駒姫・慎次 あなた様は慎之介様ですか
悲劇の運命に翻弄される駒姫様へ、神様がくれたひと時の幸せは
最初で最後の令和の切ない恋だった
□□□□□ 令和7年9月4日 駒姫 □□□□□
今日、私は京都 三条河原で処刑されます
山形から夜行バスで東京駅に降り立った瞬間、その圧倒的な繁栄ぶりに、
徳川の世から続くこの地の威光をまざまざと感じました
天下人は徳川様でよかったと思いました
ですが、東京の街をぶらつくことなく、足早に新幹線に乗り換えました
私はずっと窓から外を見ていました
人生最初で最後に見る富士山の雄大さは圧巻です
父上のように、優しく、穏やかで威厳がありました
尾張、美濃を越えて、天子様がいらっしゃった京都
わたくしが最期を迎える京都に着きました
今日は令和7年9月4日ですが、
元の世界はわたくしが処刑される日、文禄4年8月2日です
その時までは、まだ時間があります
『このくらい、神様はお許しくださいますよね』
私は『武士の鑑』と言われた坂上田村麻呂様ゆかりの清水寺から
八坂神社など、寺社巡りや京都の街を楽しみました
この世界、人生最後の我儘です。お許しください
そうだ、この世界の駒凛様は将来、京都の大学に来られるのですね
慎と二人で来れるといいですね
『さて、時間です。参りますか』
京都も暑い太陽が照り付けています
四条から鴨川沿いを歩き、三条河原が見えてきました
『ここですね。430年前にわたくしが処刑された場所は』
すると三条大橋のたもとに座っていた見覚えのある男性が
わたくしに気が付き、近づいてきてひざまつきました
「やはり、こちらに来られると思っておりました。駒姫様」
「慎・・・なぜ、あなたがここに」
「あなた様は慎之介様ですか」
「はい、慎之介でございます。これまでの数々のご無礼をお許しください」
「では、慎之介様は駒凛がわたくしだと気が付きながら、
ずっと慎として振る舞っていたのですか・・・」
「申し訳ございません」
「慎之介様・・・なぜ、打ち明けて下さらなかったのですか?」
「わが家は貧しく、身分が低く、わたくしごときが
駒姫様とお話しすることなど許されません
身分が違いすぎます」
「そんな・・・」
「それが我らの生きる時代です。わたくしが慎之介である限り、
たとえ、この世界であっても駒姫様とこうしてお話しする事は憚れます」
慎之介様の言葉に、姫であるわたくしは言葉に詰まりました
『自由の無い元の世界であっても、わたくしの立場は恵まれていた』
「わたくしは不忠者でございます。愚か者でございます
わたくしは慎之介という名を捨て、身分を隠し
ずっとお慕い申し上げていた駒姫様、
駒凛と一緒に、慎次としてこの世界で生きて行きたいと思いました」
「わたくしも同じです
慎之介様をずっとお慕い申し上げておりました」
「ですが、叶わぬ夢でございました。この人生は慎次殿の人生です
人の幸せを奪い取るなど、最上武士として義に反することは出来ません
ただ、この世界にいるひと時だけ、神様が慎次殿の幸せと時間をお裾分け
くださっているのだと思い、駒凛様と過ごして参りました」
「同じです。わたくしもです。
ただ、なぜ慎之介様はここにわたくしが来ると分かったのですか」
「この世界に来てまもなく、駒姫様の運命を知りました。
駒姫様の心に慎次殿として寄り添おうと思いました
駒姫様も聞かれたであろう『六椹八幡宮で神様のお声』、
『カラオケで銃声』をわたくしも聞きました
そして、駒姫様はご自分の運命を知られた。
駒姫様なら過酷な運命をご自身のお役目として受け入れる。
元の世界に戻り、駒凛様をお救いする為に8月2日。
いえ、この世界の9月4日に京都 三条河原に来られると
確信しておりました」
「わたくしのことは、何でも分かるのですね」
「お願いがございます。家臣として駒姫様のお供をさせてください
わたくしが必ずや駒姫様をお救い申し上げます」
「駒凛様、慎次様のこれからの時間と幸せをともにお返しいたしましょう
ですが、慎之介様は生きてください。慎之介様は死を覚悟されていますね」
「わたくしの命はすでに駒姫様に捧げております
駒姫様の居ない世界に、わたくしの居場所はございません」
「無駄死にはしてはなりませぬ!いずれ豊臣家は滅び
徳川様の時代になります
慎之介様に最上武士として義の心があるならば、
徳川様と共に、この世界のような安寧な時代をつくってください」
「わたくしの心が駒姫様と共に逝きたいと申しております!」
「まだ分かりませぬか!では、主として申し伝える!
生きよ、それがそなたの務めである!背くこと、まかりならぬ!」
慎之介様は悲しい表情で言われました
「ならば、せめて許されるならば、あと少し時が来るまで
駒凛と慎次として、時を過ごさせていただけませんか」
二人は三条大橋の日陰に座り、
私は慎に体を預け、慎は優しく支えてくれました
ただただ、鴨川の流れを見ながら、時に見つめ合って微笑み
無言のまま、まもなくやってくる時を待ちました
□□□□□ 文禄4年8月2日 慎次 □□□□□
俺は早朝に最上屋敷に別れを告げ、裏口から抜け出ようとした
だが、そこには志村様がいた。俺の心はお見通しだった
「慎之介、来ると思うておった。どうあっても行くか」
「はい、志村様。武士の情け、ここは通していただけませんか」
お互いに腰の刀に手を掛けた時だった
志村様が家紋を削った俺の刀の鞘に気が付かれ、言った
「後戻りは出来ぬぞ、死ぬ覚悟は出来ておるのか」
「はい、わたくしはもはや一介の浪人です。失うものはございません
ただ、最上家に禍が降り掛からないか。それだけが心残りです」
「案ずるな、豊臣家が仕掛けて来たら、その時は我らも戦う」
「志村様・・・」
「ゆけ!慎之介、本懐を遂げよ。駒姫様を頼む!」
「志村様、ありがとうございます。この御恩は忘れませぬ」
「はて、そなたは誰じゃ?ここは最上屋敷。立ち去れ」
『さすが喜兵衛が見込んだ、よき若者じゃ。だが、死ぬでないぞ』
俺は涙を流しながら、都大路に向かいそこに潜み、時が来るのを待った
この作品は実話に基いたフィクションです
ストーリーの展開上、実際の旧暦と新暦とは一致しません




