駒姫様 令和7年8月17日 高校生の駒凛
悲劇の運命に翻弄される駒姫様へ、神様がくれたひと時の幸せは
最初で最後の暑い夏の恋だった
令和7年8月17日(文禄4年7月15日)
今日は少し憂鬱な朝を迎えました
もう少し、この世界にいることを神様にお許しいただいた
喜びと安心感はあるのですが、
夏休みは後半を迎え、明日から剣道部の練習が始まり、
翌週からは駒凛様が通われる高校の2学期が始まります
私は、薙刀なら少し習ったことがありますが、
剣術の経験はありません
高校には自転車という乗り物で通います
私がこの世界で駒凛様であるには、
インターハイ準優勝の剣道の達人であり、
自転車に乗れなければいけません
練習するには今日しかありません
元の世界でお茶やお花など、いろいろなお稽古を散々、やってきました
やりたいことができず、意に反したお稽古はうんざりでした
澪にお願をして自転車と剣道の練習に付き合ってもらいます
午前中は公園で自転車の練習をして、
午後は慎の家の道場を借りて剣道の練習です
澪は9時に私の家に来てくれ、一緒に近くの公園へ行きました
「考えたんだけど、意識は駒姫様でも体は駒凛のままでしょ」
「たぶん・・・」
「だったらさ、剣道や自転車の乗り方は体がお覚えているんじゃない?
推測だけど」
「だったらいいんだけど」
「ちょっと待って!」と言って、私は祖母に電話をしました
祖母なら何か分かるかもしれない
「う~ん、さすがに分からないけど、
可能性はあるわね、例えば、剣道をするとき、自転車に乗るとき
駒姫様の意識を消すの。つまり、無になるの。
もしかしたら、条件反射的に体が動くかもね」
「ありがとう!やってみる」
私は、手綱で馬に指示を出すことは知っていますが、
自転車と馬は全く違います
ペダルを自分でこいで、ハンドルを操作して方向を変えます
何ですか、これは?
最初は、後ろから澪に支えてもらってペダルをこいでみましたが、
上手く行きません
自転車がフラフラして怖くて、ハンドルが言うことを聞いてくれません
おかげで無になることが出来ません
すると、私たちの近くでお父さんと自転車に乗る練習をしていた
5、6歳くらいの女の子が私に話し掛けて来ました
「お姉ちゃんも自転車の練習をしているの?
私と一緒だね。どっちが早く乗れるようになるか競争しようよ」
私はこの世界に来て初めて自転車を知りました
でも、幼い子に負ける訳にはいきません
競争です!
私も女の子も最初は支えてもらいながら、フラフラ走るのがやっとでしたが、
次第に、二人ともフラフラせずに走れるようになりました
そして、澪に後ろから支えてもらいながらも、真っすぐ乗れました
「ねえ、澪!絶対に手を離さないでよ」
「分かってるよ、大丈夫!大丈夫!」
「見て、澪。乗れてるよ。今曲がれたよね!」
「あれ?」
後ろに澪が居ません
少し離れたところで澪が大笑いしています
「ほら~、一人で乗れるようになったじゃない
凄い!凄い!もう大丈夫だよ」
私は無にならなくても、自分の力で乗ることができました
女の子は私より早く乗れるようになったみたいで、
お父さんとお菓子を食べていました
そして、私が乗れるようになったのを確認して駆け寄ってきました
「お姉ちゃん、私の勝だよ。でも、乗れるようになってよかったね」
このお稽古は意外と楽しい時間になりました
楽しいお稽古もあるのですね
夏の強い陽射しの中、お互いよく頑張りました
私は、女の子と公園での再会を約束して、
ファミレスで昼食を取り、そこで剣道の基本的な知識を教えてもらいました
知らない人同士が同じ空間で食事をすることにも、私は慣れていました
しっかり剣道の知識を記憶して、慎の家の道場へ行きました
そこには、剣道着に着替えた慎と、慶までいました
なんで慶を呼ぶのよ!バレるでしょ!
「お、来た!来た!待ってたぜ、休みの日に練習なんて、
駒凛、やる気満々だね」
と笑いながら言った慎が、この時ばかりは憎らしく見え、
私はプイっと視線を外しました
『慎、あなたはいいよね!例え、あなたが慎之介様だったとしても
剣の達人だから、何もしなくていいけど!
まあ、慎なんだろうけど
未経験の私は1日でインターハイ準優勝の女剣士にならなきゃいけないのに
笑わないで手伝ってよ』
心の中で毒づきながら、私は澪と更衣室へ行きました
そんな心の叫びを抑えて、私と澪は剣道着に着替えました
こんなにもたくさんの種類の道具を身に着けるのですね
私と澪は道場に一礼して入りました
道場は静寂につつまれ、暑いはずなのに冷ややかな感じです
そこに居る慎は、元の世界で父上や家臣の方々から感じた武士の佇まいでした
すると、その雰囲気を壊すかのように慶が茶化してきました
「遅いよ~、しばらく休んで着方を忘れたか~」
「地区予選1回戦ボーイのあんたが、全国準優勝の剣士に何を言ってんのよ」
「それを言うか~」
と澪が敵をとってくれました
今年の総体の結果は、慎は全国2連覇、駒凛様は全国準優勝、
澪は県大会3位で惜しくも全国を逃し、慶は1回戦敗退です
私でも慶に勝てるかも
最初は、基本的な足さばきや素振りして、
次は、澪に教えてもらった通り防具を付けます
そして、面を付けようとしたところ・・・
「臭い!」
嗅いだことはありませんが、1か月前の汗が腐ったような
刺激が強い酸っぱい悪臭に耐え切れず、声に出てしまいました
「何、言ってんの、それ自分の匂いでしょ。我慢しなさい」
と澪は厳しく言ったものの、ファブリーズを取りに行って
面の内側に掛けてくれました
ファブリーズが乾くのを待って、面を付けました
慶が何かを言いたそうでしたが、澪がブロックしてくれています
さて、練習です!
最初は事情を知っている澪と練習というか、教えてもらいます
慶では慎の相手にならず、慶はどこかへ行ってしまい、
慎が真剣な眼差しで私を見ています
私と澪は向かい合い、1日で全国準優勝レベルへ練習開始です
「ヤー!」「トー!」とか、澪に聞いた通り、
それらしい声を出していると、澪は容赦なく面を打ち込んできました
私は思わず「きゃぁ!」と叫んでしまいました
慎が「メンあり!」と判定して
「さすが駒凛だな。でも、あの『きゃぁ!』はフェイントか?
試合ではやめとけよ」
「え?」
初心者の私が澪からメン1本をとったようです
私は、猛将で知られる志村様が父上とお話をされていたのを思い出しました
『不意打ちを喰らっても自然と体が動いて応戦している』
そうです!私の不安をよそに、駒凛様の体が条件反射のごとく
鋭い一撃を入れていたのです
その後、慎と対戦しましたが、慎にはまったく敵いません
駒凛様でも勝てないようです
すると、慶が一人でアイスを食べながら帰ってきました
コンビニで自分の分だけを買って来たようです
調子に乗った私はいつも茶化してくる慶を懲らしめてやることにしました
「慶、私と試合をしようよ」
「まてまてまて、いくら一回戦ボーイでも女子には負けないぜ」
「じゃあ、負けた方が『全員分のアイスをお奢る』でいいよね」
「え~、俺は食ったばっかりだぞ。まあ、暑いからいっか。駒凛の奢りだし」
「じゃあ、決まりね」
澪と慎は笑いを堪えていました
美味しくアイスをみんなで頂きました。慶の奢りで
少し強めの面で懲らしめてやりました
あと、もう面は付けたくないと思いました
駒凛様、申し訳ございません
臭いです
この作品は実話に基いたフィクションです
ストーリーの展開上、実際の旧暦と新暦とは一致しません




