日毎に心を開き、結様とたわいなき話も交わすようなり、
自ら、身の上話をするようになった
だが、結様はそのことを誰にも言うことはなかった
「日に日にお元気になられますね」
「結様のおかげです。何から何まで、かたじけのうございます」
「失礼とは存じますが、ずっと『あなた様』とお呼びするのも
堅苦しく、わたくしはあなた様を何とお呼びすればよろしいでしょうか」
俺は令和の世界でのことを思いだした
「『慎』と呼んで頂いて、よろしいでしょうか」
「慎殿ですか?よきお名前ですね」
「では、慎殿はおいくつですか?」
「16でございます」
「わたくしより、ひとつ下の16で
あのような勇ましき武勇伝をなされたのですか?
さぞかし駒姫様を慕われ忠義を尽くされていたのですね」
「はい」
『いえ、愛していました』
結様と会話することで、俺が令和の世界にいた間に、
最上家に起きたこと、慎次殿が何をしたのかが分かってきた
最上家が晒された石田 三成の数々の謀略は徳川様を巻き込み、
徳川様は最上家のお味方となり、助けてくださった
だが、秀吉によって駒姫様は殺された
慎次殿は鞘の家紋を削り、一人の男として駒凛様の救出に向かった
『慎次殿は最上家を捨てたのではない。最上家の為に離反して
駒凛様を助けるために、たった一人で斬り込んだ
そして、この世界に戻った俺が撃たれた』
すべてがつながったと思えた
お会いしたことは無いが、慎次殿は無茶なお方だ
だが、駒凛様、いや駒姫様を命懸けで守ろうとしたことに感謝した
間違いなく、俺も同じことをした
『ありがとう、慎次殿。貴殿の無念は俺が引き継ぐ』
秀次様ご謀反に関して、最上家、伊達家は不問となり、
慎次殿の処刑場への斬り込みは、失態を隠したい三成と
徳川様のお力で内々に揉み消された
俺は追われる身ではなくなった
すっかり痛みもなくなり、元気になった俺は『刃こぼれ』だらけの刀を振った
その『刃こぼれ』は慎次殿の激戦を物語っていた
『慎次殿、申し訳ない。平和な時代のあなたを俺の身代わりとして、
危険に晒してしまった』
秋の日差しは優しく、爽やかなそよ風が吹き、庭の草花が揺れ、
小鳥の鳴き声が聞こえて来る
駒姫様と二人で過ごした鴨川での最後の時間を思い出した
その時、木俣様から声が掛けられた
「お元気になられたようでございますな」
「はい、お陰様でしっかり養生させていただきました
感謝してもしきれません」
「ところで貴殿はこれから、如何なされるおつもりか」
「わたくしにはもう、名前も帰る場所も無いようでございます」
「ならば、これから『守田 忠頼』として井伊家に仕えませぬか
井伊家、徳川家の為に努めてくださいませんか」
「木俣様はなぜ、わたくしのような素性の分からない者をかように
よくしてくださるのですか」
「貴殿は阿修羅のごとく、一人で無謀にも主の救出に向かった
武士の鑑じゃ。そして、歴戦の忍びが恐れるほどの太刀捌きと魂
貴殿はその力を生きて天下安寧の世をつくるために使うべきじゃ
他国を侵し、義なき殺戮、秀吉様の天下は長くは続くまい
新しき世のために、一緒にこの時代を駆け抜けようぞ」
俺は木俣様のお申し出を受けることにした。保身の為ではない
「よきお話を頂き、ありがとうございます」
「では、その刀では戦えまい。こちらを進ぜよう」
鞘に井伊家家紋の『井桁』が入っている。井伊家家臣の証だ
刀を鞘から少し抜きだした時、俺は言葉を失った
鍔の少し下の刀身に目立たないように掘られていたのは
『丸に二引両』最上家の家紋だった
「忠頼はこれから井伊家家臣じゃ、
ただ、最上武士の『義』、『心意気』は忘れるな」
「はい!」声を震わせながらも、はっきりと応じた
俺は令和の世界で歴史を知った
まもなく秀吉は死に、関ヶ原で敗れた石田 三成は三条河原で処刑される
豊臣家は滅び、徳川様の時代が400年続く、
戦乱の時代は終わり、安寧な時代が訪れる
秀吉では戦乱の時代を終わらせ、長き安寧な時代をつくることはできない
それが出来るのは、徳川 家康様しかいない
秀頼に恨みはない
だが、駒姫様を殺した秀吉の『天下人を秀頼にする願い』を打ち砕くため
俺は豊臣家を滅亡させる為だけに生きて行く
関ヶ原の最前線に布陣して俺が石田 三成を斬る
大坂の陣であの武将と刃を交え、憎き豊臣家の最期を見届ける
そして、駒凛様と慎次殿の安寧な令和へと時代を越えて時をつなぐ
その為にも、徳川様、井伊様の家臣に俺はなり、この御恩に報いる
この作品は実話に基いたフィクションです
ストーリーの展開上、実際の旧暦と新暦とは一致しません
同作は駒姫様が最期を迎えました。
今日の投稿が駒姫編の章は最後です。
ここから先は完全創作として文禄に戻った慎之介と
令和に戻った駒凛をメインとした
豊臣家への復讐、徳川、井伊家への恩義に生きる
慎之介を書いていきたいと思います。
現在、作成中の為、出来次第、投稿を開始いたします
その際には、お読みいただけると嬉しいです




