第3話オカン
ソトナカ:「うわ。最悪。」
タニヤマ:「顔が?」
ソ:「それはいつものことやけど。いや、ちゃうわボケ。オカンがこっち来とるらしいねん。」
タ:「東京に?そらなんでまた。」
ソ:「わからん。アパートの住所知らんはずなのに。」
タ:「なんで親が息子の居住地を知らんねん。俺とルームシェアしてるの言ってないんか?」
ソ:「ルームシェアとか言ったら、やらしいことしてると勘違いされそうで…。」
タ:「なんで男同士でそういう発想になるねん。」
ソ:「うちの親、多様性に理解あるから。」
タ:「一周まわって誤解してんのよ、それは。」
ソ:「あー、嫌だ。会いたくない。」
タ:「別に会ってあげるくらいええやん。そんな嫌な親なん?」
ソ:「そういうわけじゃないけど…。」
タ:「てか、お前の親ってどんな感じなん?お前に似てんの?」
ソ:「そうだなぁ。まあ、何がとは言わんけど、でかいな。」
タ:「は?」
ソ:「だから、でかい。」
タ:「お前…。親の特徴として最初にそれを挙げるか?普通。」
ソ:「別に、特徴やしええやろ。」
タ:「いや、お前がええって言うならええけど…。」
ソ:「他の内面的な話だと、よく親父にお前は独占欲が強いって言われてたな。」
タ:「ほぉう、それはそれで…。」
ソ:「あと俺の子育てがひと段落してからは、教師として復職したらしい。よく知らんけど。」
タ:「でかくて、○○で、教師…。」
ソ:「あと、めっちゃ息臭い。」
タ:「あんま親に言ってやんなよ、それ。…うわ、最悪。」
ソ:「顔が?」
タ:「いや俺のディス盗んなよ。バイト先からヘルプ来れないか連絡来たわ。ちょーだるい。」
ソ:「別に断ればええやん。」
タ:「断りたいけど、うちの店長の激務さ見てたらなぁ。あの人そのうち過労死しそうやねん。」
ソ:「居酒屋なんてそんなもんやろ。」
タ:「いやまあそうかもしれんけど…。あーもういっそのことスパっと辞めたいわ。」
ソ:「ええやん。辞めたらええやん。」
タ:「お前、簡単に言うけどさぁ。」
ソ:「真面目な話。人生の、特に若い頃の時間は有限かつ貴重やん。例えば、時給1200円で毎月75時間働いたとしたら月に9万儲けられる。それを大学4年間続けてたら432万。でも、これって4年間必死に頑張っても社会人の年収の中央値レベル程度しか稼げんってことやん。要は搾取されとんねん。俺なら自分の時間を安売りする気はない。もっと有意義なことに使う。」
タ:「じゃあ余った時間で何すんの?」
ソ:「最近はゲームしとるな。」
タ:「なんの?」
ソ:「オーバークック」
タ:「それほぼバイトやんけ!金もらえてる分バイトの方がマシやろ。」
ソ:「てかなんで急に辞めたいって思い始めたん?先月まで楽しい楽しい言うてたやん。」
タ:「なんか最近、変なババアの客がほぼ毎日いてな。そいつの接客が死ぬほど嫌やねん。」
ソ:「どんなババアなん?」
タ:「う~ん、とにかく態度がでかい。店員にため口やし、注文ミスったら怒鳴り散らすし。」
ソ:「ほお。」
タ:「あと、めちゃくちゃ店員呼びつけるんだよなぁ。あのババアがおると、ホストクラブみたいに誰かひとり担当つけなきゃならんくなる。」
ソ:「…ほお。」
タ:「あとなんか、説教のときに『1点減点!』とか言ってくるの。あれマジうざいんだよなぁ。教習所かよ。」
ソ:「…。」
タ:「どした?」
ソ:「それ…多分うちのオカンや。」
タ:「は?」
ソ:「いや、さっき俺が言ってた特徴とガッツリ合ってるやん。」
タ:「いやいやいや。え?マジ?」
ソ:「マジマジ。まず、態度がでかいやろ。」
タ:「あ、でかいって態度のこと⁉」
ソ:「それ以外ないやろ。なんやと思ったん?」
タ:「あ、いや、それは…。」
ソ:「あと、独占欲が強い。店員を自分の担当のように扱うのも、俺のオカンならやりそうではある。」
タ:「うぅん。思ったのと違う。」
ソ:「あと、『1点減点!』というセリフ。うちのオカン教習所で働いてるから言いそうや。」
タ:「いや教習所で働いてるのを教師とは言わんやろ!さっきからめちゃくちゃミスリード誘っとるやんけ!」
ソ:「あと、そのババアめっちゃ息臭いやろ。」
タ:「うん、めっちゃ臭い。」
ソ:「うん。」
タ:「…。」
ソ:「…。」
タ:「…そこは言葉通りなんかい。」
ソ:「とりあえず、オカンに連絡するわ。お前のバイト先に迷惑かけんように。」
タ:「ああ。マジで頼むわ。」
ソ:「ええと、『俺の大事なツレに迷惑かけんな』…と。」
タ:「いや、やらしい風に勘違いされそう。」